第65話:ダンジョン・帰還②

 今回の見張りも二番目でいいと言ったアルだったが、二人から猛反対を受けてしまった。


「アル様はゆっくり休んでください!」

「私が二番目に入るから、最初か最後のどっちかにしなさい!」

「……そ、それじゃあ、最初で――」

「いや、ちょっと待って。……アル、最初に見張りをするとか言って、魔獣を倒しに行こうとかしてないわよね?」

「そうなのですか、アル様!」

「そ、そんなことは言っていないんだが……」

「アルは最後ね!」

「そうですね、私が最初に見張りを行います!」

「……は、はい」


 そして、結局アルは最後の見張りとなり、今はこうしてルームの焚き火を見つめながらちょっとした作業をしていた。


「確かに、これは俺たち三人が初めて一緒に魔獣を討伐した記念だからな」


 アルの手もとにあるのは三階層で討伐したゴーストナイトの素材。

 ブラックウルフとの戦闘で使ったものは五階層で手に入れた素材で、三階層の素材はわざわざ別でアイテムボックスに入れていた。

 同じ魔獣、同じ素材と言われればそれまでなのだが、アルとしては思い出の品の一つでもあるので気持ちの問題だ。


「気に入ってくれるといいんだけどな」


 金属性で形を変えていきながら、目的の物を三つ作り上げていくのだった。


 ※※※※


 ――そして、三日目の朝。

 アルは二人を起こして事前に仕掛けていた罠を回収すると、出発前に作っていた物を手渡した。


「……アル様、これはいったい?」

「……うわぁ、めっちゃ細かくて、めっちゃ綺麗!」

「三階層で手に入れたゴーストナイトの素材で作った飾りだ。お粗末な物だから身に付ける物だと失礼になるだろうと思って、鞄とかに付けられるようにしたんだよ」


 リリーナには葉っぱをモチーフにした飾りを、クルルには炎をモチーフにした飾りを作っている。


「アル様のはどのような物なのですか?」

「そうよね。私たちのはよく使っていた属性をモチーフにしてるみたいだけど、アルは色んな属性を使ってたから気になるわ」

「いや、俺は属性とか関係ないよ」


 そう言って取り出した飾りは、剣をモチーフにした飾りだった。


「これこそ持ち歩けないから部屋に飾ることになるだろうけど、自分に作るとしたらこれしか思い浮かばなかったんだ」

「……うん、アル様らしいですね」

「……そうだね。ねえねえ、飾りの中央に何か書かれてるけど、これってどういう意味なの?」

「本当ですね。……この国の言葉ではないのですか? 全く読めませんが」

「それは模様だから気にしないでくれ。一応、三人とも同じ模様が入っているんだ」


 この世界の人間から見ると、模様と言われればそのように見えなくもないので、お揃いだと喜ぶだけで話は終わった。

 だが、実際はアルの前世で使われていた言葉を記している。

 その意味は――


「……心の友よ、ありがとう」


 二人には聞こえないよう、小さな声で呟いた。

 今のアルがあるのは二人のおかげだと思っている。

 入学試験でアミルダの魔力を見極めて変に目立ってしまい、そのせいでクラスでも浮いた存在になっていた。

 そしてペリナとの実戦授業で勝利してしまった時は、クルルが最後まで話をしてくれた。

 クルルに関して言えば、アルに絡んできたという言葉が正しいのだが、それでも今はパーティを組めるほどに仲良くなっている。


「アル様、帰りましょう!」

「ほらー、帰るわよー!」

「……あぁ、帰ろうか」


 自然と溢れる笑みに納得しながら、三人は残りの階層を一気に突破して地上へと帰還した。


 ※※※※


 三人の帰還後すぐに職員室へと向かった。

 ペリナへの報告と回収した素材の評価を見てもらうためだった――だが、三人の姿を見つけたペリナは勢い良くイスから立ち上がると、三人の手を引いて学園長室へと直行した。


「あ、あの、スプラウスト先生、どうしたんですか?」

「報告は学園長室で聞きます。今は何も言わないように」

「……はあ」


 三人は歩きながら顔を見合わせると、首を傾げながらもついていく。

 そして到着した学園長室にはアミルダともう一人の人物が三人の帰還を今か今かと待っていた。


「は、母上?」

「あら、おかえりなさい、アル」

「全く、心配を掛けさせるなよ」

「心配って、ヴォレスト先生は母上から事情を聞いていたのでは?」

「そうだけどね。最初のパーティ訓練で八階層を目指すだなんて、例がないことをされるとねぇ」

「例がないって、キリアン兄上がやっていたじゃないですか」

「……やはり、ラミアンの言う通り勘違いをしていたか」

「「「……勘違い?」」」

「うふふ、実はね――」


 三人はここに来てようやく自分たちが大きな勘違いをしていたことに気がついた。

 リリーナとクルルは唖然とし、アルはラミアンに詰め寄っていた。


「き、気づいていたなら教えてくれてもいいではないですか!」

「だって、アルならできるって思っていたもの〜」

「で、できると思っていたって……言っておきますが、二人がいなかったら絶対にできなかったのです。母上も、少しは反省してくださいね!」

「はーい。怒られちゃった」


 最後は冗談混じりにそう口にしたラミアンだったが、アミルダとペリナは別のところに驚いていた。


「……ちょっと待て、アル。二人がいなかったら絶対にできなかったと言ったか?」

「はい、言いましたけど?」

「……アル君、もしかして、八階層まで行ってしまったのですか?」

「いえ、残念ながら八階層には届きませんでした。俺たちが行けたのは七階層までです」

「「……な、七階層おおおおおおぉぉっ!?」」


 学園長室に、アミルダとペリナの絶叫がこだました。

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