第42話:アルの部屋にて
裏庭でみんなと別れたアルは、部屋に戻って先ほどの出来事を思い返していた。
チグサとの模擬戦を振り返り復習をするのはいつものことだが、今回はレオンとラミアンの言葉も思い返している。
「……剣の道を諦めなくて本当によかった」
そのことが、アルの頭の中を埋め尽くしている。
剣術が過去の産物だと言われた時はこの世の終わりかと思った頃もあった。
だが、諦めずにレオンに願い出て、学ぶチャンスを掴むことができた。
そうしてチグサのことを知り、エミリアと試行錯誤の末に融合魔法を学び、そして一流の魔法操作を習得して魔法学園に入学することができた。
剣術を披露する機会はないけれど、その技術が役立っていることは間違いなく、このまま学び続けることができれば、いつかはこの世界でも剣の道を極めることだってできるかもしれない。
「……これも、俺に与えられた試練なのかもしれないな」
ヴァリアンテの力で剣術の能力を得たままで転生することができた。
もし、この世界で剣術が盛んに行われていたならこれほど苦労することはなかっただろう。
もしかしたらすでに剣士として名を馳せていたかもしれない。
だが、ここはそうはならない世界だった。
魔法国家カーザリアには、剣術などないに等しい状況だった。
「だけど、全くない訳じゃないんだ」
剣術を披露することになり、結果的にアルの将来については深く話をすることができなかったが、すでに考えていることもある。
実現できるかどうかは分からない。許可が下りるかも分からない。
当面の目標は学園を無事に卒業することなので、まずはそこからである。
「今日は、とても有意義な一日だったな」
言葉通りの一日だったが、不安なことも朝一で起きている。
「パーティ訓練、ダンジョンかぁ」
魔獣との戦いはアルにとっても未知数である。
人間とは違う思考で動き、迫り、攻撃を仕掛けてくるだろう。
下手を打てば学園が保有しているダンジョンでも死ぬことだってあるかもしれない。
一度、魔獣について聞いてみてもいいかもしれないとアルは考えていた。
「チグサさんか、エミリア先生にでも話を聞いてみようかな。キリアン兄上がいてくれたら、ダンジョンについても聞いてみたいけどなぁ」
キリアンは時折屋敷に戻ってきているようだが、それも一時間といられないようでまたすぐに出ていってしまう。
アルとはすれ違いなることがほとんどで最近は顔を合わせることもなかった。
「ガルボ兄上は……無理だろうな」
アルは特に気にしていないのだが、ガルボが一方的にアルのことをライバル視している節がある。
入学式にも顔を出してくれず、その日の晩ご飯にも顔を見せてくれなかったのだから、ダンジョンについて聞いても答えてはくれないだろう。
「まあ、できるだけの準備をしよう。そうすれば、自ずと結果はついてくるかな」
一つ伸びをしたアルは椅子から立ち上がると汗を掻いた体を洗い流すためにお風呂へと向かう。
引き締まった二の腕、割れた腹筋、12歳とは思えない体つきのアルだが、特別な筋力トレーニングをしているわけではない。
毎日の素振り、チグサとの模擬戦が、剣を振るために必要な筋肉をつけることにつながっている。
魔法師としては褒められたものではないが、それでも構わないとアルは思っていた。
「……冒険者かぁ」
アルが将来について考えていること、それは冒険者になることだった。
過去の産物と言われている剣術を、武術を取り入れているという冒険者は、アルにとってはとても魅力的な職業である。
だが、この国の王族は、貴族は武芸者のことをゴミだの虫だのと軽蔑している。
チグサを雇い入れているノワール家は他の貴族とは異なるのだろうが、そっちの方が少数派なのに変わりはない。
「だけど、俺にできることと言ったら、冒険者くらいなんだよなぁ」
レベル1しか持たない貴族なんて、政略結婚の駒にすらならないだろう。
アルがそんなことを望んでいないのだから、もしそうなったとしてもノワール家に迷惑を掛けることになるかもしれない。
「……除籍されたとしても、冒険者になることを考えておくかなぁ」
なんて親不孝な息子なのだろうと思ってしまったが、なぜだか両親は許してくれるような気がしていた。
二人なら、アルが進もうとしている道を遮るようなことはしないのだと。
「……もう、休むか」
お風呂を上がり体を拭いたアルは、寝巻きに着替えると髪が乾く前にもかかわらずベッドに倒れ込んだ。
「……明日も、訓練だな。学園では、場所を取れるだろうか」
明日のことを考えていたが、段々とまぶたが重くなっていく。
「……三日後は……パーティ訓練は……絶対に、成功……させ、る……」
気づけばアルは眠りに落ちていた。
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