第21話:アミルダ・ヴォレスト

 アミルダの態度に溜息をつきながらレオンが返事をした。


「はぁ。アミルダ、普通は椅子に腰掛けて待っているものではないのか?」

「この無駄に豪奢な椅子にか? こんなもんは明日にでも破棄してやるさ。この無駄にでかい机すら邪魔で仕方ないんだぞ?」

「うふふ、アミルダちゃんは昔から質素なものが好きだったわよね」

「あー! ラミアン、そのちゃん付は止めてくれないかな? これでも一応は学園長なんだよ?」


 アルはとても楽しそうに会話をしているレオンを見て、瞬きを何度も繰り返していた。

 いつも冷静で、時に厳しく叱ってくれるレオンからは想像もできなかったのだ。


「それにしても、キリアンといい、この子といい、ノワール家は本当に安泰だよね」

「……ガルボもいるんだが?」

「ガルボ? ……あー、うん、あの子もそれなりにはやるよね」

「アミルダちゃん、そんな風に言わないで? ガルボだって頑張っているんだから」


 アルやキリアンに対する評価を口にした時よりも明らかに態度が変わったことから、アミルダの中でガルボへの評価はあまり高くはないようだ。


「仕方がないわ。私は誰に対しても平等だもの。それが親友の子供であっても同じことよ」

「そうだけれど……」

「ラミアン、それくらいにしなさい。アミルダの言う通り、平等であることは良いことだ。ガルボもこれからの努力でアミルダを見返してやればいいだけの話だからな」

「そう言うことよ」

「……あ、あのー」


 三人の会話に割って入るようにアルが恐る恐る口を開いた。


「俺はどうしてこの場に連れてこられたんでしょうか? 昔話に花を咲かせるなら、俺は席を外しますけど?」

「何を言っている。……と言いたいところだが、本来は学園長への顔合わせのために連れてきているのだが、アルの場合は入学試験で顔を合わせているんだったな」

「そうだ! レオン、この子はいったい何者なんだ? 私の魔力を見極めるなんて、ただ者ではないだろう!」


 興奮気味のアミルダだが、アルは冷静に否定を口にする。


「いえいえ、俺は普通の新入生ですよ?」

「そんなわけないだろう!」

「そうなんですよ。普通の新入生だから入学試験だって受けているんです」

「……レオン、なんでこの子は入学試験を受けているんだ?」

「……それは学園の規則に聞いてくれ」


 頭を抱えてしまったレオンは、視線でアルに『すまん』と謝ってきた。

 こんなことは今までなかったので、アルは驚き反面、新しいレオンを見ることができたので少しだけ嬉しさもあった。


「うーん、だからこそ惜しいんだよねぇ。新入生は一律Fクラスからでしょ? アルだったらAクラスでも問題ないでしょうに」

「レベル1しか持たない生徒がAクラスにいたら問題だろう」

「……はぁ。規則は規則か。でも、私が学園長になったんだから、授業についてこれなかったらAクラスの生徒だってどんどん落とすわよ。逆についてこられるならどんどん上げてあげるから、期待しているわよ!」

「……ぜ、善処します」


 最初はどんな人物なのだろうと警戒しながら観察していたアルだったが、レオンやラミアンと会話をしている姿を見ると、砕けた話し方が気になるくらいでそれ以外はとても良い人物なのだと判断を下した。


「明日から早速授業が開始されるから、頑張りなさいよね」

「あ、ありがとうございます、学園長」

「あぁ、そんなかしこまらなくていいわよ」

「いえ、そういうわけには……」


 アルがそのように告げると、なぜだかムッとした表情で突っかかってきた。


「だったらヴォレスト先生でいいわ」

「が、学園長ですから」

「入学試験ではヴォレスト先生って言ってたじゃない。それも睨みながら」

「あ、あの時は学園長だと知らなかったんです! それに、まさかお戯れであのようなことをしているとは思わなかったのですよ!」

「お戯れであのようなことをする学園長なんて、普通に先生と呼んでもいいんじゃないかしら?」

「いい加減にしないか、二人とも」

「お、俺もですか!?」


 レオンの叱責に驚きながらも、アルは渋々引き下がることにした。


「アミルダも止めてくれ。アルは新入生なんだぞ?」

「その割りには肝が座ってる感じがするけどね」

「まあ、アルは色々と経験しているからな」

「……ほほう、それはどのようなことなのかしら? 学園長として、非常に気になるところなんだけど?」

「あなた、そろそろ行きましょうか? アミルダちゃんも忙しいでしょうし」

「えっ! ちょっとラミアン、そんな急がなくても──」

「忙しい、わよね?」


 助け船を出してくれたラミアンの迫力にアミルダは完全に押されてしまう。


「……はい、忙しいです」

「そうよね。あなた、アル、行きましょうか」

「あぁ、そうだな」

「……お、おじゃましました」

「また明日ね、アル!」


 この場は立ち去ることができたが、明日からの学園生活を考えると憂鬱で仕方がない。


「とりあえず、リリーナ以外の友人を作らないといけないな」


 グループができればアミルダから変なちょっかいも少なくなるだろうと考えたアルは、目標を友人作りに置くこととした。

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