第31話:パーティ訓練

 パーティ訓練は新入生が楽しみにしている授業の一つだ。

 だが、凶暴な魔獣がいないとは言っても実際に対峙することになるので入念な準備が必要とされており、それが突然許可されたと言われても困るものである。


「ちょっと、先生! さすがにいきなり過ぎませんか?」

「そ、そうですよ! パーティを組むための準備だって必要ですし、連携だって――」

「まあまあ、クルルさん、リリーナさん。さすがの私も今から、ということではありませんから」

「で、では、いつなんですか? 今までであればだいたい二週間後とかだったと思いますが?」


 パーティ訓練がいつになるのかクルルが確認を取ると、ペリナの笑みはさらに深くなり日付を口にした。


「ふっふふーっ! パーティ訓練は、三日後よ!」

「そ、それでも早すぎですよ!」

「異議は認めませんよ~! こういう楽しい授業は早い方が学園生活も楽しくなると思いませんか~?」

「お、思いません!」

「まあまあ、騒がないの~! ということで、今日の授業はパーティ組みと、そのまま連携を高めてもらおうと思います! 第五魔道場をすでに押さえているので、そっちに移動して構いませんからね~!」


 そこまで言い終わると、ペリナは来た時と同じスキップで教室を出て行ってしまった。

 残された生徒は数秒だけ固まっていたのだが、三人一組のパーティを組まなければならないこともあり我に返った者から行動を開始した。


「……スプラウスト先生って、何者なのかしら」

「……分からないが、おかしな先生だってことは間違いないな」

「……そうですね」


 クルルの疑問にアルが辛辣な答えを返し、リリーナが同意を示す。

 だが、アルたちにとっては好都合な面もある。


「パーティを組んだわけだし、とりあえず第五魔道場に移動しますか?」

「それ以外にやることはなさそうだもんね」

「連携を高めることは確かに重要ですものね」


 アルの提案に乗った二人は同時に立ち上がると、ざわついている教室の後方のドアからそそくさと廊下に出て第五魔道場へと向かった。


 当然ながら、まだアルたちしか第五魔道場にはおらず静かなものだ。

 連携を高める、とは言ったものの実際には何をしたらいいのか分からないリリーナとクルルは顔を見合わせている。

 そして、最終的にはアルの方へ顔を向けて来たので一つの提案を口にした。


「魔法適性とレベルを教えてもらってもいいだろうか」

「いいけど、どうして?」

「使える属性、それにレベルが分からないと連携を取ろうにも取れない。仲間の能力を把握して初めて連携を取ることができるからな」


 アルの説明に納得したのか、最初に口を開いたのはリリーナだった。


「私は水と木と土がレベル2で、光がレベル1です」

「レベル2が三つもあるのか、すごいな」

「これでFクラスだっていうんだから、学園のクラス分けの規定ってどうなってるんだろうねー」

「わ、私の場合は魔法操作に難があるからなんです」


 魔法操作は連携を取る上で重要な要素になってくる。

 アルは頭の中でリリーナの指導方針を考えながら視線をクルルへと向けた。


「私は火がレベル3、木と金がレベル1ね」

「レベル3なのか?」

「これでレベル2があれば入学試験も免除だったんだけどねー」

「だが、レベル3は貴重だぞ」


 そしてクルルの指導方針についても考え始めたところでクルルがアルに声を掛けた。


「アルは全属性持ちのレベル1だったわよね。そういえば、喫茶店で魔力融合とかなんとか言っていたけど、あれは結局なんだったの?」

「あっ! それは私も気になっていました、アル様」


 内心では覚えていたのかと思ったアルだが、今はまだ三人しか第五魔道場にはいないこともあり、仕方なく説明することにした。


「他言無用でお願いできるだろうか」

「いいけど、そんなにヤバいことなの?」

「いや、ヤバいというわけではないが、本来は一年次でやることではないからな。知られてしまうと変なやっかみ増えるかもしれないんだ」

「ふーん、そういうことなら仕方ないか」

「絶対に誰にも言いません!」


 二人から了承を得ることができたので、アルは魔力融合について説明を始めた。


「魔力融合は言葉通りで魔力を融合することなんだが、持っている属性同士を融合させて新たな属性の魔法を発動することを言うんだ」

「……そんなことができるのですか?」

「普通は二年次か三年次に習うことだから知らなくても無理はないだろう」

「そうなの? 兄さんからはそんなこと一度も聞いたことがなかったけど?」


 リリーナもクルルも上の兄姉から魔力融合という言葉を聞いたことがなかった。

 学年が上がるにつれて習うことであれば少しくらいは話題に上がっていてもいいのではないかと思ったのだ。


「エミリア先生が言うには、魔力融合は魔法操作が相当優秀でなければできないことらしいから、先生方が適正を持っている者にだけ教えていたのかもしれないな」

「あー、うん。兄さんは魔法操作が苦手だったみたいだし、教えられなくても仕方ないかも」

「わ、私も姉上からはそのような話は聞いたことがありません。兄上は魔法操作が得意だったのですが、あまり話をしなかったのでもしかしたら……」

「そうでしたか。まあ、魔力融合はレベルの低い人に必要な技術ですから、リリーナ様とクルルさんには必要ないのではないでしょうか」


 腕組みをしながらうーんと唸っているものの、その時間ももったいないと感じたアルはとりあえず連携を高めるため、さらにもう一つの提案を口にしてみることにした。

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