第101話:ペリナの魔法
八階層に進出して早々に魔獣の襲撃を受けた。
特殊個体ではないにしても、その数が明らかに先日訪れた時に比べて倍以上になっておりアルも驚いていた。
だが、その驚きも一瞬のものでありすぐに臨戦態勢を整えて斬鉄を構える。
「ふっ!」
瞬歩の技術により群れの中に飛び込んだアルは、すれ違いざまに斬鉄を振り抜いていくと、首を刎ね、胴を斬り裂き、頭蓋を貫いていく。
その動きはまるで舞を踊っているように見える者もいるだろう。それくらいに洗練された動きであり、無駄が一切ない完璧な剣術だった。
自分でも実戦経験は同期に比べて豊富だと思っていたペリナですら、その姿にしばらく目を奪われてしまったほどだ。
「スプラウスト先生!」
「あっ! ご、ごめん、それじゃあいくわね!」
アルの呼び掛けで我に返ったペリナは自らの心の属性である土属性の魔法で魔獣の動きを封じていく。
「アースウェーブ!」
レベル3から使えるようになるアースウェーブは、地面を液体上に変化させて沈めることで動きの自由を阻害する魔法。
魔力操作によってその範囲は広がっていくのだが、今回ペリナが使ったアースウェーブは目の前に殺到している魔獣全てを範囲内に収めていた。
「アル君、下がって!」
「もう下がってますよ」
「うわあっ! ……は、早いわね」
「というか、使う前に指示してくださいよ。俺じゃなかったら巻き込まれてましたよ?」
「……ご、ごめん。あれ、でもどうして私がアースウェーブを使うって」
「それじゃあ、俺は止めを刺してきますね」
「ちょっと、アル君! まだ魔法の効果が続いている――えっ?」
言葉半ばで飛び出してしまったアルに忠告しようと大声をあげたペリナだったが、目の前でアースウェーブに沈むことなくその上を動き回るアルを見て目を見開いてしまった。
「……えっと、何が起きているのかなー?」
そんな状態のままアルが魔獣を討伐するまでの時間を過ごしたペリナだった。
数分後、魔獣の討伐を終えたアルが戻ってくるとペリナから質問攻めにあってしまった。
「ちょっと! なんでアースウェーブの上を歩き回っていたのよ! っていうか、その前の質問にも答えてないわよね! どうして私が使う魔法に気づいていたのよ!」
「お、落ち着いてください、スプラウスト先生! 今は先にガルボ兄上たちを探すのが先決ですから!」
「ぐぬっ! ……戻ったら、絶対に教えてちょうだいよね!」
「……分かりました」
今回に関しては逃げられないと悟ったアルは嘆息しながらも素材はしっかりと回収していた。
「ちゃっかりしてるのね」
「せっかくですから。それに、少しでも確保してヴォレスト先生に渡しておかないと、学生の間にアイテムボックス分の素材を渡せないかもしれませんから」
もちろん時間は掛けていない。討伐しながら価値のありそうな部位だけをついでに剥いでいたのだ。
残りはもったいないが燃やして灰にしてしまう。
「一緒に行動するわけですから、スプラウスト先生の魔法属性を聞いていてもいいですか?」
「それもそうね。私は土属性がレベル4、火属性がレベル3、闇属性がレベル1だね」
「闇属性も持っているんですね。……ちなみに、使ったことってあるんですか?」
「ふっふふー……聞きたい?」
何やら不敵に笑ってそう聞いてきたペリナに対して、アルは顔を引きつらせながら首を横に振った。
「何よその顔は。使ったことはあるけど、あくまでも練習だけよ。ちゃんと相手の許可を得て、どんな魔法を使うかを教えてから使ったわ」
「……な、なるほど」
「闇属性は忌避されることが多いからね」
「みたいですね。でも、冒険者になるなら使えて損はないと思うんですよねー」
「……えっと、アル君は闇属性も学びたいの?」
エミリアと同じ反応をされてしまい苦笑してしまったアルは、その理由を伝えて自分のためだと念を押した。
「確かに、自分に使われた時に闇属性を理解していれば対抗もできるけど……でも、表立って教えるのも難しいのよねー」
「でしたら、さっき見せた俺の秘密を教える代わりに、極秘裏で教えてくれませんか?」
「えっ! だって、さっきは分かりましたって言ってくれたじゃないのよ!」
「うーん、よく考えたら無償で教えるのももったいないかなって」
「……その商人根性はクルルさんから学んだのかしら?」
嘆息しながらそう口にしたペリナだったが、アルの秘密を知れるという誘惑に勝つことができなかったのかしばらくして頷いていた。
「……場所の準備ができたら声を掛けるわ」
「ありがとうございます」
「さーて、それじゃあさっさとガルボ君たちを見つけてさっさとダンジョンを出るわよ! アル君の魔法が気になって仕方ないんだからね!」
「ガルボ兄上たちを早く見つけるということに関してだけは同意します」
特殊個体の魔獣に遭遇することなく発見した九階層へとつながる階段。
アルは頭の中で正規ルートになる道順をマッピングすると、休むことなく九階層へと下りて行った。
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