第82話:ダンジョン攻略

「さて、二人の悪いところが分かったところでこれからの方針についてだが」

「わ、悪いところって」

「間違ってないけど、ひどい」


 二人からジト目を向けられながらもアルは淡々と話を進めていく。


「エルクとマリーの魔力が尽きたところで、次は俺たちがダンジョンに潜る番になるわけだが……三人を伴って七階層まで行けるかどうかという話だ」

「な、七階層……」


 冷静なキースも驚きを隠せない。

 だが、アルの言葉は事実であり一緒にダンジョンに潜るということはそういうことだ。


「正直、人数が多いからといって誰かを守りながらの道程は厳しいものになる。二人が足手まといになると言うなら、俺たちのダンジョン攻略は先延ばしにしてそのまま戻っても――」

「お、俺たちは行くぜ!」

「守られる必要もない」

「……それをキースじゃなくて魔力が尽きたお前たちが言うのか?」


 少し呆れたように口を開いたアルだったが、それでも二人は諦めようとはしなかった。


「この機会を逃したら、七階層まで行ける気がしないんだよ!」

「ダンジョンの下層に行く、経験としては大事」

「いや、別に機会が今日しかないわけじゃないんだが?」

「それでもだよ! 経験するのは早い方がいいに決まってるじゃないか!」

「そういうこと。キースもいいよね?」


 最終的な決定権はキースにゆだねられた。

 三人の中では一番冷静に状況を判断できる人物であり、なおかつ今の二人では何を言おうとも魔力を尽きさせてしまった事実が消えることはない。


「……あの、ご迷惑でなければついて行ってもいいでしょうか?」

「俺は構わないが……」

「私も構いません」

「私も大丈夫だよー」


 リリーナとクルルからも了承の確認が取れ、そのまま全員で下層へと向かうことになった。


 二階層を難なく攻略し、さらに一気に五階層まで下りてきたところでエルクとマリーの魔力もある程度は回復していた。

 それでも五階層の魔獣相手をすぐにできるはずもなく、基本的にはアルたちが戦いエルクたちには自衛に努めてもらっている。

 前回の攻略から倍以上の速度で下り進め、アルたちは数時間で七階層にやって来た。


「……つ、疲れたぁ」

「……みんな、速過ぎ」

「……さすがは、アル様たちですね」


 エルクたちは息も絶え絶えの状態だったが、アルだけではなくリリーナとクルルも普段と変わらない様子で周囲の警戒に当たっていた。


「これくらいはなぁ」

「チグサさんの訓練、めっちゃきつかったもんねー」

「でも、あの訓練のおかげで体力は付きましたから」


 笑顔でそう語るリリーナとクルルを見て、座り込んでいるエルクとキースの男性二人は顔を見合わせて肩を落とした。


「さて、ここからは未知の階層になるわけだがどうしたものか」

「私は大丈夫ですよ」

「ダンジョンには危険が付きものだけど、次に進むには乗り越えなきゃね」


 リリーナとクルルの意見を聞き、アルはエルクたちに顔を向ける。


「何ができるわけでもないけど、俺たちもついていくぜ!」

「むしろ、置いて行かれたらここで死ぬ」

「よ、よろしくお願いします!」


 エルクたちも八階層へ向かうことを了承してくれた。


「そうか。それじゃあ、階段を探しながら七階層の攻略を進めるか。それと、ちょっと寄りたい場所があるんだがいいか?」

「七階層で寄りたい場所って……もしかして、ブラックウルフを倒したあの場所?」

「あぁ。特に何があるって場所でもないが、俺たち三人の最終到着地点だからな。せっかくだし寄ってみたいんだ」

「もちろん構いません! 私も行きたいです!」


 リリーナがとても前向きだったこともあり、休憩も程々にブラックウルフを討伐した場所へと向かった。

 魔獣も戻ってきているのでカンフーモンキーを討伐しながらだったが、すでに戦い方を学んでいるアルたちは苦にすることなく突き進んでいく。

 そして到着した場所は――不思議と静寂に包まれた場所になっていた。


「ここだけ、魔獣がいないんだな……ん?」

「どうしたんですか、アル様?」

「いや、なんだか声がした気がするんだが……」


 直接頭の中に響いてきたような、それも聞き覚えのあるような声が聞こえたような気がした。


「……気のせいか」


 しかし、アルはその疑問を気のせいだと割り切り先に進むことにした。

 しばらくしてすぐに階段を発見することはできたのだが、気のせいだと割り切ったものの一度だけ振り返る。


「……やっぱり、何もないよな」

「どうしたの、アルー?」

「……いや、なんでもない」


 再度何もないと確認したアルは、クルルの声に返事をして八階層へと進出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る