第77話:説明と女の子たち

 その後、ものすごい勢いでペリナから追及されたのだが、アルは逃げるように第五魔導場を出ていった。

 現在は廊下を教室へ向けて歩いており、当然ながら他の面々もついてきたのだが、こちらは無理に追及するということはしなかった。


「だって、アルが言いたくないってことは何か秘密があるってことでしょう?」

「アル様に嫌な思いをさせてまで聞きたいとは思いませんよ」


 というのが、クルルとリリーナの答えだった。


「いや、別に秘密にしているわけじゃないんだが、言ったところですぐに分かってもらえるとも思わなかったんだよな」

「そんなにすごい技術なんですか?」


 魔力の流れが分かる、という単語に一番の反応を示していたのはキースだった。

 だからだろう、本当は聞きたいのに聞けないというジレンマから若干挙動不審になっている。


「別にすごい技術でもないよ。実際に、俺の妹は少しずつ分かってきているみたいだし」

「妹というと、アンナちゃんですよね?」

「そういえば、私たちが訓練をしていた時、アルはアンナちゃんに指導をしていたわよね」

「あぁ。その時に教えたんだよ、魔力を感じ取る方法を」

「「「「「……魔力を感じ取る方法?」」」」」


 全員がオウム返しで聞いてきたこともあり、アルは仕方なく簡単に説明することにした。

 とは言っても、以前にアンナへ教えたことと同じ内容を五人に伝えているだけであり、今回は実践してみせるわけでもない。

 話し終えたアルが五人を見てみると、話の内容を理解できたのはキースくらいだと感じており、その予想は正しかった。


「……ぜんっぜん意味が分かんねえ!」

「……頭が、痛い」

「わ、私も理解できませんでした」

「これをアンナちゃんは理解したのね、凄すぎるわ」

「キースはどうだった?」


 一人だけ無言のまま考え込んでいるキースは、ゆっくりと口を開いた。


「……自分の中の魔力、そこから近い位置にある外の魔力を感じることができれば、いける気がします」

「たったあれだけの説明でそこまで思い至るなんて、凄いな」

「いえ、アル様の説明が分かりやすいからですよ」

「キース、マジか?」

「さすがは生真面目君」

「マリーのは悪口になってますよ!」

「むっ! 失敬な、これは褒め言葉」


 いつものやり取りに戻ってしまったエルクたちだが、アルは純粋にキースの理解力の高さに驚いていた。

 エルクたちについてはまだ分からないことだらけだが、同じように突出した才能があるとするなら、このパーティは化けるかもしれない。


「……そうだ。せっかくだし、明日からは合同パーティでダンジョンに潜ってみないか? まあ、リリーナ様とクルルが良ければだけど」

「私は構いませんよ。それとアル様、私のことはいつも通りに呼んでください」

「私も構わないわ」

「俺たちもいいぜ! なあ、二人とも!」

「僕からもお願いします!」

「私も大丈夫。というか、アルさん」

「どうしたんだ、マリー」

「リリーナさんをいつもはなんて呼んでるの? もしかして、お付き合いしているとか?」

「ち、違うから。パーティ内での呼び方ってことだよ」

「そうなの? ……リリーナさんは、どうなの?」


 何故だか呼び方の話題にだけ突っ込んできたマリーに、リリーナはこれまた何故かしどろもどろになっている。


「えっと、それは、その……ア、アル様の言う通りですから!」

「……ほほう、そういうことか」

「マリー……野暮なことはしないでね?」

「……ふふふ、クルルも悪ですなぁ」

「いや、お前たち、何を言っているんだ?」


 首を傾げているアルに両手をわたわたさせているリリーナ。そして、蚊帳の外に置かれているエルクとキース。

 結局、クルルとマリーが何の話をしていたのかは教えてもらうことができず、アルたちは一度教室に戻ることにした。


 ※※※※


「――さあ! どういうことか説明してもらいましょうか!」


 教室に戻ってからしばらくは普通に授業が続いていたのだが、午前の授業が終わった途端にペリナから詰め寄られてしまったのだ。


「……スプラウスト先生、近いです」


 鼻と鼻がくっつきそうな距離で話をされているので、アルとしては何かの拍子に口と口がくっつかないか気が気ではない。


「説明してくれるまで、離れませんからね!」

「せ、先生! ダメです、それはダメですから!」

「ちょっと、リリーナさん、放してくださいー!」

「……これ、どっちが先生だか分からないわね」

「どっちも先生じゃない」

「「「あぁー、確かに」」」


 マリーの指摘に感激している男性陣だったが、アルとしてはこのままここにいるのも面倒だと判断。

 リリーナがペリナを押さえているうちに移動することにした。


「あっ! ちょっと、待ちなさいよ、アル君!」

「リリーナ、いつものところにいるから、後で合流しよう」

「わ、分かりました!」

「私もリリーナと一緒にいるから、エルクたちはアルと一緒に行っといてねー」


 ペリナのことはリリーナとクルルに任せ、アルとエルクたちは食事のために食堂へと移動した。

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