第102話:ダンジョン・九階層

 九階層では特殊個体と遭遇することになった。

 以前に対峙しているブラックウルフだけではなく、カンフーモンキーやヴィルパイソンの特殊個体までが一気に押し寄せてきた。

 ただ、ブラックウルフに関しては以前よりも小さい個体であり、残る二匹の魔獣に関しても特別大きな個体ではなかったので、アルはペリナへ足止めに専念するように指示を飛ばす。


「ア、アル君はどうするのよ!」

「もちろん、斬ります!」


 三匹の中では小さい個体であるカンフーモンキーへ肉薄すると、弧閃を放ち反撃の機会すら与えることなく首を刎ねる。

 その間にペリナがアースウェーブを放ち残る二匹の足を止めた。

 やはりアルだけは沈むことなく歩みを進めていき、返す刃でブラックウルフの喉を斬り裂く。

 三匹の中で一番巨大であるヴィルパイソンに対しては斬鉄の刃が通らないと判断して魔法を発動。

 リリーナが倒した時のようにウッドロープで首を締め上げると、しばらくして動かなくなったのを確認すると一息ついた。


「ふぅ……終わりましたね」

「全く、アル君だったらソロでここまでこれそうだね」

「いやいや、それはさすがに無理ですって」

「……まあ、ダンジョンだもんね。失言だったわ、今のは忘れてちょうだい」


 チグサの言葉と似たことを言われてドキリとしたが、ペリナは教師という立場からアルが本当にソロで潜らないようにするために失言だと笑っていた。

 危険を冒すつもりはないのでソロで潜るつもりはないのだが、いつかは剣術を用いたうえで挑戦したいという気持ちもあったりする。

 しかし、ここでその発言をするわけにもいかずに苦笑するにとどめた。


「しかし、本当にどうして特殊個体がこんなに現れたんですかね」

「何か理由があるとは思うんだけど、過去の例を見ても共通点がねぇ……アル君も何か気になることがあったら些細なことでもいいから教えてね」

「分かりました」


 ペリナはこの機会に共通点を見つけたいとも考えていた。

 それが学園のダンジョンだけではなく、全国のダンジョン攻略に役立つだろうと信じている。

 その点に関してはアルも理解を示しているのだが、現時点では特におかしなものはないので首を捻るばかりだった。


「……また、来ましたね」

「あれも特殊個体かぁ。……しかも、でかいわね」

「あれは、ロックゴーレムですね」


 巨岩に意思が宿り、長い年月を得てその身を削り動ける形になったとされるロックゴーレム。

 これはダンジョン内でも同じだと言われており、さらに人が訪れることも少ない正規ルートを外れたところで育つことが多いことから、ダンジョンで遭遇するロックゴーレムは特殊個体でなくても強敵になるとされている。


「ロックゴーレムの特殊個体って、さすがの私も呆れるわ」

「斬鉄の刃も届くかどうかですね」


 三メートル超の体長であり、外皮は硬質な岩石で覆われている。

 レベル1やレベル2の魔法では岩石に弾かれ、斬鉄の刃では傷つけることはできても刃長が足りずに致命傷を与えることはできない。

 どうするべきかと考えている時間もなく、二人を視認したロックゴーレムが巨体を揺らしながらゆっくりと近づいてきた。


「魔力の温存は必要ですが、ここは一発でかいのを叩き込みます」

「大丈夫なの?」

「大丈夫とは言い難いですが、ここで倒れるのが一番最悪ですからね。それと、これも誰にも言わないでくださいね?」

「……わ、分かったわ」


 いったい何をするつもりなのかと思いながら、ペリナは一歩下がってアルとロックゴーレムを見つめる。

 アルは半身になり、右手で斬鉄を突き出して魔法を放つ媒体として切っ先をロックゴーレムに固定した。


「魔力融合、貫け――ファイアボルト!」


 ブラックウルフに放った範囲を優先させたファイアボルトではなく、威力を優先させて一点突破で極細のファイアボルトが斬鉄の切っ先から放たれた。

 彼我の差は一〇メートル以上あったのだが、ファイアボルトは一秒と掛からずにロックゴーレムに着弾すると、わずかなのけ反りを与えただけでその後方の森に爆発を巻き起こした。

 鋭い一撃はロックゴーレムの硬質な外皮を貫き、的確に心臓の中心を撃ち抜いていた。

 わずかなのけ反りから巨体がゆっくりと後方へと倒れていき、木々をなぎ倒しながら横たわると膨大な砂煙が巻き起こった。


「……まさか、魔力融合まで? それもこの威力って、レベル1が出せる限界を越えてない?」

「これも、絶対に言わないでくださいね?」

「……善処します」

「絶対に、ですよ?」

「……はい」


 振り返ったアルの笑顔に恐怖を感じながら、ペリナは大きく溜息をついたのだった。

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