第83話:ダンジョン・八階層

 八階層も七階層と同じで森の階層だった。

 カンフーモンキーは当然ながら、新しい魔獣の姿も確認することができる。


「あれは、なんでしょうか?」

「確か……ヴィルパイソンですね」


 四足歩行の巨大な牛と称されるヴィルパイソン。

 今回、魔獣の名前を言い当てたのはアルではなくキースだった。


「キースも魔獣について詳しいんだな」

「できるところまでは予習をしてきました」


 恥ずかしそうにそう口にしたキース。

 アルは勤勉な態度に好感を持ちながらも、今は目の前のヴィルパイソンに意識を集中させる。


「比較的大人しいが、突進力に注意が必要な魔獣だ。対処法としては、気づかれる前ならウッドロープで締め上げるのが一番だな」


 対処法は各属性ごとに書かれていたり、特定の属性だけで書かれているものもある。

 アルが選択した方法は森の階層ということもありウッドロープが選択された。


「でしたら私にやらせていただけますか?」

「いけるか、リリーナ」

「これでも木属性の魔力操作はどんどん上達しているんですよ」


 笑みを浮かべて立候補してくれたリリーナにこの場を任せたアルは一歩引く。

 先頭に立ったリリーナは杖を突き出して魔法を発動させたのだが、その魔力は淀みなく静かに放たれていた。


「……すごいな」

「……リリーナ、成長してるんだなぁ」


 アルが感嘆の声を漏らし、クルルが羨ましそうに成長を見守っている。

 ウッドロープは物音一つさせずにヴィルパイソンに近づくと、後ろ足と首に巻きついた。

 首を締め上げていく中で暴れだしたヴィルパイソンだったが、後ろ足を縛られていることで動くことができずにいる。

 そうしてしばらくすると徐々に弱々しくなったヴィルパイソンは動かなくなった。


「……倒せました!」

「さすがだな、リリーナ」

「ほんと、すごいわね!」


 喜びを分かち合っているアルたちに対して、エルクたちは口を開けたまま固まっていた。


「……大人しいとはいっても、その力は相当強いはずですよ」

「……リリーナって、かわいい顔して実は凄腕?」

「……おぉ、尊敬!」


 三者三様の意見が飛び出す中、そのまま素材回収へと向かう。


「ヴィルパイソンの素材で一番価値のある部位はこの角だな」

「雄々しい角ほど観賞用に高くなるんだっけ?」

「あぁ。それ以外だと粉末にされて薬になったりもするらしいぞ」


 商人の娘であるクルルが食いついてきたのでアルは細かく説明していく。


「強度は……かったいわね!」

「素材として回収するのが難しいのは、この強度の高さが理由の一つだ」

「他にもあるの?」

「アイテムボックスがないと、回収してもかさばる」

「……あー、確かにそうね」


 アルには斬鉄があるので角を切ることは可能だが、アイテムボックスを持っていない。

 前回は学園所有のアイテムボックスを借り受けていたのだ。


「でも、もったいないわよねー」

「これだけの角だからな」

「ですが、どうしようもないですよね」


 アルたちが悩んでいると、エルクが手を上げて一つの提案を口にした。


「なあ、よかったら俺たちが持って戻ろうか?」

「……いいのか?」

「まあ、ここまで何もしてないし、荷物持ちくらいなら全然大丈夫だぞ」

「ぼ、僕も持ちます!」

「交代で持つ」


 確かにエルクたちが持ってくれるなら戦いに支障が出ることもない。

 その分、角を持っている人は自衛ができなくなるので守りながらの道中となる。


「……いや、これもいい経験になるか」

「どうしたんですか、アル様?」

「なんでもないよ。それじゃあ、ヴィルパイソンの角はエルクたちが交代で頼む。その分、俺たちも守りながら戻ることを約束するよ」

「了解だ!」


 戻りはそれぞれのパーティで行動するのではなく、合同パーティとして動くことになった。

 配置はアルとキースが相談しながら決め、すぐに伝えられた。


「最初に角を持つのはマリーだ。攻撃担当はクルルとエルク。援護担当にリリーナとキース。俺は様子を見ながら両方のサポートにつく」

「魔力が尽きそうになったら、そこでマリーと交代で進んでいこうと思います」

「何か質問はあるか?」


 説明を終えるとアルが確認の意味も込めてそう口にしたが、誰からも質問はなかった。


「よし、それじゃあ戻るか」

「せっかく八階層まで来たのに、戻るのは早かったわねー」

「それでも、十分な成果がありましたね」

「俺たちもすぐに追いつくからな!」

「節約を覚えたからね」

「二人とも、無理はしないでね?」


 そんな会話をしながら、アルたちは八階層を後にした。

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