第54話:ダンジョン・四階層
休憩を終えた三人はすぐにルームを出てすぐに四階層へ下りる階段を発見した。
迷うことなく四階層へ進出すると、出てくる魔獣は一階層から三階層で遭遇した魔獣ばかり。
ただ、その数が尋常じゃないくらいに多かった。
「フレイムダンス! あぁーもう、全然減らないんだけど!」
「ア、アーススピア! こ、こっちからもまだ来ます!」
「ファイアボール! ……仕方ない、一度引こう!」
アルの判断で来た道を引き返すと、リリーナがアースウォールを発動させて追い掛けてこられないようしていた。
「助かる!」
「は、はい!」
一つを言えばすぐに返ってくる答えに、アルの表情は自然と笑みを浮かべていた。
だが、四階層に進出してからは思うように攻略が進んでいないことに変わりはなく、新たな問題をどのように切り抜けるか、そちらを考える必要があった。
「この辺りなら……魔獣もいないな」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……つ、疲れた~」
「全力疾走なんて、とても久しぶりです」
その場に座り込むクルルとリリーナに苦笑しつつ、アルは頭をフル回転させる。
現状、広範囲に威力の高い魔法を放つことは難しい。
メガフレイムの爆発に巻き込むことができればある程度の数は削れるだろうが、魔力消費が多いため乱発はできない。やってしまえばクルルが倒れてしまうだろう。
ならばレベル2を多く持つリリーナと二人を前線に立たせてアルが援護に回るという布陣も考えたが、それでは威力をカバーすることができず、結局魔法を乱発することになるため解決とはならない。
「……となると、やっぱりやるしかないか」
「何か策でもあるの?」
「な、なんでもします!」
「いや、これは俺の問題だから、二人は今まで通りで構わないよ」
「アル様の問題ですか?」
「……あっ! もしかして、喫茶店で言ってたあれ?」
クルルが核心を突くと、アルはニヤリと笑い大きく頷いた。
「あぁ、魔力融合だ」
属性同士を組み合わせて発動させることで、新しい属性の魔法を放つことができる魔力融合。
組み合わせによっては威力や範囲を高めることができ、その両方を併せ持つ魔法を発動することも可能だ。
アルの場合はレベル1という足かせはあるものの、全属性持ちという利点が魔力融合には大事になってくる。
「魔力を多く消費するが、それに見合うだけと魔法を放つと約束しよう」
「……了解、それじゃあ今度こそ、あの群れを突破して四階層とはおさらばしましょう!」
「私も、頑張ります!」
方針が決まったところで立ち上がった二人を見て、アルは魔獣の群れがいるだろう通路を見据える。
「……よし、行こう」
「「はい!」」
そして、魔獣の群れとの二回戦が始まった。
リリーナが発動していたアースウォールは破壊されており、魔獣の群れは散り散りになっている。
だが、一度戦闘が始まればその音を聞きつけて一気に集まってくるだろう。
まずは今目の前にいる魔獣を確実に仕留めて、できる限り数を減らしておくことも必要となる。
「……クルル、リリーナ、準備はいいか?」
「ばっちりよ」
「こっちもいけます」
「よし、それじゃあ──ウッドスピア!」
水属性と木属性を融合させたウッドスピアは、蔦の先端を鋭利な刃物に見立てて突き出し、威力をその一点に集中させた魔法。
水を得てより数を増し、太く力強くなった蔦はアルの思うがままに動いて魔獣を一撃で貫いていく。
「……す、凄い」
「……これが、魔力融合」
「……二人も、魔法を!」
威力と範囲を高めることができる魔力融合だが、魔力消費は激しい。
事前に伝え聞いていたとはいえ、今まで余裕を見せていたアルの苦しそうな表情を見た二人は慌てて魔法を発動させていく。
ファイアランスにアーススピア、どちらも的確に魔獣を捉えて仕留めていった。
だが、当初の予想通りに魔獣の足音がどんどんと近づいてくる。
「よし、この場は二人に任せるぞ」
「無理はしないでくださいね!」
「何かあったら絶対に声を掛けなさいよ!」
心配する二人の声に親指を立てて応えると、アルは足音が近づいてくる通路を前に仁王立ちをする。
そして、戦闘の魔獣が姿を現したと見るや、水、木、そして土の三属性による魔力融合を解き放つ。
「これが、今の俺にできる最高の広範囲、高威力の魔法だ──トールサンダー!」
通路の幅は三メートル、高さは五メートル程ある。
魔獣はその通路一杯に押し寄せてきたのだが、トールサンダーは通路全体を射程に収めての砲撃となり、一撃で絶命に追いやってしまった。
トールサンダーが消えた後もバチバチと雷の余韻が残るなか、アルは踵を返して二人に加勢する。
「あっちはしばらく大丈夫だろう。ここを一気に片付けて、先に行くぞ!」
「……何て言うか」
「……凄いの一言ですね」
その後、残っていた魔獣を各個撃破した三人は魔獣の群れを突破して五階層に下りる階段を発見した。
階段を目の前に喜びを露にしていたリリーナとクルルだったが、アルの表情に疲労の色が濃く出ていることには気づかなかった。
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