第81話:問題点

 エルクたちは一階層を危なげなく攻略し、今は未攻略の二階層へと進出している。

 三人の戦い方を後ろから眺めながらついて歩くアルたちは、なぜこれだけ動けて二回層止まりだったのかを疑問に感じていた。


「エルクとマリーの攻撃魔法は大したものだな」

「キースの援護魔法だってタイミングバッチリじゃない?」

「私の目にもそう見えます」

「「「……なんで?」」」


 そんな会話をしながらの道中、その答えを目の当たりにすることになる。


「ちょっと、二人とも! 魔法を使い過ぎですって!」

「そんなこと言うなって、キース! 威力が高い方が確実に倒せるじゃん!」

「エルクに同意」

「ぜ、前回もそのせいで──」


 キースが言い終わる前に異変は襲い掛かっていた。


「大丈夫だ……って……あ、あれ?」

「……なんか、フラフラ」

「だから言ったじゃないですか!」


 指摘が耳に届いたアルは、嘆息しながら原因がはっきりした。


「……なるほど、そう言うことか」

「アル様、あれはもしかして五階層の時の?」

「あぁ。魔力が尽きかけているな」


 アルも経験したことがある。

 前回のパーティ訓練、五階層まで下りた時に魔力融合の使い過ぎで休憩を余儀なくされたのだ。


「攻撃魔法が充実していると思ったのには、こういう裏があったんだな」

「そうね。魔力の無駄遣いと、最初の私みたいに威力過多ってことかしら」


 エルクたちの欠点──否、エルクとマリーの欠点がはっきりしているのだから、そこを改善できればこのパーティはさらに下層を目指すのは容易なはず。

 特にキースは改善点に気づいているわけだし問題はないと思われたのだが──


「かー、使い過ぎた!」

「次はきっと、もう少し保つ!」

「そんな簡単に魔力って上がらないから! っていうか、上がったなんて話なんて聞かないから!」

「……あの二人、キースの助言を全く聞いてないのか」

「……そ、そうみたいだね」

「……エルクはともかく、マリーまで」


 軽く貶されたエルクだったがそんなことは知る由もなく、数分後にはついに魔力が尽きてしまい動けなくなってしまった。


「エルク、マリー、ちょっといいか?」


 頭を抱えているキースに代わり、アルが二人に声を掛けた。


「お前たち、なんでキースの言葉を聞いてやらないんだ?」

「だって、魔法って言えば派手なやつの方が格好いいじゃん!」

「威力が高ければ、絶対に倒せる!」

「……それでキースが死んでも、同じことが言えるのか?」

「「……えっ?」」


 二人は突然の死という発言に顔を見合わせて驚いている。

 だが、これは脅しでもなんでもなく事実として襲い掛かってくるかもしれない脅威なのだ。


「二人が見た目にこだわり、無駄に魔力を使って早々と魔力が尽きた時にモンスターに襲われたらどうするつもりなんだ?」

「そ、そこは気合で──」

「無理やり魔法を使ってモンスターの前で、ダンジョンの中で気を失うのか?」

「うっ! そ、それは……」


 エルクが言葉に詰まり下を向く。


「気を失う前にぶっ飛ばす」

「気を失ってから襲われたらどうしようもないだろう」

「そこは……きっとキースが──」

「攻撃担当が二人でようやく倒していたモンスターを、援護担当のキースが一人で倒せると本気で思っているのか? 逃げることもできない気を失った二人を抱えて?」

「あ、あぅ……」


 マリーも反論できずに俯いてしまう。


「お前たちのやっていることは、仲間を殺してしまう身勝手なものだ。キースはそれが分かっているからこそ、二人に注意をしているんだ」

「「……」」

「自分の命を無駄にして、なおかつ仲間の命も顧みないような戦い方を今後もするようなら、俺はお前たちと一緒にダンジョンに潜るのをやめる」


 この言葉はアルの本心だ。

 魔法が発展したこの世界で剣の道を極めるのは至難の技である。故に、無駄な時間を使っている場合ではない。

 せっかく出会った機会を無駄にしたくはないし、仲間と呼べる友人を作ることは大事なことだと理解しているが、命を大事にしない者を友と呼べる自信もアルにはなかった。

 二人に背を向けてキースに声を掛けようとしたその時──


「「ご、ごめんなさい!」」


 エルクとマリーから謝罪の言葉が聞こえてきた。


「その、頭では分かってたんだけど、派手な見た目で魔法を使う癖が抜けなくて……で、でも、絶対に直すから! キースを死なせるようなことは絶対にしない!」

「私も、威力大好きから離れる。魔力節約、これ、大事!」

「……なんだ、分かっているじゃないか」


 振り返ったアルは苦笑しながらそう口にした。


「キース、二人はこう言っているみたいだが、お前はどうしたいんだ?」


 肩越しにキースへと視線を送ったアル。

 三人のやりとりを離れた場所から見ていたキースはゆっくりと近づいていき、膝を曲げて同じ視線になるようしゃがみ込む。


「……僕が、二人を見捨てると思いますか?」

「……思わねえ」

「……ごめん、キース」

「今度は、ちゃんと僕の指示も聞いてくださいね?」

「「はい! よろしくお願いします!」」


 こうして、エルクたちの矯正が終了した。

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