第100話:本音と本気

 ダンジョンへ向かいながら、アルは一つの疑問を口にしていた。


「念のために確認なんですけど、どうして俺は同行を許されたんですか?」

「それはアル君の実力が下層にも通じると学園長が認めたからよ」

「ヴォレスト先生がですか?」

「一昨日の時点で八階層まで潜っていることと、模擬戦とはいえ私に勝ってみせたでしょう? それに、入学試験で学園長のいたずらに気づいたのもアル君だけだったしね」


 答えを聞きながら、実は色々なところでやらかしていたのだと気づいたアルは手で顔を覆ってしまう。

 その様子に苦笑しながらも、ペリナはこれからのことについて説明していく。


「ダンジョンに潜ったら、正規ルートで一気に下層を目指します」

「俺は八階層までしかルートを知りませんが、スプラウスト先生はご存じなんですか?」

「……いえ、分からないわ」

「えっ! そ、そうなんですか?」

「私は元々ユージュラッド出身の魔法師ではないからね。ユージュラッド魔法学園のダンジョンには潜ったことがないのよ」

「そうなると、九階層からは攻略をしながらになるってことですね」


 それも特殊個体の相手をしながらと考えると、相当に気が滅入る捜索になるかもしれない。


「上級生で、下層まで進んでいる生徒を同行させられないんですか?」

「私も上の学年の担任に願いしたんだけど、実力者は自分たちの捜索隊に加わらせると言って断られたのよ」

「……人の命が懸かっているってのに、貴族は本当に自分が大事なんですね」

「そういうアル君も、下級貴族なんだけど?」

「……中級や上級貴族がってことですね。リリーナも下級貴族ですけど、とても優しいですし」

「あら、アル君はリリーナさんみたいな子がタイプなのかしら?」

「こんな時に冗談はやめてくださいね」

「はいはい」


 しかし、これではガルボを探すにも時間が掛かってしまうと判断したアルは、頭の片隅でマッピングされた地図はこういう時にも必要だなと改めて確信する。

 ダンジョンの入り口に到着すると、すでに複数のパーティが潜ったのか多くの足跡が残されていた。


「遅くなりました、学園長」

「全くだ、ペリナ。ゾランはどうでもいいが、ノワール家の次男は助けださないといけないんだ、急げよ」

「すみません、ヴォレスト先生」

「アルも来てくれたか。全く、私が潜れれば一番早いんだが、貴族出身の教師たちに押し止められてしまってな」

「あー、評価を横取りされたくないって感じですか?」

「……お前は本当に勘が鋭いな」

「誰でもそう思うと思いますよ」


 すでに準備を終えていることもあり、二人は会話もそこそこにダンジョンへと足を踏み入れる。


「気をつけろよ! ペリナ、アルのことを頼む!」

「任せてください、アミルダ先輩!」

「だから、学園長だ!」


 ペリナのすごいところは、こういう時でも明るく振る舞おうとするところかもしれない、アルは内心でそう思っていた。


 ※※※※


 アルを先頭に、二人は七階層までの道のりを一気に進んで行く。

 戦い方は魔法のみで、ここまでは剣術を隠して進んできたのだが、ここから先はそうもいかないだろう。

 ブラックウルフの特殊個体を倒した時にも感じたことだが、特殊個体となればその実力が数倍にも跳ね上がるため、実力を隠して生き残るにはあまりにもリスクが高すぎる。

 故に、アルは八階層へ下りる前にペリナにこんなことを提案した。


「アル君の戦い方を、周りに漏らさないでほしいですって?」

「はい」

「でも、昨日は他の生徒にも教えていたじゃないのよ」

「あれは、半分が本当で半分が嘘です」

「……なるほど、隠している戦い方があるってことね。でも、どうして隠すの? 別に教えても減るものじゃないでしょう?」

「まあ、平民や下級貴族の子が多かったので問題はないと思うんですけど、あまり上の方からは推奨される戦い方ではないので」


 そこまで口にすると、ペリナも合点がいったのか苦笑しながらも頷いてくれた。


「まあ、リリーナさんとクルルさんに見せたアクセサリーの形を見たら、ある程度の予想は立つけどね」

「ありがとうございます。できれば、魔力も温存しておきたいので」


 ここまではレベル1の魔法で一撃必殺を狙い無駄な魔力は消費せずにやって来たが、八階層からは魔力を大量に消費する魔法も必要になるかもしれない。魔力融合を使うとなればなおさらだ。

 体力には自信があるアルとしては、剣術で戦えた方が何かと都合がよかった。


「それじゃあ、攻撃をアル君、私は援護に徹しても問題はないのかな?」

「構いません。それに、とある方からお墨付きももらっているので」

「とある方? ……レオン様とか、ラミアン先輩ですか?」

「内緒です」


 アルが言っているとある方というのは、元冒険者であるチグサのことだった。

 チグサはアルの実力を見て、はっきりとこう口にしている。


『——アルお坊ちゃまなら、下位のダンジョンであればソロで攻略もできるでしょう』


 ダンジョンにもランクが存在している。

 最低がランク1、最高がランク10。

 下位に属するのがランク1からランク4、中位に属するのがランク5からランク8、上位に属するのがランク9とランク10である。

 下位のダンジョンとなれば深い階層であっても二五階層が最高と言われている。

 学園所有のダンジョンが下位なのかどうかは分からないが、それでもアルが全力を出すことができれば現時点でキリアンが卒業時点で到達した二三階層にも到達できるかもしれないのだ。


「とある方が気になるけど、それじゃあ攻撃は任せるわね」


 この後、ペリナは愕然とすることになる。

 本気を出したアルの戦い方を見て、アミルダに漏らさずに過ごすことができるか心配になってしまうから。

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