第27話:事情説明

 話の途中だったのだが、ペリナが教室の見回りにやって来たことでアルたちは移動を余儀なくされた。

 というのも、ペリナがアルにしつこく付きまとおうとしたことでリリーナが移動を提案してきたのだ。


「ちょっとひどい! 私も秘密を知りたいんですけどー!」


 先生とは思えない発言を廊下にまで響かせていたものの、廊下の奥から不敵な笑みを浮かべながら歩いて来ていたアミルダを見つけていたアルたちは素直に逃げることを選択したのだ。


「あの後、スプラウスト先生はどうなったのでしょうか?」

「自業自得だと思うわよ」

「……いや、二人が仲良くなるのは構わないんだが、どうして俺まで一緒に食事をしなければならないんだろうか」


 初日の授業は午前中のみ。

 アルたちは場所を移動するために学園の外に出たのだが、その足で近くの喫茶店に入っていた。


「お昼時でしたし良かったではないですか」

「そういうことだ」

「……いや、リーズレットさんは俺に喧嘩を売ってきてたはずでは?」

「喧嘩じゃないわよ! 模擬戦の謎を知りたかっただけ!」

「だったら謎は解けたのでは?」

「あ、あれで解けるわけないでしょう!」

「そうですよ、アル様。教室でも言いましたが、普通はあのような動きできませんよ?」

「うーん、そう言われてもなぁ」


 頭を掻きながらどう説明するべきかを考えていると、喫茶店の入り口に見知った顔を見つけてアルはホッとした。


「エミリア先生!」

「おや? アル君、どうしたのです……か?」


 エミリアはアルのテーブルに近づいたのだが、一緒に座る女生徒二人を見つけて困惑している。


「えっと、これには深いわけがありまして……エミリア先生は一人ですか?」

「はい、お昼ご飯をと思いまして。ご一緒してもよろしいですか、お嬢様方?」

「「は、はい!」」


 エミリアの美しい所作に見惚れていたリリーナとクルルだったが、一緒に食事ができると分かったからかすぐに返事をしていた。

 現金なものだと内心で思いながらもアルは立ち上がりエミリアの椅子を引いてあげる。


「うふふ、本来はアル君が上の立場なんですけどね」

「家庭教師は卒業しましたから、女性をエスコートするのは男の役目です」

「気づかないうちに大人になったのですね。それで、何があったのですか?」


 自分の椅子に戻ったアルがペリナとの実戦授業の内容を説明する。

 最初は普段と変わらない表情で話を聞いていたエミリアだったが、アルが魔法の軌道を見抜きすり抜けたと聞いた辺りから右のこめかみをピクピクと動かしていた。

 そして、教室でのやり取りまで説明を終えるとエミリアは大きい溜息をついた。


「はああああああぁぁ。……アル君、あなたはいったい何をしに魔法学園へ入学したのですか?」

「魔法を学ぶためですが?」

「でしたら、本来は魔法に対抗するために魔法を使うべきでした」

「でも、俺の魔法レベルではペリナ先生の魔法に勝てる要素が一つもありませんでした」

「そこは……その担任教師に問題がありますね。答えが用意されている内容であれば問題ありませんが、答えが全て押しつぶされてしまう問題はいただけません」

「ですよね!」

「だからと言って、アル君の出した答えも正解とは言い難いので今後は気をつけるように」

「……はい」


 クルルに対しては強気な発言を繰り返していたアルを言葉で一蹴してしまったエミリアを見て、女性陣は再び見惚れてしまっていた。


「そして、その現場にいたのがリリーナ様とクルル様というわけですね」

「は、はい! 私はペリナ先生の魔法を切り抜けたアルさんの魔法を知りたいと思ったんです!」

「アル……さん?」

「い、いいじゃないのよ!」


 先ほどまでは呼び捨てやフルネームで呼ばれていたこともあり、疑問の声を漏らしたのだが逆に怒られてしまいアルはあまり納得がいかない。


「うふふ、向上心があるのはいいことですね」

「ありがとうございます!」


 だが、エミリアがそのことを知るはずもなくクルルの態度に同意を示した。


「わ、私は、入学試験の時に声を掛けさせていただきました」

「存じております。エルドア家の二女でございますよね」

「は、はい!」

「えっ、リリーナって貴族だったの?」

「はい。ですが、女性が当主になることはほとんどありませんし、そのうえ二女ですから貴族とは言っても庶民とほとんど変わりありませんよ」

「ふーん、そんなもんなのね」


 リリーナが貴族だと知ってもクルルの態度は変わらなかった。

 一般的に庶民が貴族と対等に話をすることはほとんどあり得ない。

 対等を謳っている学園ですら暗黙の了解で貴族上位の風潮が残っているのだからその外となれば当然なのだが、クルルの態度は変わらない。


「一応、俺も貴族なんだが?」

「アルさんのことは知っているわよ。ノワール家は有名だものね」

「……あ、そう」

「それで、アルさんの魔法の秘密って何なんですか?」


 話を戻したクルルが、今度はアルではなくエミリアに質問を口にした。

 ここで本当のことを言うこともできるが、それはノワール家当主であるレオンが許さないだろう。今現在でも兄弟にすら剣術を学んでいることを伝えられていないのだから当然だ。

 エミリアがどのように答えるのか、アルは固唾を飲んで見守っていた。


「……あれは、アル君が持っている属性が関係しているのですよ」

「「……属性?」」


 エミリアの説明に合わせるように、アルは意味を理解できないままだったが大きく頷いていた。

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