第20話:入学式
その後の再試験はアミルダが言った通り、最初に上手くできなかった人も含めて全員が問題なく魔法を発動することができた。
アルも例外ではなかったのだが、心の属性が全属性ということで試験官が困惑してしまい多少時間が掛かってしまったものの問題なく課題を達成させた。
※※※※
――そして翌日、アルは魔法学園の入学式に参加した。
三年前のガルボの入学式ではアルも顔を出していた。
キリアンもその時に顔を出していたので学生だから忙しくて顔を出せないということはないはずなのだが、式の場にガルボの姿は見えなかった。
しかし、その他の面々は顔を見せており、さらにチグサも遠くからアルを見つめている。
その姿を視界に収めたアルは手を振らずとも視線を合わせて軽く頭を下げると、チグサの表情が優しい笑みを浮かべていたのが嬉しかった。
入学式の最後には学園長の挨拶があるのだが、そこでアルは驚きの人物を目にすることになる。
おそらく入学試験を受けた者は全員が驚いていただろう。
「初めまして、と言うべきだろうか。私はユージュラッド魔法学園へ今年度より赴任した新しい学園長——アミルダ・ヴォレストだ」
入学試験を混乱の渦にしてしまった張本人、アミルダがまさかの学園長だったのだ。
「私の指導方針は実戦で使えるようにする、がモットーである。今までの学園長の指導方針を元に、私なりの指導へとドンドン切り替えていくので、そのつもりでこれからの学園生活を楽しんでほしい」
新入生だけではなく、入学式に参加していた在校生からもざわめきが聞こえてくる。
そんな中、アミルダは新入生の中にアルを見つけると謎のウインクをしてきた。
「……あー、マジか」
「どうしましたか?」
「いえ、なんだか目を付けられたっぽいので……まあ、いいか」
隣に座るリリーナの質問に溜息をつきながら答えたアルは、アミルダが壇上から降りるまでの間ずっと下を向いていた。
入学式が終わりホッと一息つこうとしたアルだったが、レオンとラミアンに呼び出されてしまう。
「学園長室に向かうぞ」
「……えっ?」
ガルボの時にもレオンとラミアンは入学式終わりに学園長と話があると言って学園に入っていた。
そのことがすっかり頭から抜け落ちていたアルは、またあの学園長の前に行かなければならないのかと頭を抱えたくなっていた。
「どうしたの、アル?」
「……いえ、ちょっと入学試験の時にありまして」
「聞いているぞ。アルが学園長の戯れを見抜いたのだろう?」
「あれは戯れで終わらせていいことなんですか?」
「あの人からするとそうなのだろう。最終的にはネタ晴らしをして試験をもう一度行っていただろうしな」
「父上は学園長とお知り合いなのですか?」
今までのやり取りから、レオンがアミルダと顔見知りなのではないかと気になったアルは率直に聞いてみた。
「アミルダは私とラミアンと同級生なのだよ」
「えっ! そうなんですか?」
「そうなの。だからアミルダちゃんがユージュラッド魔法学園の学園長になるって聞いた時は驚いたのよ」
「……なんとも破天荒な学園長なんですね」
やや呆れ声を漏らしたアルだったが、その様子を見たレオンは笑いながら不吉なことを口にする。
「あれくらいで驚いていてはいけないぞ、アル。アミルダはやる時は突き抜けてやる女性だからな。もしかしたらお前と気が合うかもしれん」
「……いや、そうは思いませんし、そうだったとしてもあまり関わり合いたくはありません」
「あらあら、そんなことを言っていたらアミルダちゃんから声を掛けてくるわよ?」
「……もう目を付けられていると思います」
「そうなのか? まあ、見抜いたのならそうだろうな」
学園長室に向かいながらの会話だったのだが、ここでアルは一つの疑問を口にした。
「……あの、父上。やはり、ガルボ兄上は来られないのですか?」
「……あぁ。あいつはあいつで壁にぶつかっている最中だからな。許してやってくれ」
「いえ、俺は構いません。ただ、少しだけ寂しいなって思っただけですから」
「アル……」
「でも、アンナも来てくれましたしキリアン兄上も政務の合間に時間を作ってくれました。エミリア先生やチグサさんも顔も出してくれましたし、俺は幸せ者ですよ」
ガルボが学園に入学してからは食事の時以外はほとんど顔を合わせていない。
仲が良いとは言えないが、それでも兄弟から声を掛けてもらいたいと思っていた。
「学園生活は長い。そのうち学園のどこかでガルボと顔を合わせることもあるだろう。その時にでも、アルから声を掛けてみてくれ」
「その時は、きっとガルボも応えてくれるわよ」
「分かりました。父上、母上」
そうして話をしていると、とうとう学園長室の前に到着した。
覚悟は決めたものの、いまだにあのウインクの意味がはっきりしないので多少の不安はある。
レオンが代表してノックをし、そして扉の中へと入っていく。
レオン、ラミアン、アルと続いて中に入ると、そこには豪奢な椅子ではなく机の端に腰掛けていたアミルダが出迎えてくれた。
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