第87話:まさかの展開
アミルダとの話の説明が終わったアルたちは――裏庭にやって来ている。
「……なんでこうなった」
「アルお坊ちゃま、私は久しぶりに体を動かせるので嬉しく思っていますよ」
「あらあら、チグサさんのためにもなるだなんてね」
「私もアルお兄様から指導してもらえるので嬉しいです!」
「アンナちゃんの指導は任せるわね、アル君」
「……はぁ」
裏庭ではエルクたちの特訓が始まっている。
すでに一度、チグサとエルクたちが模擬戦を行いチグサが圧倒的勝利を収めていた。
「……あ、あのメイドさん、なんであんなに強いんだよ!」
「……規格外、ばっかり」
「……な、なんにも、できなかった」
エルク、マリー、キースは息を切らしながら槌を握りしめている。
「あー、私たちも最初はそうだったわよ」
「えぇ。ですから、皆様も頑張れば一本取れるようになりますよ」
三人をリリーナとクルルが励ましている。
とはいえ、二人の言っていることは事実なのでエルクたちはやる気を見せていた。
「もう一本、やりますか?」
「「「はい!」」」
そしてチグサとエルクたちの模擬戦が始まる――と思ったのだが。
「もしよろしければ、リリーナ様とクルル様も一緒にどうですか?」
チグサからの驚きの提案に五人は顔を見合わせていたのだが、リリーナとクルルはプライドを突かれたのか人一倍の気合を入れていた。
「……絶対に、一本を取りましょう!」
「……燃えてきたわー!」
そんな裏庭の光景を見ていたかったアルだが、服の裾を引っ張られたのでそちらに視線を向ける。
「アルお兄様~?」
「……さ、さて、俺たちも訓練をするかー!」
上目遣いで睨まれては断れない。
アルとアンナは前回同様に壁際まで移動して指導をすることにした。
「お兄様! 私、魔力を感じ取ることができるようになったんですよ!」
「そうなのか? すごいじゃないか」
「まだお兄様ほどではないですが」
アルに褒められたことが嬉しかったアンナは恥ずかしそうに視線を逸らす。
「それじゃあ、今から俺が魔力を薄っすらと放出するから、その流れを感じ取ってくれないか?」
「わ、分かりました!」
笑みを浮かべたアルはすぐに真剣な表情へと変わる。
その顔を見たアンナも表情を引き締めてアルを――アルの全身へと視線を向けた。
「……さすがだな。俺が魔力を放出するって言った途端に視線を顔から全身に持っていったか」
「これくらいのことが分からないと、お兄様に教えてもらっている意味がないですから」
アルは当初、手を突き出してそこから魔力を放出しようと考えていた。そして、段階を踏んで放出場所を変えようとも。
しかしアンナは魔力が媒介を介さずとも放出できることを知っている。
エミリアから教えられたことも大きな理由の一つだが、それと同じくらいに魔力を感じ取れるようになったことが全身へ視線を向けるという行動につながったことも間違いではなかった。
「それじゃあ、最初から魔力を色んなところから放出するぞ」
「はい!」
アルは頭や肩、腕や足といった場所から魔力を放出していく。
「頭! 腕! 足! 腕! あた……ううん、肩!」
その都度アンナは放出される場所を口にしていく。
時折間違えそうになることもあったが、それでもすぐに訂正して正しい場所を答えている。
「本当にすごいよ、アンナ」
「毎日訓練をしていたんだもの」
「そうか……それじゃあ、もう一段階上の訓練だ」
「もう一段階ですか……頭! ……えっ? う、腕、じゃなくて、やっぱり頭……えっ?」
アンナは突然困惑の声を漏らしていた。
ラミアンやエミリア、模擬戦が終わっていたチグサたちの視線も集まっている。
「……まさか、複数の場所から、魔力を放出しているんですか!?」
「そういうことだ。ほら、早く当てないとどんどん増えていくぞ?」
「くっ! 頭! 腕と……か、肩! えっと、あー、もう!」
最終的には頭を抱えて声を荒げてしまったアンナ。
アルは苦笑を浮かべながらそんなアンナの頭を撫でていた。
「よくやったな、アンナ」
「……いえ。結局、全てを答えることができませんでした」
「そうでもないさ。最初であれだけ答えられたのなら上出来だよ」
「でも……」
「いきなり全部ができるなんて、それこそキリアン兄上くらいじゃないかな」
最後に頭をポンポンと叩き、そして気がついた。
「……なんで全員がこっちを見ているんだ?」
「……さあ」
アルは知らず知らずのうちに注目を集めていた。
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