第28話:喫茶店にて
アルはここからの説明に上手く合わせられるか心配になりながらも耳を傾ける。
「後から知られることですから伝えても良いかと思いますが……どうでしょうか?」
「……」
「アル君?」
「……えっ? あ、大丈夫です」
説明を理解しようとするあまり、問い掛けられていることに気づかなかった。
不審な目をクルルから向けられたものの、そこは何食わぬ顔でエミリアに視線を戻す。
「アル君は全属性持ちなのです」
「えっ! アル様、そうなのですか!」
「あんた、すごかったのね」
「素が出てるぞ、クルル……さん?」
「もう! それでいいわよ!」
単に何と呼べばいいか分からなかっただけなのだが、言い方を怒られてしまったアルは頭を掻いた。
「そして、魔力を操作する実力に関しては抜きん出ているのです。その結果、自身の魔力だけならず、相手の魔力の動きや流れを感じ取る力もまた高くなったということです」
「へぇー、魔力操作にも長けているんだ」
「……でも、全属性持ちなのに入学試験を受けていたのですか?」
「あれ? 言われてみると変ね」
リリーナの疑問にクルルも同意を示すと、今度の視線はアルに向く。
「全属性持ちだからって、レベルも高いとは限らないということです」
「レベル3がなかったのね」
「レベル3どころか、レベル2もありませんよ」
「「……えっ?」」
「俺の属性は、全属性レベル1なんです」
複数属性を持つ場合、心の属性だけはレベルが高くなる傾向がある。
もちろん持っている属性全てがレベル1だということもあるのだが、それは二つや三つなど、持っている属性自体が少ない場合が多い。
全属性を持っていて、その全てがレベル1というのは、相当に珍しいことだった。
「……あー、えっと、その……ご愁傷さま」
「なんだよ、その言い回しは」
「で、でも、全属性持ちはすごいことですよ! 魔力操作に長けているということですし、レベル以上の力を出せるということではないですか!」
「うふふ、リリーナ様の言う通りです」
エミリアの言葉に三人の視線が集まる。
「アル君には以前に話しましたが、魔力操作に長けていればその分、魔力に触れる時間を短くできるということです。膨大な量の魔力を練り上げることや、細かな操作をすることも可能になるということです」
「それでも、レベル2相当の実力までしか出せません。二つ上のレベルというのは、それだけ実力差があるということですよね」
「そこを補うのが、魔力融合ではないですか」
「「……魔力融合?」」
リリーナとクルルは顔を見合わせる。
ただ、魔力融合に関してはエミリアも言い過ぎたと思ったのか苦笑している。
「話し過ぎましたね。アル君、そろそろ屋敷に戻りましょうか」
「あ、はい」
「ここの支払いは私がしておきましょう」
「えっ! そんな、エミリア様に出させるなんて!」
「そ、そうですよ! 自分の分は自分が払います!」
「エミリア先生、俺も自分で払います」
リリーナ、クルル、アルが口々に声を出したが、エミリアは微笑みながら構わないと告げる。
「大人の顔を立てるのも、社交の一つですよ」
そう言いながら立ち上がると、店員に声を掛けてささっと支払いを済ませてしまった。
「……これが、大人の女性」
「……エミリア様、格好いいわ!」
「そ、それじゃあ、俺はこの辺で」
女性陣がエミリアに見惚れているのを横目にアルも立ち上がる。
「あっ! アル様、明日もよろしくお願いします」
「また明日ね、アルー」
「最後は呼び捨てですか。では、また明日」
クルルの態度がコロコロ変わるのを見て苦笑しながら、アルはエミリアに続いて喫茶店を後にした。
屋敷までの道中で話をしていると、エミリアがあの喫茶店に入ってきたのは偶然ではなかったらしい。
「お昼ご飯を食べる場所を探していたところ、窓からアル君が見えたんですよ」
「それで声を掛けてくれたんですね、ありがとうございます」
「いえ、最後は少々口を滑らせてしまったので、ご迷惑になってしまったかもしれませんね」
「あー、魔力融合のことですか?」
魔力融合は一年次の生徒が習う内容ではない。
もちろん出来にもよるが、多くの場合が二年次や三年次から習う内容だ。
それを一年次──いや、アルの場合は入学前の段階から習っていた。
「剣術が使えないって聞いて、あの時は本当に焦りましたよ」
「それは私やチグサさんも同じですよ。まさか、剣術を魔法学園に持ち込めると思っていただなんて」
お互いに意思疏通ができていなかったと当時は反省していたが、今となっては笑い話になっている。
その結果として、アルは魔力融合をエミリアから習うことができたのだから。
「しかし、喫茶店での話を聞くと今年の指導方針は今までと大きく変わりそうですね」
「はい。魔力融合も最低二年次までは使わない予定でしたが、早い段階から出すしかなくなりそうですよ」
苦笑しながらアルが言うと、釣られてエミリアも苦笑する。
「できれば温存しておきたいですが、教師の授業内容も、その……ひどいみたいですからね」
「エミリア先生も言いますね」
「まあ、アル君ならどんな授業内容でも乗り越えてくれるでしょうけど」
「……善処します」
最後はエミリアに言い負かされてしまい、アルは肩を竦めるのだった。
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