第78話:食堂にて

 ペリナから逃げ出して食堂にやってきた四人は、注文を終えてテーブルに移動したのだがアルだけはそのまま突っ伏してしまった。


「全く、あれでなんで先生が勤まるんだ?」

「あはは、スプラウスト先生はあれでも優秀な魔法師ですからね」

「キース、知っているのか?」


 顔を上げたアルはペリナの情報が全くなかったので興味を持った。


「はい。ユージュラッド魔法学園の卒業生で、過去の成績を見ればキリアン様、学園長に次ぐ成績で卒業を決めた秀才だと聞いていますよ」

「……あの性格でか?」

「せ、性格は魔法師の成績とは関係ありませんからね」

「それにしては面倒臭い先生だよなー」

「エルクに同意」

「三人とも言い過ぎだよ。でも、ちょっとだけ猪突猛進なところはあるかも」


 結局、四人ともペリナが面倒臭いという結果になってしまう。


「それで、そんな優秀な魔法師がなんで一学園の教師をしているんだ? それだけの成績を修めているなら、いろんなところから声が掛かったんじゃないか?」

「そこは僕も疑問に思っているんです。スプラウスト先生の前職は王都で魔法研究者をしていたと記憶しているんですが……」

「魔法研究者? 魔法というのは、今なお発展しているのか?」


 アルの中では今ある魔法を組み合わせることでやりくりしていこうという結論に至っていた。

 それは全属性だったからという理由もあるが、一番の理由はそうすることしかできなかったからだ。

 別の選択肢がなく、だからこそ忌避されている剣術と魔法を組み合わせた魔法剣を考えついたのだが、今なお発展しているのであれば魔法の可能性も広がるのではと考えた。


「発展は……どうなんでしょう」

「どういうことだ?」

「研究はされています。ですが、その研究結果が発表されたことが一度もないんです」

「……それって、意味がなくねえか?」

「研究費の無駄遣い」

「ちょっと、二人とも!」


 キースは研究を信じている節があるが、アルの考えもエルクやマリーと同じだ。

 王都での研究ということは、おそらく国家予算が割り当てられているのだろう。だが、研究結果が発表されていないということは成果が上がっていないのか、それとも成果を秘匿しているのかのどちらか。

 どちらにしても、研究結果が発表されなければ下にいる者たちからすれば研究費の無駄遣いと思われても致し方ないといえる。


「まあ、そのあたりは直接本人に聞けばいいか」

「アル様?」

「ん? いや、なんでもない。それよりも、二人が来たみたいだ」


 アルの言葉にエルクたちが食堂の入り口に顔を向ける。


「お、お待たせしました!」

「もー、スプラウスト先生って面倒臭いわねー」

「ちょうどその話をしていたところだ」

「そうなの? さすがはスプラウスト先生だわ」


 苦笑しながらリリーナとクルルもイスに腰掛ける。


「どうやって逃げてきたんだ?」

「えっと、それは……」

「通りすがりの学園長に押し付けてきたわ」

「クルル、お前なぁ」

「だってねー。スプラウスト先生をどうにかできるのって、学園長しか思いつかなかったんだもの」

「……その学園長が入り口からこっちを見ているんだが?」

「「「「「……はい!?」」」」」


 呆れたようにアルが言うと、五人は慌てて顔を入り口に向ける。

 そこには手を振りながら近づいてくるアミルダの姿があった。


「よう、アル! 今日もいきなりやらかしたみたいだね」

「私のせいではありませんよ、ヴォレスト先生」

「むっ、私のことはアミルダでいいと言っているだろう」

「他の生徒の目もありますので」

「……仕方がない、そういうことにしておくか」


 そして、そのままイスに腰掛けて食事を始めてしまった。

 アルは普段通りなのだが、残りの面々は緊張してしまい料理に手をつけることさえできなくなっている。


「みんな、早く食べた方がいいぞ。温かい方が美味しいしな」

「むっ、そうだぞ、お前たち。料理人の気持ちも考えたまえ」

「「「「「は、はい!」」」」」


 返事もカチコチに固まっており、アルは溜息をつきながら声を掛ける。


「……リリーナとクルルは以前に学園長室で話をしただろう」

「そ、そうですけど、その……」

「やっぱり、緊張する……します」

「私に対してそのような態度は不要だぞ。むしろ、普通に接してくれた方が嬉しいな。ペリナにはそうなのだろう?」

「あの先生には迷惑しています。しょっちゅう絡んでくるし」

「あはは! あいつはアルのことを研究対象として見ている節があるからな」

「……それは初耳なんですが」


 レベル1しか持たない自分を研究対象にするのはいかがなものかと思いながらも、ここで口にするとアミルダが変なことを言いかねないので黙っていることにした。


「ペリナなりに興味も持ったのだろう。アルが良ければ、たまには付き合ってやってくれ」

「……私は学生なんですが?」

「だからこそだよ。ペリナの知識は私よりも豊富だからな。アルにも役立つものがあるだろうさ」

「……考えておきます」

「よろしくな。それじゃあ私は行くよ」

「行くって……食べるの早いですね」

「これでも忙しい身なのだよ、学園長だからな」


 最後は笑いながら食堂を去っていった。


「……嵐のような人だな、全く」


 溜息混じりにそう呟いたアルが視線を戻すと、五人からの視線が痛いことに気づいた。


「……学園長にあの態度って」

「……アル様」

「……さすがは大物だな」

「……むしろバカ?」

「……あは、あはは」


 どうやらここでも対応を間違えてしまったアルなのだった。

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