第76話:アルVSゾラン②
五つの竜巻が中央で衝突し、爆発を引き起こした。
煙が舞い、辺りの視界が遮られるほど。
肩で呼吸をするほどに魔力を使った渾身の魔法に、ゾランは確かな手応えを覚えていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……これで、俺の勝ち──」
「なかなか凄まじい魔法だな」
「なあっ! ……そ、そんな、まさか」
煙の中から聞こえてきた声音に、憤怒の表情を常に浮かべていたゾランが恐怖の色に染まっていく。
そして──煙を弾き飛ばしながらウインドバレットが放たれた。
「く、くそがっ!」
「まだ動けるのか。さすがだな」
「だ、黙れ! 貴様、どうやってトルネドスラッシュを防いだ!」
「黙れと言ったり、問い掛けてきたり、お前はどうしたいんだ?」
「このっ! くっ、があっ!」
間断なく放たれるウインドバレットから逃れることができなくなり、右肩と左足を負傷したゾラン。
それでもその眼光はアルを睨み付け、そして反撃の気を伺っている。
「……ならば、終わらせるのもありか」
「ふ、ふざけるな! 俺様が、このザーラッド家が、負けるわけにはいかないんだよ!」
「その想いは良し。だが──実力が追いついていないのが残念だったな」
「黙れええええええぇぇっ!」
「ウインドバレット──全方位」
アルの宣言に合わせて、ゾランの周囲には無数の風の歪みが生じ始める。
そして、歪みに向かって風が集束されると風の塊──ウインドバレットが形成された。
「……そ、そんな。こんなに無数の魔法を、一度にだと!?」
「発射」
「く、くそおおおおおおぉぉっ!」
ゾランの絶叫の後には無数の打撃音が第五魔導場に響き渡った。
放たれたウインドバレットは合計九発。その全てが完全に同じタイミングでゾランに命中したのだ。
魔法の消失に合わせて風が吹き、煙を弾き飛ばしてくれる。
その後に残っていたのは、地面に横たわるゾランの姿だった。
「勝者──アル・ノワール!」
第五魔導場にはFクラスしかいない。それにもかかわらず大きな拍手と歓声が巻き起こった。
ゾランの取り巻きだけは悔しそうな、それでいてどうしたらいいのか分からないといった表情を浮かべている。
「誰か、ゾラン君を救護室に運んでちょうだい」
ペリナの言葉にようやく我に返った取り巻きたちが慌ててゾランを抱き抱えて救護室に消えていく。
その後はペリナが他の生徒たちに声を掛けて教室へと戻したのだが、リリーナとクルル、そしてエルクたちはアルのところへと駆け寄ってきた。
「アル様、さすがです!」
「いやー、レベル4の魔法が出てきた時はヤバイかもって思ったけど、そこはアルだよねー」
「マジで半端ねえな、アルは!」
「あのザーラッド家の者を倒すなんて、アル様は末恐ろしい方ですね」
「アルさん、ヤバいね」
それぞれが口々に感想を述べてくれたので、アルは苦笑しながらお礼を伝える。
「ありがとう。だが、あれは魔法操作に穴があったからな。ゾランが完璧にトルネドスラッシュを制御できていたら危なかった」
「いや、あれをやられたらほとんどの生徒が諦めると思うぞ?」
「確かにねー。でも、ゾランはどうしてレベル4の魔法を使えたのかしら。今の話だと、アルみたいに魔法操作に長けているってわけじゃないわよね?」
リリーナの疑問に、アルはゾランが使っていた杖が魔法装具だったことを伝えた。
「ザーラッド家は、次男にまで魔法装具を渡すのね」
「どんだけ金が余ってんだよって話だな」
「エルドア家も、当主しか手にできないと聞いたことがあります」
「平民の僕たちには夢のまた夢ですね」
「魔法装具、ムリムリ」
そんな何気ない会話をしていると、救護室からペリナが出てきてアルに声を掛けてきた。
「ちょっと、アル君! さっきの魔法からどうやって生き残ったのよ!」
「あっ! それは俺も気になるかも!」
「魔法操作に穴があるって言ってたけど、どういうことなの?」
ペリナの質問にエルクとリリーナがノリノリで便乗してきた。
口には出さないものの、残りの三人も聞きたそうに視線を向けてきている。
「別に、大したことはしていませんよ。最初のファイアボールと同じで、魔法の隙間を抜け出てきただけですから」
「それが、魔法操作に穴があるってことにどうつながるの?」
「魔法操作が未熟だから、完全に同じタイミングで迫ってこなければならない竜巻に僅かなズレが生じていた。俺はそのズレを利用したってだけの話だよ」
「でも、それをするにも風の余波を防ぐ為に魔法が必要のはずよ。そっちはどうしたのよ」
「風の余波を防ぐ、ですか? いや、俺は別に防いでませんけど」
「でも、だったら無事なはずがないわよ。だって、風の刃がアル君を攻撃したはずでしょう?」
トルネドスラッシュの性質上、風の刃を生身で防ぐことなどほぼ不可能である。
風の刃が肉体を引き裂き、少なからず傷を負うことになるのは当然ながら、竜巻に触れればそれこそ肉体が吹き飛んでしまう。こうなると怪我どころの話ではない。
即死レベルの魔法ではなかったが、審判をしていたのが別の先生であればゾランが反則負けになっていてもおかしくはなかった。
「風の刃か。確かにあったが、あんなものは魔力の流れが分かれば回避することなんて造作もないだろう」
「「「「「「……はい?」」」」」」
そして、アルは答えを間違えたようだ。
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