第75話:アルVSゾラン
第五魔導場にはFクラス全員が集まっていた。
最後にアルが教室を出た時には誰もいなかったので当然と言えば当然なのだが、それでも一人くらいは別のところに行っているのではないかと思ったりもしていた。
「さっさと来ないか!」
「はいはい、分かりましたよ」
中央ではすでにゾランが準備を終えており、アルの到着を待っていた。
「さて、それではルールは先ほど説明した通りです。どのような結果になろうと、私が下した判定には従ってもらいますがよろしいですか?」
アルとゾランが頷いたのを確認したペリナは、ニコリと微笑み右腕を上げる。
「それでは、準備はよろしいですか?」
「……おい! お前、発動体はどうした!」
「発動体? ……あぁ、そうか」
怒鳴り声をあげているゾランの右腕には金色に輝く宝玉が嵌め込まれた杖が握られていた。
アルには不要なのだが、魔法を発動するにあたり思考性を付けるために発動体を用いる者が多い。
リリーナやクルルも杖を発動体として魔法を使っており、ペリナもその例には漏れない。
ダンジョンでは斬鉄を発動体に見立てていたアルだが、実際は必要ないのだ。
「俺には必要ないから構わないぞ」
「なあっ!」
「アル君、それはさすがに……」
「ふざけやがって! いいさ、貴様は自分の言ったことを地面に這いつくばって後悔するがいい!」
呆れたような表情でペリナは見ていたが、アルは一つ頷くだけにとどめた。
「……分かりました。それでは、模擬戦を始めます――開始!」
開始の合図と同時に仕掛けてきたのはゾランだった。
「これでもくらえ――ファイアボール!」
突き出された杖の宝玉が輝きを強めると、杖先に火の玉が顕現した。
だが、それはアルが今まで見てきたファイアボールの中でも一際大きなものだった。
「だが、想定内だ」
撃ち出されたファイアボールを大きく横に飛んで回避したアルは、じっくりとゾランの動きを観察する。
(心の属性が火属性という可能性もあるが、おそらくそれはないだろう。スプラウスト先生はわざわざクルルと同等の、と言った。ということは、火属性以外の属性と考えるべき。先制で火属性を放ったのは、おそらく戦略的なものだな。しかし――)
「まだまだいくぞ!」
アルが思考の海に沈む中、ゾランの猛攻が止まることはない。
連続して放たれるファイアボールは傍から見れば脅威に映ったかもしれないが、アルからしたらそんなことはない。
あくまでも連続で放たれているわけで、同時に放たれているわけではなく、であればファイアボール同士の間には隙間が生じている。
その隙間へ縫うように移動を繰り返し、アルは全ての攻撃を回避し続けていた。
「……な、なめやがって!」
(そろそろ来るか?)
「これが、俺様の本気だ! トルネドスラッシュ!」
宝玉が今まで以上に輝きを増し、膨大な魔力が突風となり第五魔導場を包み込む。
「……周囲の風に、魔力が注がれているのか?」
「謝っても、もう遅いからな!」
「いや、謝るつもり何て毛頭ないんだが?」
「き、貴様、この期に及んでまだ俺様を愚弄するのか!」
「そんなつもりはない――」
「黙れ! もう許さん、絶対に許さん! 粉々になりやがれ!」
ゾランの怒声が発せられるのと同時に、第五魔導場には五つの竜巻が顕現した。
竜巻はアルを中心にして五ヶ所にあり、円を描きながら徐々に近づいて来ている。
「竜巻に近づけば風の刃に斬り裂かれ、触れれば暴風に晒され肉体が吹き飛び、動かなくても竜巻から徐々に近づいていく。これが俺様の本気――レベル4の魔法だ!」
「レベル4、だと?」
アルは首を捻っていた。
ペリナは確かにクルルと同等だと口にした。それは、レベル3が最高だということだ。
ならばペリナが嘘をついたのかとも考えたが、その可能性は低い。何故なら、ペリナはアミルダから脅されていると言っていたからだ。
もしくはそれすらも嘘なのか――いや、それも違う。それはペリナの表情を見れば明らかだった。
「……嘘、何よこれ」
となれば、最後に行きつく先はゾランが手にしている杖である。
「これで、貴様に逃げ場はないぞ!」
「……なるほど。それが
「マ、魔法装具ですって!?」
驚きの声をあげたのはペリナだった。
魔法装具はとても高価なものであり、個人が購入することはほとんどない。
ノワール家にも一つはあるということだが、それは当主にしか扱えないものとされている。
だが、それはノワール家が下級貴族だからであり、上級貴族のザーラッド家が複数所有していても不思議なことではなかった。
「これは、父上から頂いた俺様の魔法装具! これがあれば、俺様はレベル3の風属性をレベル4に引き上げることができるんだよ!」
「なるほど。それは良いことを聞いた」
「ほら、さっさと負けを認めろ! 今なら、この魔法を止めてやってもいいんだぞ?」
いくらアルでもトルネドスラッシュをまともに受けてしまえば怪我だけでは済まないだろう。
レベル1しか持たないアルでは勝ち目はない。誰もが負けを認めると思っていた。だが――
「……ふっ」
「な、何がおかしい!」
「いや、ゾランはさっき謝ってももう遅いと言っていたじゃないか。それなのに、ここでは負けを認めれば魔法を止めてくれるんだと思ってな」
「……き、貴様はああああああぁぁっ! ならば、吹き飛んでしまえ!」
ゾランの怒りに呼応するかのように竜巻は速度を上げ、アルめがけて一気に突っ込んでいった。
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