第67話:そして帰宅へ
学園長室を後にしたアルたちは、そのまま学園を後にした。
午前中ではあったものの、パーティ訓練最終日ということでダンジョンから戻ってきたパーティはそのまま帰宅しても良いと学園側が判断していたのだ。
もっとも、午前中で戻ってきてすぐに帰宅するパーティがいるとは思っていなかったのも事実である。
他のパーティはダンジョンの下層を目指してさらに進んでいるのだからその判断に間違いはないだろう。ただ、アルたちが特別だったのだ。
「アル、あなたの判断は間違いありませんでしたよ」
「ありがとうございます。ですが、本当にどうして教えてくれなかったのですか?」
「それは先ほど言ったじゃないの。アルならできると思ったからよ」
「……実際は、危なかったです。それに、八階層には行けなかったんです」
「だけど、あの言い方なら他の目標は達成できたのではないですか?」
ラミアンの言葉に、アルはリリーナとクルルに視線を向けて苦笑する。
「なんでもお見通しなんですね、母上は」
「やはり……それで、その素材は持っているのですよね。学園長室では、それなりの素材は出てきましたが、魔法装具に適した素材は一つもありませんでしたから」
「あぁ――リリーナ」
「は、はい!」
アイテムボックスから取り出した素材はブラックウルフの全ての素材だった。
だが、それはアイテムボックスに入っていた全ての素材であって、別で確保していた素材は含まれていない。
アルはリリーナに預けていたブラックウルフの牙を受け取ると、ラミアンに手渡した。
「……これは、素晴らしい素材ですね。特殊個体と言っていましたが、それは本当なのですか?」
「おそらく。普通のブラックウルフよりも確実に大きかったのは間違いありません」
「そうですか。……まあ、そのおかげでこのほどの素材が手に入ったのですから、良しとしますか」
少しだけ考え込んだラミアンだったが、すぐに表情を元に戻してそう告げる。
一瞬の違和感に気づいたのはアルだけだったが、そのことをすぐに言及することはしなかった。
「ところでラミアン様。こちらの素材はどれほどの価値があるものなのですか?」
「あっ! それは私も気になるかも。うちの道具屋にも素材が置かれることはあまりないし、魔法装具なんて以ての外だもんね」
「そうなのか。母上、どうなのですか?」
三人が興味津々で答えを待っていると、ラミアンは満面の笑みで口を開く。
「この素材はね――一般家庭が消費する金額一年分くらいの価値はあるんじゃないかしら」
「「「……えっ?」」」
「リリーナちゃんはエルドア家ですし、クルルちゃんは商家の娘ですから、これくらいは特に気になりませんよね? アルはもちろん、私の息子なんだからね」
「「「き、気になりますから! 大金じゃないですか!」」」
声を揃えて驚いている三人を見て、ラミアンはクスクスと笑っている。
「まあ、それだけ魔力透過性の高い物は高価だということよ。素材だけでもこれくらいするのだから、魔法装具になればさらに跳ね上がるんだからね」
「……も、もう、聞かないことにします」
「……そ、そうね。うん、それがいいわ」
「それで、この素材はどうするのかしら? 売却して三人で分けるのもありですよ? もし売却するなら、私が口利きしてあげてもいいですし」
ラミアンの質問を受けて、アルはリリーナとクルルに相談しようと振り返ったが、二人は声を揃えてこう答えた。
「「魔法装具を作ってください!」」
「お、おい、二人とも」
「そして、それをアル様に」
「それが有意義な使い方よね」
「いや、それでは俺だけが得をすることになるじゃないか」
慌てて二人の答えを訂正しようとしたのだが、それでも意見を覆そうとはしなかった。
「アル様はああ言ってくれましたが、やはり一番の功労者はアル様です」
「そういうことよ。それに、私たちではその素材は手に余るもの」
「うふふ、二人ともとてもお優しいのね。それで、アルはどうしたいの?」
三人の視線がアルに集まった。
アルは当初、魔法装具を作ってもらいたいと思っていた。だが、三人で力を合わせて手に入れた素材を自分のためだけに使ってもいいのかと葛藤もしていた。
そして、最終的には売却してその金額を分けることが最善だと答えまで出していたのだが――
「……もし、二人が許してくれるなら、俺は魔法装具を作ってほしい。そして、それを使って新たな魔法を学園にもたらしたい」
「新たな魔法って……あれですか?」
「きっと、あれね」
「あぁ、あれだ」
ブラックウルフに深手を負わせることに成功した魔法と剣術を掛け合わせた新たな魔法――魔法剣。
魔法剣が学園に認められれば、レベル1しか持っていないアルでも上位の成績を修めることができるかもしれない。
だが、それには魔力透過性の低い素材では意味がなく、ソードゼロのように砕けてしまうだろう。
「アル、新たな魔法とはなんですか?」
「……母上にはまだ内緒です」
「な、なんでよ~!」
「俺たちを騙した罰です」
「そ、そんな! リ、リリーナちゃんとクルルちゃんなら、教えてくれるでしょう!」
「私たちは、アル様から許可がなければ話せません!」
「アルが考えた魔法ですから、勝手には口にできませんよね。これでも、商人の娘ですから」
「……ア~ル~~~!」
逃げるように走り出したアルの背中にラミアンが声を掛けた。
その様子を見てリリーナとクルルは顔を見合わせて微笑んでいる。
アルは、学園生活を楽しめるのではないかと心の底から思っていた。
――だが、アルの考え出した魔法剣が騒動を巻き起こすことになるのは、もう少し先の話である。
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