第93話:ダンジョンへ潜る目的

 翌朝、アルは朝ご飯の席でガルボがまだ戻っていないのだとラミアンから聞かされた。

 レオンは放っておけと言っていたが、アルとしては心配となり学園についたらペリナにでも聞いてみようと思い家を出た。


「おはようございます、アル様」

「おはよー、アル!」

「二人とも、おはよう。エルクたちはどうしたんだ?」

「今日は自分たちだけでダンジョンに潜ってたいって言って、もう潜ってるよ」

「昨日の模擬戦が刺激になったみたいですよ」


 昨日の今日で元気だなと思いながらも、アルたちも潜る予定なので人のことは言えないなと内心で思ってしまう。

 教室を見渡すと生徒の数は少なく、アルたちを省くと六名しかいない。


「スプラウスト先生、ちょっといいですか?」

「あら、アル君から声を掛けてくれるなんて珍しいわね、どうしたの?」


 そこでアルはガルボが昨日から戻ってきていないことを説明し、昨日から今日までで見かけていないかを聞いてみた。


「私は見ていないわね。授業までまだ時間もあるし、ちょっと四年次の先生に聞いてきましょうか?」

「お願いします」


 ペリナを見送ると、リリーナとクルルが心配そうに口を開いた。


「ガルボ様、戻っていないのですか?」

「あぁ。父上は放っておけと言っているんだが、母上が心配していてな。俺も心配だから聞けるだけ聞いてみようと思ったんだ」

「上の学年も私たちと同じような感じみたいだし、ダンジョンに潜っているんじゃないの?」


 アルたちが昨日潜った時にも上級生のパーティとは何度か遭遇していた。

 もしガルボがダンジョンに潜っているなら八階層よりも下層にいる可能性が高まるのだが、そうなるとアルたちが探しに行くことはできなくなってしまう。


 しばらくして戻ってきたペリナの表情は特に変わった様子はなく聞いてきた内容を話してくれた。


「昨日は朝からダンジョンに潜って行ったみたいね」

「ほら、やっぱりそうじゃない」

「泊りで攻略するとか言ってましたか?」

「そこまでは聞いていないけど、結構な大荷物だったみたいだからその可能性はあるかもね」

「そうですか……分かりました、ありがとうございます」

「アル君たちもダンジョンに潜るのかしら?」


 ペリナの質問に頷くと、何故か肩に腕を回されて小声で話し掛けられてしまう。


「昨日の話、忘れないでよね!」

「ヴォレスト先生のところにってやつですよね? 覚えてますよ」

「本当にお願いよ! 私、職員室で居場所がどんどんなくなってるんだからねー」


 だいぶ切実なのだと知り、アルは苦笑しながら頷くと教室を後にした。


 ※※※※


 ダンジョンの入り口に立ち、三人は今日の目標を立てることにした。


「八階層までは行けたんだから、さらに下を目指すとか?」

「ですが、そうなるとしっかりと準備をする必要がありますよ」

「そうだなぁ……各階層を徹底的に調べるってのはどうだ?」

「「……えっ?」」


 アルの提案は、各階層の全容を把握するために行き止まりも含めてすべてのフロアをマッピングしようというものだった。


「それって、やる意味あるの?」

「俺たちにはあまり意味はないけど、これから来年以降に入学する生徒には必要になるんじゃないかな」

「安全にダンジョン攻略をしてもらうための資料を作ろうとしているのですか?」

「そういうことだ」


 マッピングされた地図があれば無駄な探索をせずに下層へ進むことが可能となる。

 それは生徒たちにとって重要な資料になるはずだが、ここでリリーナが一つの懸念を口にした。


「ですが、成績を優先して実力がないパーティが下層へ進むことにもつながりませんか?」

「うーん、言われてみると確かにそうだなぁ」

「それなら、マッピングした地図を先生に提出するってのはどうかしら?」

「先生に?」

「そうよ。それで、地図に利用価値があるかないかを判断してもらうの。利用価値があれば資料として置いてもらって、ないなら私たちが保管しておけばいいんじゃないの?」

「それもそうか」

「どうせ、アンナちゃんのためにとか考えていたんじゃないの?」

「うっ!」


 図星を突かれてしまいアルは何も言えなくなってしまう。


「アル様、そうだったのですか?」

「優しいお兄様だよねー」

「い、いいだろう! アンナなら必要ないと思うが、安全に攻略するには必要だからな!」

「そうねー。アンナちゃんなら間違った使い方もしないだろうし」


 顔を赤くしながら言い返したアルだったが、クルルには全く通用することなく笑顔を返されてしまう。

 しかし、今日も目的が決まったこともありアルは足早にダンジョンへと向かっていく。


「ほ、ほら! さっさと行くぞ!」

「はいはーい! 全く、照れ屋さんなんだからー」

「アル様もあのような顔をするのですね」


 リリーナとクルルは笑いながらアルを追いかけて行った。

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