第99話:予想外の事態
学園に到着したアルは、何やら職員室が騒がしくなっていることに気がついた。
しかし、ここで変に目立っている自分が顔を出してしまうと面倒に巻き込まれそうだと思い素通りして教室へと向かう。
だが、教室でも生徒たちが騒がしくしているのを見つけると、さすがに何が起きているのかが気になり始めてしまった。
「あっ! アル、遅いわよ!」
「いや、いつもの時間なんだが。それよりも、何かあったのか?」
「はい。実は、ゾラン様が昨日からご自宅に戻っていないそうなんです」
「ゾランが? それは、パーティメンバー全員がということか?」
「そこまではまだ分かっていないみたいですね」
「でも、私たちには関係ない」
「まあ、攻撃された側だもんなぁ」
何が起きているのかは気になるが、積極的に何かをしようとは思えない。
エルクたちの気持ちも分からなくはないが、アルの場合はガルボのこともあるので気になってしまった。
そして、ガルボのことを気にしていると知っている人物から声を掛けられてしまう。
「いたいた、アル君!」
「……スプラウスト先生」
「ちょっと、出会い頭にその嫌そうな表情は止めてくれないかなー」
「いや、絶対に何か面倒なことに巻き込むつもりですよね?」
「そんなつもりは……あー、あるかも」
苦笑いを浮かべるペリナに対して、アルは溜息をつく以外にできることがなかった。
しかし、話の内容を聞くと無視はできないものだった。
「どうやら、ゾラン君のパーティはアル君たちに対抗する形で下層へと潜って行ったみたいなの」
「三階層までしか行けなかったんですよね? それで七階層を目指そうとしたなら、それは自業自得ですし自殺行為ですね」
「その通り。だから、そこは置いておきましょう」
「お、置いておくんですか」
「えぇ。他に捜索隊を出す予定だもの。アル君に伝えたいのは、ガルボ君のことよ」
「ガルボ兄上ですか? まさか、何か分かったんですか?」
問い掛けながら詰め寄ってきたアルに驚きながら、ペリナは状況を説明した。
「現状、八階層より下に特殊個体の魔獣が多数出没しているみたいなの」
「特殊個体って、そう頻発するような個体ではないですよね? 理由は分かっているんですか?」
「いいえ、分かっていないわ。私たちも、昨日の夜に戻ってきた生徒から話を聞いたばかりなのよ」
頭を抱えそうになりながらも、ペリナは過去に別のダンジョンでも同じことが起きていなかったかを調べていたようだ。
「ただ、特殊個体が頻発した事態というのは数例あったわ」
「数例って、相当少ないってことですよね?」
「えぇ。それも、その全てにおいて共通する原因は見つかっていないのよ」
「……はあ。それで、俺に何をさせようとしているんですか?」
特殊個体が頻発する謎の現象が起きていることは分かったのだが、いまだにアルに何をさせようとしているのかをペリナは告げていない。
「アル君には──私と一緒にダンジョンに潜ってほしいのよ」
「……スプラウスト先生と?」
ガルボを探しにいく、というのがアルの予想していたことなのだが、そこにペリナが一緒というのは入っていなかった。
「まあ、名目上はゾラン君を探しに行くってのが目的になるけど、そこは他に任せて私たちは八階層以下を目指します」
「それでいいんですか?」
「構わないわよ。ガルボ君のクラス担任は別だろうけど、他の教師たちは評価欲しさに上層にいるだろうゾラン君を探すだろうからね」
「評価ですか……それは、下級貴族よりも上級貴族の子弟を助けた方が評価されるってことですかね」
「……鋭いわね」
呆れたように呟いたペリナに対して、アルは肩を竦めることで返事とした。
「ス、スプラウスト先生! アル様が行くなら私たちも行きます!」
「そうです! リリーナも私も、アルのパーティです!」
「二人の気持ちはありがたいけど、今回はダメよ」
ペリナは今まで見せたことのない真剣な眼差しで二人の同行を許さなかった。
「二人も分かっているんでしょう? 今回のパーティ訓練では、アル君の力が大きかったことを」
「そ、それは……」
「今回は七階層よりもさらに下層へ向かいます。それも、特殊個体が多く発生しているというイレギュラー付きです。そこに、実力が伴わない生徒を連れていくわけにはいきません」
言い返そうとしていたクルルだったが、ペリナの指摘は事実であり、何も言えずに俯いてしまった。
「二人はエルクたちと一緒に待っていてくれ」
「アル様……」
「アル、本当に大丈夫なの?」
「まあ、なんとかなるだろう」
笑みを浮かべながらそう口にしたアルは、首から下げていたネックレスを二人に見せた。
「あっ!」
「これって、あの時にアルが作ってくれたアクセサリー!」
「あぁ。これがあるから、俺は離れていても二人と一緒にいるって思える。だから、二人はここから俺の無事を祈っていてくれ」
部屋に置いておくと言っていた剣をモチーフに作られたアクセサリー。
リリーナとクルルはいつも持ち歩いているポーチに付けており、それを取り出してアルへ伝える。
「分かりました。私たちは、アル様を信じています!」
「ゾランはどうでもいいから、ガルボ様を助け出して、必ず戻ってくるのよ!」
「もちろんだ!」
そして、アルとペリナは駆け足で教室を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます