第79話:話し合い

 午後の授業ではほとんどの生徒が第五魔導場に移動していたので教室はがらんとしていた。

 ゾランの姿もなく、自ずと第五魔導場にいることが分かったのでアルたちは教室組だ。

 そうなるとペリナからの追求が始まるのではと思っていたのだが、予想外に普通の授業内容で進行されていた。


「きっと学園長に相当怒られたのね」

「スプラウスト先生、今にも泣き出しそうでしたし」


 よく見ると目元が少しだけ赤くなっているので本当に泣いたのだろうとアルは溜息をつく。


 滞りなく授業が終わり、その後も特に追求されることがなかったので帰宅の途につく。

 その際、明日からの予定について話題が上がった。


「教室で座学か、ダンジョンで実戦かだな。みんなはどうしたいんだ?」


 アルが質問すると、座学が二名、ダンジョンが三名となった。

 ちなみに、座学に手を上げたのはリリーナとキースである。


「復習をすることも大事ですから」

「それに、本来なら僕たちにダンジョンは早すぎるんですよ」

「でもよー、教室にいたら眠くなっちまうんだよなぁ」

「エルクに同意」

「私もー。それに、体を動かしている方が性に合ってるしね」


 二対三と意見が分かれ、残るはアルのみとなった。

「俺はダンジョンかな」

「よっしゃー! それじゃあ明日はダンジョンなー!」

「目指せ、二階層攻略」

「決まったなら、目標を持たなければですね」


 エルクたちの成績は、二階層進出。攻略ではなく、あくまでも進出だ。

 一日目でなんとか一階層を攻略したのだが、残り二日で下層に向かう階段を見つけることができなかった。


「それじゃあ、俺たちはエルクたちのサポートに回るか」

「そうですね」

「何かあったら助けるけど、基本は傍観するからねー」

「へっへー! 俺たちだって成長してるんだ、やってやろうぜ!」

「ばっちこーい」

「が、頑張りましょう!」


 明日の予定が決まったところで、それぞれが自宅の方向へと歩いていった。


 ※※※※


 晩ご飯を食べるために廊下を歩いていたアル。

 すると、久しぶりに顔を会わせる人物が向かいから歩いてきた。


「……ガルボ兄上」

「……」


 アルは声を掛けたのだが、ガルボからは返事がない。

 さらに、すれ違う瞬間──


「……ちっ」


 舌打ちが耳に届き、アルは振り返ることができなかった。


「……どうして、こんなに嫌われたんだろうな」


 そんなことを考えながら、アルはリビングへと向かった。


 すでにレオンとラミアンは姿を見せており、今日はアンナの姿もあった。


「アルお兄様!」

「なんだか久しぶりだな、アンナ」

「勉強に忙しかったんです」

「いや、俺も学園でバタバタしていたから」

「今日はゆっくりお話をしながら食事を楽しみましょう」

「そうだな。それに、今日も面白い話が聞けそうだからな、アル」

「面白いかは分かりませんが、話題は提供できると思いますよ」

「それは楽しみだな」


 笑みを浮かべたレオンを見て、ラミアンとアンナも笑っていた。

 こうして始まった食事はとても楽しく、アルは内心でガルボとキリアンがいてくれたらもっと楽しいのかなと考えたりもしていた。


「そうか、ザーラッド家の次男を倒したか!」

「はい。さすがにレベル4の魔法が使われた時は驚きましたが、隙はありましたから」

「普通は止めるべきではないのですか?」

「そこはまあ、スプラウスト先生の裁量ってところなのかな」

「あの子の場合は、単純に忘れていたって可能性もあるわね」

「……いや、審判がそれじゃあダメな気がするんですが」


 笑い声が漏れる食事が終わり、アンナは一足先に部屋へと戻っていく。

 残った三人は、別の話題を口にしている。


「ガルボ兄上とすれ違いました」

「そうか……」

「兄上の食事は?」

「おそらく、一人でキッチンで食べて戻る途中だったはずだ」


 おそらく、と言ったのはレオンも事実を知らないからだ。

 この場に姿を見せていたなら話を聞けたかもしれないが、ガルボはリビングに──両親にすら会わないようにしていた。


「あの子、アルが最初のパーティ訓練で七階層まで進出したことに嫉妬しているのよ」

「そうなんですか?」

「あぁ。そのせいか、座学もそこそこにダンジョンに入り浸っているという報告も受けている」


 三年次になると、成績次第では自由な時間が増えてくる。

 ガルボの場合は修了していない科目もあるのだが、それすらも放り出してダンジョンに潜っていた。


「キリアンに負けるのは仕方ないと思えても、弟でFクラスのアルに負けるのだけは許容できないようだな」

「俺は別に勝負をしているわけじゃないんですけどね」


 アルは苦笑するに止め、この日は部屋へと戻っていった。


「……なんとか、仲直りできないものかな」


 そんなことを考えながら、アルは眠りについたのだった。

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