第85話:アミルダとの話し合い

 学園長室の前に到着したペリナはノックはしたものの返事を待たずしてドアを開けて中に入っていく。もちろん、アルの腕を握った状態だ。

 アミルダは怪訝な表情を浮かべたものの、アルを見つけるとすぐに呆れた顔になり、それだけでペリナの行動を許したのだと理解することができた。


「何事かと思ったら、アルの仕業か」

「その通りです!」

「いや、俺は何もしてないんですが」

「これがその証拠です!」


 ペリナはそう言うとヴィルパイソンの角を机の上にドンと置いた。

 角を手に取り眺めていたアミルダだったが、その角が八階層から生息しているヴィルパイソンのものだと分かると大きな溜息を漏らした。


「な、なんですか?」

「全く。こんなものを持ち込まれたら、確かにペリナもあんな行動を取らざるを得ないわね」

「ですよねー! 他のクラスの教師があれを見たらどうするんですか!」

「……もう遅いと思いますけど」


 アルがそう呟くと、今度は二人同時に溜息をついていた。


「いや、持ち込む場所が職員室しかないんだし、仕方ないですよね?」

「……そうだな、アルの言うことも確かにその通りだ。というわけで、今後はお前たちがダンジョンから素材を持ち帰ったらこっちに持ってこい」

「……いやいやいやいや、そっちの方が目立ちますよね! っていうか、他の教師に見られるのがどうしてダメなんですか?」

「アル君、それって本気で言ってます?」

「分からないから聞いてるんですが」


 他のクラスでもパーティ訓練は行われており、今回ダンジョンに潜った対応もFクラスだけではなく一年次の全クラスで対応されている。

 Fクラス以外の生徒をダンジョン内で見かけていたので、アルたちが特別というわけでもないのだ。


「現状、優秀とされているAクラスでも五階層が限界なのよ」

「まさか、Fクラスの俺たちが七階層まで行けたんですよ?」

「Fクラスって言わないでよね! Fクラスもアル君たち以外は三階層が限界なんだから、アル君たちだけが普通じゃない状況なんだからね!」

「そういうことだ。ただでさえ劣等生のレッテルを貼られているFクラスが、優秀とされているAクラスよりも深い階層の素材をこれ見よがしに持ってきたら、上のクラスを受け持っている教師がいい顔をするとは思えないだろう」

「それはそうですが……でもそれって、俺たちには関係ないことですよね?」

「ぐぬっ! それは、そうだけど……」


 アルの指摘にペリナは黙り込んでしまった。

 頑張っている生徒を褒めるのではなく嫉妬の対象にするというのは、アルからするととても納得できるものではなく、むしろ大人同士で解決してほしいと思ってしまう。

 そのことを理解しているからこそ、ペリナも黙り込んでしまったのだ。


「まあ、その通りだな。だが、アルが規格外だということも理解してほしいものだな」

「規格外って、俺はどこにでもいるようなレベル1しか持たない一般生徒なんですけどね」

「そんな一般生徒が二回目のダンジョンで八階層まで行けるとか、あり得ないんだよ。その時点で規格外だと気づけ」

「……じゃあ、そういうことにしてもらって構いませんが、それと今回の件は全く別の話ですよね?」

「そうかもしれんが、ここで他の教師から目の敵にされてしまうと、アルの学園生活にも支障が出るかもしれんぞ?」

「……どういうことですか?」


 すでにゾランから目の敵にされている状況で、さらに敵を作るのは好ましくないアルとしてはアミルダの指摘は避けたいところだった。


「大人というものは体面を気にする生き物だからな。自分が受け持っているクラスよりも上の成績を修めている別のクラスの生徒がいたら、自分のクラスにはそれ以上の成績を求めようとしてしまうものだ」

「まあ、それは当然だと思います」

「大人の考え方だな。しかし、それを押し付けられた生徒からはあまり良い感情は生まれないだろうな」

「……まあ、そうですね」

「それでも教師に逆らうことはできない、そうしてしまうと成績に関わるかもしれないと思ってしまうからだ。そうした時、どこに苛立ちの矛先が向くかというと……分かるな?」


 アミルダの問い掛けに、アルは面倒だと思いながらも全てを理解してしまった。


「……下のクラス、それもFクラスという劣等生のクラスでそんな成績を出した俺たちに矛先が向くってことですか」

「その通りだ。だから、今後は素材の提出は私が直接見させてもらうことにするよ」

「だけど、さっきも言いましたがそっちの方が目立つと思うんですけど? それに、今回みたいに素材が大きかったら、ここに着くまでに他の生徒や教師にも見られてしまいます」

「そこでだ。アルにはこれを渡しておこう」


 そう言ってアミルダが取り出したのは、アイテムボックスだった。


「これは、学園所有のものですか?」

「違う。それは私個人のアイテムボックスだよ」

「……こんな高価なものをお借りしていいんですか?」

「借りる? いやいや、これは私からアルへのプレゼントだ」

「「……はい?」」


 プレゼントという言葉には、アルだけではなくペリナも驚きの声を漏らしていた。


「だから、今後はここに素材を持ち込んで、私にアイテムボックス以上の利益をもたらしてくれよ」

「……えっと、俺たちが持ってきた素材が、ヴォレスト先生の個人資産になるってことですか?」

「安心しろ、ちゃんとお前たちの成績にもなるからな!」

「ちょっと、学園長! それはさすがにやり過ぎです! 権力の権化です! 悪魔です!」

「ならばお前がアルたちが持ち込む素材をどうにか処理するか? できないから私のところに来たんだろう?」

「ぐぬっ! ……くぅぅっ! 私がアイテムボックスさえ持っていれば~!」

「……えっと、俺の意見は聞いてくれないんですか?」


 この後、回収した素材の権利などについて簡単にやり取りをした後、アルは学園長室を後にした。

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