第105話:ガルボパーティ

「――はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……くっ、なんでこうなったんだ」


 肩で息をしながら、ガルボは悪態をついている。その後ろでは疲れ切った表情でフレイアとフォルトがついてきていた。


「戻るも地獄、進むも地獄とは、このことね」

「進んだところで戻れないんですから、さっさと戻るべきなんですけどね」

「そんなことは分かっている! だが、今の俺たちでは戻ることも難しいだろう」


 すでに野営をするための道具は捨てている。今は全員が杖と携帯食料と水筒しか持っていない。

 そして、携帯食料も水も底を尽きかけていた。


「だったら、なんで先に進んでるのよ。ここは一四階層でしょ?」

「……キリアン兄上から聞いたことがあるんだが、一五階層は魔獣が存在しない特別な階層になっているらしい」

「えっ? そんなの、聞いたことないわよ。フォルトは?」

「僕も聞いたことはありませんね」

「そうだろうな。キリアン兄上もそこまで来れる生徒が現れると思ってなかったんだろう。聞いたのも屋敷でだったしな」


 キリアンのパーティは二三階層まで到達できたのだが、他のパーティは一〇階層に到達するのが精一杯だった。

 兄弟には頑張ってほしいという想いを込めてキリアンはガルボにだけ一五階層の情報を伝えていたのだろう。


「だが、そうだとしても今の僕たちが到達できると思うのか? それに、おかしいくらいに特殊個体が多すぎるこの状況で」

「それしか、手がないだろう。戻るにも、特殊個体を相手にするのは同じことなんだ。一〇階層以上を戻るよりも、一階層下を目指す方が確実だと判断した」

「でも、一五階層が魔獣の出ない階層だとして、そこからどうやって戻るつもりなの?」


 もし魔獣がいない階層なら殺される心配はなくなるが、地上に戻ることができなければ意味がない。結局、餓死してしまうかもしれないのだ。


「俺たちが長い間戻らなければ、捜索隊が結成されるはずだ。その助けを待つ」

「でも、一五階層まで来てくれるかしら」

「ここまで来れるパーティの方が少ないんじゃないか? 先生がいたとしても、それだけの実力者がユージュラッド魔法学園にいるかも分からないじゃないか」

「……そこはもう、賭けだな」


 ガルボもこのような賭けには出たくなかった。勝率で言えば、二桁あるかないかだろう。

 だが、一〇階層以上を戻る方が勝ち目が薄いと判断しての決定なので、これが最善の策だと信じてもいる。


「……二人には、本当に悪いことをしたと思っている。俺の我儘に付き合わせて、こんなにも危険な目に遭わせているんだからな」


 あまり弱気な発言をしないガルボから飛び出した謝罪の言葉に、フレイヤとフォルトは顔を見合わせる。そして――


「まあ、今さらだよね」

「そうですね、今さらですね」

「……お、お前たちなぁ」

「本当にそう思っているなら、無事に地上に戻ったら弟君にガルボの本当の気持ちを伝えてあげることね」

「それがいいでしょう。でないと、また同じことを繰り返しそうですから」


 ガルボは振り返ることはしなかったが、頭を掻く仕草を見せたことで二人は苦笑を浮かべている。

 ガルボが頭を掻く時は照れているということであり、アルに本音を伝えることを真剣に考えているということだった。


「……要検討だな」

「「絶対に伝えろ!」」

「……分かった、分かったよ! ったく、それを伝えたからって何も変わらないと思うがな」

「いーや、弟君はきっと賢い子だから、すぐに理解してくれるはずよ」

「Fクラスで七階層まで来られるんだから、知識がなければ無理だろうね」

「だったら俺はどうなるんだよ!」

「ガルボに足りないところを、僕たちが補っているんじゃないか」

「そうよそうよー!」


 ようやく振り返ったガルボだったが、二人に助けられ、支えられていることを自覚しているガルボは何も言えずに再び前を向いた。

 そして――突然立ち止まった。


「……なあ、あれって、階段だよな?」

「……よ、ようやく、一五階層かぁ」

「ちょっと待って! う、後ろから、魔獣の群れが!」


 ガルボとフレイヤが安堵の声を漏らした直後、フォルトから悲鳴にも似た声があがる。

 振り返った二人が見たものは、特殊個体が引き連れてきた二桁を超える魔獣の群れだった。


「は、走れ!」

「嘘でしょ!?」

「あれが嘘なら、どれだけ嬉しいでしょうねえ!」

「無駄口はいいから、急げ!」


 駆け出した三人は魔獣と追いかけっことなり、転がり込むようにして階段を転げ落ちていった。

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