第51話:ダンジョン・三階層②
振り上げられた剣を目の前にして、アルは至近距離でファイアボールを放つ。
「吹っ飛べ」
『コオオオオォォッ!』
至近距離であるにもかかわらず威力を抑えることもしなかったファイアボールは、狙い通りに剣に命中して吹き飛ばした。
「お前には、二人がさらに自信を付けるための踏み台になってもらうぞ」
『コオッ!』
剣を失ったゴーストナイトは即座に盾を正面に構えて守りを固め始めた。
その直後に地面が揺れ、亀裂が走りバランスを崩して盾が傾いてしまう。
直後にゴーストナイトの両腕、両足を縛り上げたのがリリーナのウッドロープだった。
「ま、間に合いました!」
「こっちもいくわよ!」
クルルの声を背中に受けて、アルは再びファイアボールを放つと左手の盾も弾き飛ばした。
剣と盾、両手の装備を失い、身動きも取れないゴーストナイトに成す術はなく、メガフレイムの直撃と共に絶叫と共に絶命した。
「ふぅ、やれたわね」
「アル様、大丈夫でしたか?」
「俺は大丈夫だ。二人とも、ありがとう」
アルならば単身でもゴーストナイトを倒すことができた。
それこそ魔力融合もそうだが、実のところ普通の魔法でも使い方を工夫することで倒すことができるのだが、あえて時間稼ぎだけに止めておく。
それは目の前で笑みを浮かべている二人の表情を見れば明らかだ。
「それにしても、アルは危険な行動を取り過ぎー!」
「そうですよ! いきなり魔獣に迫って行ったので驚きましたよ!」
「すまない。ゴーストナイトは接近を許すと厳しい相手だから、ああして誰かが注意を引きつけておくことが攻略の第一歩になるんだよ」
「そうは言っても、あれだけ動ける魔法師なんて普通はいないわよ?」
「アル様にしかできない攻略法なのでは?」
魔法師の中にも動ける者がいると思っていたアルだったがそうではなかった。
それならば接近を許した時はどうするのかと疑問に思ったのだが、今は地面に転がるゴーストナイトの死骸に目を向けることにした。
「魔力透過性はほとんどないが、単純に金属として見れば質の高い素材だったはずだ」
「そうなのですか?」
「これなら私も分かるわよ。うちでもゴーストナイトの素材で作られた商品を取り扱っているもの」
「それは心強いな。ちなみにどういった商品があるんだ?」
「それこそ色々よ。調理器具にアクセサリー、金庫なんかもあるわね」
「き、金庫?」
「結構丈夫なのよ、ゴーストナイトの素材って。まあ、庶民が使う金庫って言った方が分かりやすいかな。貴族様はもっと丈夫な素材を好むしね」
言われてみればメガフレイムを受けて直撃した場所は穴が開いているものの、そこ以外には多少の焦げがある程度でひびなども入っていない。
魔法で穴が開く以上、クルルが言う通り貴族は敬遠するだろうが、庶民からすると強度的には全く問題ないのだろう。
「一応、回収しておくか」
「そうですね。今のところベビーパンサーの毛皮と牙、それにポイズンビーの毒針でしたから三つ目ですね」
「でもでもー、これは私たち三人が力を合わせて倒した魔獣だし、感慨深いよねー!」
「クルル様、その通りですね!」
「言われてみると、その通りだな」
上層の魔獣はアルだけだったり、指示は出したもののリリーナとクルルの二人で倒してきた。
ゴーストナイトの討伐ではアルが注意を引きつけ、リリーナが動きを止め、クルルが止めを刺した。
「……よし、ゴーストナイトの素材では俺が面白いものを作ってやるよ」
「何ですか、その面白いものと言うのは?」
「内緒ですよ」
「隠し事はんたーい!」
「このパーティ訓練の最中には渡すから、それくらい我慢しろ」
そう言って学園側から支給されたアイテムボックスに素材を放り込む。
「それにしても、このアイテムボックスというのは非常に便利だなぁ」
「生き物以外なら何でも入って、容量に制限がないって言うんだから、そりゃねぇ」
「貴族家でも持っている家はあまりないそうですよ」
パーティ訓練を行う時には、必ず学園からアイテムボックスが貸し出される。
これは手に入れた素材を無駄なく持ち帰らせるための措置なのだそうだが、リリーナが言う通りとても高額な物であり、魔法学園とはいえ複数確保しているというのは相当破格なんだとか。
それだけの物なので盗難対策もされており、全てのアイテムボックスには位置情報特定の魔法が付与されていた。
「ちなみに、買おうとしたらいくらくらいになるんだ?」
「……家が一軒、建つくらい?」
「……エルドア家は持っていませんよ?」
「……こ、壊さないように注意しないとな」
肩掛け鞄の形をしているので外さなければ無くすことはないだろうが、魔獣との戦いで壊してしまうことがあるかもしれないと、アルは改めて気持ちを引き締めた。
「それにしても……うふふ」
「どうしたの、リリーナ?」
直後にはなぜだかリリーナが笑いだしたのでクルルが首を傾げながら声を掛けた。
「だって、先ほどの戦闘の時に、アル様から呼び捨てにされたのが嬉しかったのです」
「……あー、そういえば、そうでしたね、すみませんでした」
「あ、謝らないでください! その、私もアル様と親しくなりたく思いますし、呼び捨てにされる方が、嬉しいかなって……」
「うーん、ですがやはり貴族家同士ですし」
「いいんじゃないの? ここには私たちしかいないわけだし、貴族の体裁もいらないでしょ?」
リリーナの主張とクルルの援護射撃もあり、アルはしばらく悩んでいたが苦笑しながら了承した。
「分かりました。では、ダンジョンでは――」
「け、敬語も必要ありません!」
「……分かった、そうするよ、リリーナ」
「は、はい!」
とても嬉しそうなリリーナに微笑みを返し、アルは前を向いて歩き出す。
その後ろではリリーナに向けてガッツポーズをしているクルルがいたのだが、アルが気づくことはなかった。
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