最強剣士が転生した世界は魔法しかない異世界でした！ ～基礎魔法しか使えませんが魔法剣で成り上がります～

第22話：アルとガルボ

　屋敷に戻ってきたアルはその日の夜、細やかなお祝いが行われた。

　すでに政務に就いているキリアンは屋敷を出ているのだが、今日に限っては戻ってきてくれている。

　だが、屋敷で暮らしているはずのガルボだけはその場に姿を現さなかった。

「……さすがに、これはやり過ぎか」

　食事が始まる前にガルボを呼び出そうと立ち上がったレオンだったが、それをアルが止めた。

「俺は構いませんよ。ガルボ兄上も忙しいだろうし」

「いや、これは当主として見過ごすわけにはいかん」

「本当にいいんです。それに、学園生活が始まればそのうち会えると思いますから」

　アルの言葉と表情を見て、レオンは渋々席に戻った。

「全く、あいつにアルのような謙虚さが少しくらいあればよかったんだが」

「もう、あなた。そのように言わないでください。ガルボだって必死なのですから」

「……そうだな、すまなかった。それでは始めようか」

　ラミアンに諌められたレオンは今度こそ気持ちを切り替えて食事を開始した。

　レオンの左右にラミアンとキリアンが座り、アルはキリアンの隣でアンナはその向かいに座っている。

「アル、本当におめでとう。話は父上から聞いたけど、入学試験は大変だったみたいだね」

「あはは、本当に大変でした。まさか学園長が試験会場にいらっしゃるなんて思ってもいませんでしたから」

「そして、そんな学園長の戯れを見抜いたのだから、アルは私より優秀かもしれないな」

「まさか、キリアン兄上よりも優秀だなんて、口が裂けても言えませんよ」

　魔法学園は一二歳で入学することができ、三年から五年通って卒業課程を修了する。

　成績次第では最短三年で卒業することができるのだが、キリアンはまさに三年で学園を卒業してしまったのだ。

「俺は一般入学ですし、当然Ｆクラスです。五年掛けてゆっくりと卒業を目指します」

「まあ、現実がどうなるか楽しみにしているよ」

　それでもキリアンはアルが三年で卒業するのではないかと思っているようで笑顔のまま話を終わらせた。

「アルお兄様、おめでとうございます！」

「ありがとう、アンナ」

「私もアルお兄様のようにしっかりと勉強に励みたいと思います！」

「エミリア先生の言うことを聞いていれば、アンナなら俺をすぐに追い抜いてしまうんじゃないかな」

　アンナは魔法適性を判別すると、レベル４とレベル３を複数持っていることがすでに分かっている。

　レベル１しか持たないアルとはスタート地点から差がついているわけで、すでに追い抜かれていると言ってもいいかもしれない。

「もう！　そのようなことは言わないでください！　……私は細かな魔法操作が苦手なのです。アルお兄様は確か、魔法適性を確認したその日で光属性を使ってお母様のお手伝いをされていましたよね？」

「そうそう、そうでした。全く、最近ようやくと思っていたら、あっという間に魔法学園に入学なのだから、子供の成長は早いものですね」

「あれからもう六年が経っているんですよ？　でもまあ、確かにそうだったね。俺もすっかり忘れていたよ」

　アルが覚えているのはチグサと剣術について語り明かした夜のことだけだった。

「……アルお兄様、どうしましたか？」

「ん？　いや、なんでもないよ。それにしてもレベル４に３とか、本当にアンナはすごいんだな」

「アルだけじゃなくて、アンナにも抜かれてしまいそうだよ」

「もう！　キリアンお兄様までそんなことを！　私は本当に悩んでいるのですよ！」

　頬を膨らませて怒ったふりをしているアンナに、その場の全員が笑みを浮かべている。

「あはは、ごめんよ。でも、魔法操作については僕よりも本当にアルの方が上手だから、何かあればアルに聞いてみるのも一つの手だと思うな」

「ですがキリアン兄上、俺はレベルの高い魔法操作は分かりませんよ？」

「基本は全て同じなのだから問題はないよ。それに、誰かに教えることも勉強になるから、アンナのためにもアルのためにもなるさ」

「お願いできますか、アルお兄様？」

「……まあ、アンナのお願いだったら受けないわけにはいかないけど」

「本当ですか！」

「でも、力になれる保証はないから、それだけは勘弁してくれよ？」

「そんなことはありません！　ありがとうございます！」

　とても嬉しそうに食事を再開させたアンナを見て、アルは自然と優しい眼差しになってしまう。

　思えば、前世でも後輩の騎士に対して色々と世話を焼いていた。

　特に従騎士に対しては剣術以外で礼儀作法なども教えていたものだ。

（……結局、俺に毒を盛ったのは誰だったんだろう）

　そんなことを考えながらグラスに注がれている水を見つめていたアル。

　視線を感じたアルがふと顔を上げると、そこには心配そうな表情を浮かべているラミアンの顔があった。

「どうしましたか、アル？」

「……いえ、なんでもありませんよ、母上」

　ラミアンを安心させるために笑顔を浮かべて食事に戻る。

　前世で何があったかは関係ない。今はアル・ノワールとして生きているのだから。