第86話:事情説明

 お昼を食べそびれていたアルは食堂に向かって歩いていると、その入り口でリリーナたちが待っていることに気づいて駆け足になる。


「すまん、待っていてくれたのか?」

「アル様のせいではありませんから」

「全く、スプラウスト先生は強引なんだから」

「それで、何か言われたのか?」


 エルクが心配そうに声を掛けてきたので、そのことについて説明をしたいと思ったアルだったが食堂にはまだ多くの生徒が残っている。

 この場でアミルダからの言葉を口にするのは問題があるため場所を変えたいと提案した。


「それならアルの家でいいんじゃないの?」

「お前、俺の家ならいつでも入れると思ってないか?」

「だって、これだけの大所帯が入れる場所なんて、お金の掛からない場所ならそこしか思い浮かばないんだもの」

「……確かに、それはそうだが」


 アルとリリーナは下級ながらも貴族であり、クルルは平民だが商家の出なので多少のお小遣いは渡されている。

 しかし、平民で一般家庭出身の三人にとっては使えるお金にも限界があるのだ。


「それに、食堂で話せないことを外の喫茶店で話すこともできないでしょ?」

「……母上に、聞いてみる」

「さっすがアルね!」

「だが、無理だったら説明は今度だからな」

「了解、了解! その時はダンジョンの中でも聞いてあげるわよー!」

「おま! ……まあ、それが一番効率がいいかもしれないが、今日はもう疲れたからな」

「……えっと、冗談だからね?」

「そうなのか?」


 アルは本心で頷いていたのだが、どうやらクルル含めて他の面々は苦笑いを浮かべていた。


「……と、とにかく、今日はこれで終わりにするか」


 何故か疎外感を感じながらも、アルたちは学園を後にしてノワール家の屋敷へと向かった。


 ※※※※


 結果として、ラミアンからはあっさりと許可が下りた。


「……貴族家って、こんなに簡単に人をあげていいものなんですか?」

「うふふ、アルのお友達なら問題ないわよ」

「……それで、なんでアンナまでいるんだ?」

「リリーナ様やクルル様以外に新しい方もいらっしゃる聞いたので、ご挨拶をと思いまして」

「……はぁ」


 アルたちは現在ノワール家の応接室にいる。

 パーティ訓練の時に座学を行った場所なのだが、何故だかラミアンとアンナも一緒だ。

 リリーナとクルルは慣れたものだが、エルクたちは貴族家当主の妻が一緒となれば緊張しないわけにはいかなかった。


「三人とも、楽にしてくれて構わないぞ」

「……いや、いくら俺でも、緊張するって」

「……アルさん、無理」

「……はは、あはは」


 こんな調子で説明できるのかと頭を抱えそうになったアルだが、そこにアンナの家庭教師をしているエミリアまで姿を現した。


「エ、エミリア先生まで」

「ごめんね。アンナちゃんがどうしてもこっちに来たいと言ったものだから、やることがなくなっちゃって」

「アンナ、エミリア先生に迷惑を掛けたらダメじゃないか」

「で、でも……」

「アル君。もしご迷惑でなければ、話を聞かせてくれませんか? もしかしたら、アンナちゃんが入学する時の参考になるかもしれないから」

「うーん、レベル4を持っているアンナの参考になるかは分かりませんが、了解しました」


 おそらく、アンナが入学した時のクラスはAクラスになるはずだ。

 ならば今から話す内容は全く当てはまらないのだが、聞いてもらうだけなら問題はないだろうと判断してアルは口を開いた。


「まずは結論から言うと、俺たちがダンジョンに潜って手に入れた素材は職員室やスプラウスト先生に提出するのではなく、ヴォレスト先生に直接提出することになった」

「……ごめん、いきなり過ぎて訳が分かんない」

「安心しろ、これから説明するよ」


 クルルが困惑するのも理解できたアルは苦笑しながらその理由を説明していく。

 全てを話し終わると全員が納得してくれたのだが、素材やアミルダへ直接提出の部分以外に驚きを覚えていた。


「が、学園長も太っ腹よね」

「本当に。まさか、アイテムボックスをアル様にプレゼントするなんて」

「あらあら、だったら私からアルにプレゼントするべきだったかしら」

「母上、でしたら私にください! 絶対に損はさせませんから!」


 アイテムボックスは物によっては家一軒が買えるくらいの価値を持つ。

 そんな高価な物を数分のやり取りでプレゼントするというのは、太っ腹というよりも頭がおかしいのではないかと思われても仕方がないかもしれない。


「とにかく、そういうことになったんだが、これは俺たちのパーティだけに当てはまることだから、エルクたちはいつも通りで問題はないと思うぞ」

「……そりゃそうだろう。俺たちは二階層の攻略だって手間取ってるんだからな」

「……一年次で八階層とか、夢のまた夢」

「……僕もそう思います」

「あらあら、そんなすぐに諦めてはいけませんよ」

「「「えっ?」」」


 まさかラミアンから声が掛かるとは思っていなかったエルクたちは揃って変な声を漏らしてしまう。


「アルと行動を共にしていれば、自ずと力をつけることができると思いますよ。リリーナちゃんやクルルちゃんがそうだったもの」

「まあ、私たちはアルにおんぶに抱っこの状態だけどね」

「それでも、成長したと感じることは多いです」

「ですから、これからもアルとは良いお友達でいてくださいね」

「私からも、アルお兄様のことをよろしくお願いします!」


 ラミアンとアンナからそのように言われたエルクたちは、恥ずかしそうにしながらも大きく頷いていた。

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