第14話:魔法学園

 魔法の勉強と剣術の勉強を毎日のように繰り返してきて二年が経った。

 魔法の勉強ではエミリアから教えられることはないと言われており、時折屋敷から連れ出されて都市を見て回ることも多くなった。

 都市では魔法学園に通う学生の姿も多く見かけたものの、帯剣している者は一人も見かけない。

 ユージュラッドは魔法国家カーザリアの辺境にある都市なので数人くらいは帯剣している者がいるのではと思っていたアルは、顔には出さなくても少しだけガッカリしていた。


 しかし、まだ幼いアルはめったに屋敷から出ることができなかったので、単に外に出るだけでも嬉しく、楽しかった。

 特に装飾品店を訪れた時には驚いたものだ。

 細かな細工が施された装飾品は目を引くものがあり、買えないまでもいつかは自分でも作ってみたいと口にしたアル。

 しかし、金属性を持っていてもレベル1では難しいだろうとエミリアに言われてしまい肩を落とした。


「まあ、お店に並ぶような作品は難しくても、オリジナルで作品を作るのは魔法操作の向上にもつながりますから、精進することです」

「は、はい」


 金属性レベル5のエミリアが言うのだからその通りなのだろう。

 まあ、アルとしては装飾品で商売をするつもりはないので気持ちを切り替えた。


「魔法操作が向上したら、短い時間で細かい作業もできますか?」

「できますよ。レベルが低い場合はそこに着目するものですからね」

「では、そうなれば俺でもお店に並ぶような作品を作ることも可能ですか?」

「理屈上は可能です。ですが、相当難しいでしょうね。時間も掛かるでしょうし、将来の仕事にと考えている場合はオススメしませんね」

「趣味程度にしか考えていないので大丈夫ですよ」

「趣味でお店に並ぶような作品を目指すこと自体がおかしいんですけれどね」


 笑いながらそう口にしたエミリアは、先ほどから何人も見かけていた学生が通う魔法学園の正門前にやってきた。


「四年後には、アル君もユージュラッド魔法学園に通うことになります」

「……はい」

「レベル1だからと悲観することはありません。アル君の実力ならば入学もそうですが、入学してからも良い成績を残すことができるでしょう」

「だと、いいんですが」


 どれだけ魔法を上手く使えるようになったとしても、レベル1という事実がアルを悲観的にさせてしまう。

 その様子を見てきたエミリアは、正門を見つめながらはっきりと口にした。


「自信を持ちなさい。キリアン君もガルボ君も教えてきた私ですが、その中でもアル君の実力は随一です」

「まさか。キリアン兄上はレベル4、ガルボ兄上はレベル3の属性を持っているんですよ?」

「うふふ、レベルが全てではないのですよ。事実、ガルボ君は今の時点で相当苦労しているようですしね」


 ガルボは来年から魔法学園へ入学する。

 優秀な人物をより優遇するシステムが採用されている魔法学園では、レベル3以上の属性があり、なおかつレベル2以上の属性を持っていれば入学試験を免除することができる。

 ガルボは試験免除の条件に当てはまっているので入学が決定しているのだが、強力な魔法を操るための魔法操作に苦戦しているのだとか。


「レベルが高くても使いこなせなければ、宝の持ち腐れです。ですが、レベルが低くても使いこなすことができれば、レベルの高い相手にも勝ることが可能です」

「それを、俺ができると思っているのですね?」

「思っているのではありません。確信しています」


 正門に向けていた視線をアルに向けて、エミリアは微笑みながらアルの頭を優しく撫でる。


「アル君は、私が見てきた生徒の中で一番の生徒です。自信を持ちなさい。それとも、私が信用できませんか?」

「お、俺はエミリア先生を信用しています!」

「うふふ、ありがとございます」

「でもエミリア先生。さすがに一番は言い過ぎです」

「そうでしょうか?」


 アルは自分が魔法では敵わない人物を知っている。一番身近にいて、頼りになる人物を。


「キリアン兄上はレベルも高く、なおかつ使いこなしていますよ」


 すでに魔法学園に入学しているキリアンは、入学当初から実力を発揮しており、二年次であるにも関わらず生徒会役員を務めている。

 実力を認められたものにしか務めることのできない生徒会役員に選ばれているということは、それだけ優秀だということなのだ。


「キリアン君は確かにすごいですね。とても優秀です」

「だったら──」

「それでも、私はアル君が一番だと思っていますよ」


 いったい何がエミリアにそこまで言わせるのか、当のアルにもさっぱり分からない。

 だが、期待されることは嬉しくもあり、アルは性格上燃えるタイプでもあった。


「……期待に応えられるかは分かりませんが、頑張りたいと思います」

「うふふ、まだ先のことですが期待しています。それでは、そろそろ戻りましょうか」

「はい!」


 正門に背を向けて歩き出したエミリア。

 アルは少しだけ正門の奥にそびえる魔法学園の校舎を見つめた後、エミリアを追い掛けて走り出した。

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