第29話:学園二日目

 翌日の教室では、アルの両隣にリリーナとクルルが腰掛けてきた。


「……これはいったいどういう状況なのでしょうか?」

「リリーナと相談した結果、アルの強さの秘訣を見抜くためには近くにいる必要があると判断したのよ」

「はい! なので、私たちでアル様の隣を占領させていただきます!」

「……いや、どの結果からどうしてそんな判断に至ったのか、詳しく知りたいものだぞ」


 顔を手で覆い溜息をつくアルだったが、ペリナが入ってきたことで異議を唱えることができず、そのまま授業が始まった。


「えー、今日の授業は魔法を使う意味について考えていきたいと思いまーす」


 ただ、ペリナからはやる気が見られず生徒がざわつき始めている。

 その理由になんとなく心当たりがあったアルは、内心で大きな溜息をついた。


「……こうもあからさまに態度に出すのか、あの先生は」

「スプラウスト先生、どうしたんでしょうか」

「昨日はあんなにやる気満々だったのにね」


 そして、昨日の教室でペリナと遭遇したはずの二人が気づいていないことにもアルは愕然としていた。


「あー、うん、どうしてだろうな」


 そんな相づちを打ちながら、アルは淡々と語られていくペリナの講義に耳を傾ける。


「我々魔法師はー、外敵から身を守るためー、国を守るために強くなりまーす。それは敵国はもちろんのことー、魔獣を退けるためでもありまーす」


 カーザリアは現在、隣国であるハシュドランドと敵対している。

 大きな戦争にまでは発展していないが、いつそうなってもおかしくはない状況だ。


 そして、もう一つの脅威が魔獣である。

 人を襲い、時には同族すら喰らう悪魔の獣。

 魔獣はカーザリアだけではなく全大陸に存在し、全人類の敵となっている。


「現在主流になっている戦い方は魔法でのドンパチでありー、わざわざ敵の目の前に行って戦うなんてことは愚の骨頂ですー」


 聞き流していたアルだったが、今の発言にだけは眉をひそめてしまう。

 アルが極めようとしている剣術は敵の目の前で戦うことを意味しているのだから、それを愚の骨頂とまで言われてしまうと良い気分ではない。

 だが、この場でそのことに言及するのはノワール家の名前を汚すことにつながるかもしれないと口を噤む。


「みなさんはー、強力な魔法が使える魔法師を目指してー、頑張ってくださいねー」


 そんな感じで一限目の講義は終了した。

 生徒は当たり前の講義内容に暇を持て余していたのか、ペリナが教室を出た瞬間から突っ伏して息を吐き出していた。

 アルは一番後ろの席にいて誰も見ていなかったが、背を正したまま真剣な表情を崩していない。


「……アル様、どうしたのですか?」


 その様子に遅れて気がついたリリーナが声を掛けると、アルは笑みを浮かべて大きく伸びをした。


「うーん! ……いや、なんでもありませんよ。一限目は何事もなく終わってよかったです」

「これが普通の講義内容なのよ」

「そういえば、クルルさんもリリーナ様も魔法学園の授業に詳しいようですが?」

「私もリリーナも上がいるから色々と聞いているのよ。そういえば、アルも上に二人いるんじゃないの?」

「そうですよ! 特に卒業生のキリアン様は生徒会長まで務めた優秀な方と伺っていますよ!」


 キリアンの魔法学園における最終成績は主席卒業に加えて生徒会長を務めあげた、である。

 卒業後すぐにレオンの下に就いて政務に励んでおり、すでに王都にも足を運んだことがあるというのは噂話として学園にも広がっていた。


「王都に行けるだなんてすごいことですよ! カーザリア魔法学園の誇りですよね!」

「うんうん! Aクラスで一度も首位の座を明け渡さなかったのも開園以来初めてだって言うし、本当にすごいわよね!」

「まあ、俺もキリアン兄上のことは誇りに思っているし、目指すべき目標だと思っているけど……比べられる立場としては時折、辛くも感じるかな」


 両親からは兄弟を比べられたことはないし、エミリアに至ってはアルの方が上だと言ってくれる。

 だが、周りにいる多くの人からすると当然ながらキリアンの方が褒めたたえられ、レベル1しか持たないアルに対しては誰からの期待も持たれていなかった。


「ガルボ兄上ともレベル差が歴然だし、俺は俺の好きなようにやらせてもらっていますよ」

「そっかー。優秀な上を持つのも大変なのねー」

「二人はどうなのですか?」


 そんなアルの質問に最初に答えたのはリリーナだ。


「私は兄上と姉上の二人がすでに卒業しています。話は主に姉上から聞いていましたが、可もなく不可もなくだと本人は言っておりました。ですが、私から見れば二人ともCクラスでとても優秀な方でしたので目標にしています!」

「そうなのですね。届きそうなのですか?」

「分かりません。でも、私もレベル差があるので届かなくても、近づければいいと思っています」


 最後は苦笑を浮かべながら決意を口にしてくれた。


「私は兄さんが一人だけど、どっこいどっこいって感じ。レベルも2と1しかなかったから入学試験も受けて、クラスもFだったしね」

「同じくらいなら、アドバイスとかももらえているのでは?」

「そうなんだけどねー。兄さんは卒業に合わせて家を出ちゃったからいないのよ」


 話はそこからクルルの家の話になっていった。

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