閑話:ヴァリアンテ・トゥエル・フリエーラ
純白のとある一室。
そこにはヴァリアンテともう一人――大女神フローリアンテ・ワン・エレオノーラ。
フローリアンテが一段高い場所に立ち、床で這いつくばっているヴァリアンテを見下ろしている。
「全く、あなたという女神は、何をやっているのですか!」
「ご、ごめんなさい、大女神様!」
「謝ればいいというものではありません! あなたは一人の人間の人生を身勝手に決定してしまったのですよ!」
「あうっ! ……本当に、申し訳ありません」
頭を地面に擦り付けながら何度も謝っている姿に、フローリアンテは溜息をつきながら今後のことについてを口にした。
「あなたの処罰は後ほどお伝えします。まずは、転生させてしまった彼を助けねばなりません」
「アルベルト・マリノワーナですね!」
「アルベルト・マリノワーナ様、ですね?」
「……はい、アルベルト様です」
言い直されてしょんぼりしているヴァリアンテだが、フローリアンテは気にすることなく話を進めていく。
「アルベルト様が転生した先は魔法国家カーザリア。魔法主義の国家であり、アルベルト様が望む剣術を極めたいという願いを叶えるにはあまりにも過酷な国家です」
「ですが、アルベルト様ならなんとかしてくれそうな気がしますよ!」
「あなたのその確信めいた発言はどこから出てくるのでしょうね。その理由を答えられるのですか?」
「あの……えっと……そのー……えへへー」
「笑っている場合ですか!」
「は、はひいいいいいいいいぃぃっ!」
すでに何度も怒鳴り散らしているフローリアンテだが、ここ一番の怒鳴り声になっていた。
「カーザリアでの剣術は過去の産物。素振りをする真似をするだけでも笑い者とされ、人の目のあるところでは帯剣すら許されない。そのような国家で、アルベルト様が満足できるとお思いですか?」
「……できません」
「そうでしょうとも。今頃、アルベルト様はあなたのことを疑っているのではないかしら? 駄女神だと、思っているのではないかしら?」
「あうぅぅ、それは言わないでくださいぃぃぃぃ」
フローリアンテの耳にも届いているヴァリアンテの評判は最悪なものだ。
駄女神と呼ばれていることも確認しており、どうにかできないものかと頭をひねっているところだった。
「……そうです、これがあるではありませんか」
「んっ? 何か妙案でもあったのですか?」
「……本来ならば、あなたが考えつかなければならないことなんですがね」
「あは、あははー」
頭を掻きながら苦笑しているヴァリアンテ。
その姿に溜息が止まらないフローリアンテ。
だが、フローリアンテから発せられた次の言葉を聞いたヴァリアンテは固まってしまう。
「うふふ、私が思いついた妙案というのは――ヴァリアンテ、地上世界へ赴きアルベルト様を補佐するように」
「……えっ?」
「ですから、あなたが地上へと赴きアルベルト様を補佐しなさい、と言ったのです」
「…………ええええええええぇぇっ!」
まさかの決定に、ヴァリアンテは悲鳴にも似た声をあげていた。
「あの、その、フローリアンテ様? それは、私が地上に行って、アルベルト様を助けるってことですか?」
「言葉の通りですが、まさにその通りです」
「でも! 神が地上の生きる人に干渉することは禁止されています! それをしてしまうと世界のバランスが崩れてしま――」
「ですから、あなたには女神を辞めてもらいます」
「……えっ?」
「ですから、あなたには女神を一時的に辞めてもらい、地上に干渉することのできる信仰神になってもらいます」
「…………ええええええええぇぇっ!」
本日二度目の悲鳴が純白の部屋に響き渡った。
「あ、あああああの! それだけはどうか! どうかご勘弁を!」
「なりません。アルベルト様を助けるには、その方法しかないのです」
「その、でも、一時的にと仰いましたが、いったいどれくらいの期間で……」
「さあ? アルベルト様が剣術を極めるまでですから、カーザリアでは数年単位になるかもしれませんね。もしかしたら、新たな器を手に入れたアルベルト様の寿命尽きるまでかもしれません」
「そ、そんな長い間も地上にいたくありませんよ!」
「黙りなさいヴァリアンテ! 全てはあなたの過ちが招いた結果なのですよ!」
「あううぅぅぅぅ……」
上げていた顔を再び力なく下げて地面に擦り付けているヴァリアンテ。
目の前の状況に慣れてしまったフローリアンテは黙々と決定事項を伝えていく。
「言っておきますがヴァリアンテ、あなたの犯した行動は強制的に女神を辞めさせられても言い訳ができない行なのですよ? これは私があなたに与えた温情だと思いなさい!」
「も、申し訳ございませええええんっ!」
「地上への出発は地上時間で明日です、よろしいですか?」
「い、いくらなんでも早過ぎま――」
「よーろーしーいーでーすーねー?」
「は、はいいいいいいいいっ!」
バタバタと立ち上がったヴァリアンテは純白の部屋を飛び出して準備へと向かった。
その背中を顔を手で覆いながら見ていたフローリアンテは、どうにかアルベルトを助けてくれるようにと願うばかりだった。
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