第30話:クルル・リーズレット

 ノワール家とエルドア家は貴族家なのだが、リーズレットの名前は聞いたことがない。

 リリーナはすでにその辺りの話を聞いていたのだが、アルは分からなかった。


「私は平民よ。まあ、商人の娘だから多少は金策もできたし、それで兄さんも私も魔法学園に入学できたってわけ」

「そうなのか。しかし商人の娘ということは、色々なところに顔が利くんじゃないか?」

「そうだけど……平民の事情なんてよく知っているわね?」


 疑問を口にしたクルルだったが、その内容は当然のことだった。

 貴族家の人間が平民の事情について知っているというのはほとんどなく、用事があったとしても使いの者を走らせることが多い。

 その証拠にリリーナはアルが口にした事情を知らなかったので感心した顔を浮かべていた。


 そして、アルの知識はもちろんアル・ノワールとしての知識ではない。

 田舎暮らしだったアルベルト・マリノワーナとしての知識からの発言だったので何とも言えない表情をしながら話を進めていく。


「まあ、それくらいはな。俺も何か欲しいものがあれば声を掛けていいかな?」

「おっ! いいカモになってくれるのかしら?」

「上客になりそうな相手にカモはないだろう、カモは」

「あはは! アルだったら許してくれそうだしねー!」

「……冗談だって知っているからな。だが、相手が相手なら処罰もあるだろうに」

「そこはちゃんと相手を選ぶわよ。これでも商人の娘として、人を見る目は養ってきたんだからね」


 そういってウインクをしてきたクルルに、アルは苦笑を返す。


「ねえねえ、授業内容の話に戻るんだけどさ! 一年次からもパーティ訓練があるのは知ってるよね?」

「……パーティ訓練?」

「アル様、知らないんですか?」

「あ、あぁ。学園の授業内容についての話はキリアン兄上とはしなかったから」

「もう一人の……ガルボさんとは?」

「……ガルボ兄上とは、あまり仲が良くないんだ」

「そうなのですね」


 アルの答えにリリーナは悲しげな表情を浮かべ、クルルは頭を掻きながら戸惑っている。


「二人とも、気にしないでくれ。これは俺とガルボ兄上の問題だからな。それよりも、パーティ訓練について教えてくれないか?」


 アルは話を変えようと話題に上がっていたパーティ訓練について聞いてみた。


「……それもそうね。パーティ訓練は三人一組で行う課外授業のことよ。学園が保有しているダンジョンに潜って魔獣を狩り、ドロップアイテムを持ち帰る訓練なの」

「そのドロップアイテムの価値によって評価が変わるんですよ」

「ダンジョンか……俺は潜ったことがないんだが、二人はどうなのですか?」

「私はないわね。というか、庶民にダンジョンは開放されていないもの」

「私もありません。話だけは聞いているのですが、学園保有のダンジョンにはそこまで凶暴な魔獣はいないそうですよ」

「そうなのですか。安全に実戦を経験できるというのはありがたい話ですね」


 顎に手を当てて考え込むアルだったが、二人がこちらを見ていることに気づいて首を傾げる。


「どうしたんだ?」

「今の話の流れで分からないの?」

「あの、パーティ訓練は三人一組なので、私たちでパーティを組まないか提案をしたかったんです」

「あぁ、そういうことか」


 合点がいったとばかりに頷いたアルは、笑みを浮かべてパーティを組むことを了承した。


「俺からもお願いするよ」

「よかった! ありがとう、アル様!」

「パーティ訓練は入学から二週間とか、それくらいに行われるらしいからよろしくね!」


 そう話がまとまった時に二限目が開始となった。

 ペリナは先ほどと同様にやる気のない表情――というわけではなく、むしろニコニコと笑いながら、それもスキップをしながら教室にやって来た。

 嫌な予感がひしひしと湧きあがって来たアルだったが、その予感は的中してしまう。


「みなさん、喜んでください! 面白い授業ができることになりましたよ! 実戦に重きを置くアミルダ学園長だからこその指導方針、授業内容! あぁ~、無理を言ってユージュラッド魔法学園に赴任させてもらってよかったわ~!」


 一人でテンションが上がりまくっているペリナへの質問を誰がするのか、その視線は勝手に学級長に任命されたアルに全生徒から注がれる。

 わざわざ後ろを振り返らなくてもいいのにと思いながら、アルは仕方なくペリナへ質問を口にした。


「あ、あのー、スプラウスト先生? その授業とはいったい何なのですか?」


 アルの質問に対して、ペリナは瞳を輝かせながら満面の笑みを浮かべて答えた。


「よーくぞ聞いてくれました、アル君! 今回、許可が下りた授業というのは――パーティ訓練! つまり、ダンジョンに潜ることができるんですよ!」

「「「「……はああああああぁぁ!?」」」」


 ペリナの答えを聞いた全生徒から、驚きの声があがった。

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