第7話:属性の組み合わせ

 アルの気持ちが別のところに行ってしまってることに気づいたエミリアは、ゴホンと一つ咳払いを入れる。


「あっ! すみません!」

「……まあ、いいでしょう」


 溜息をつきながらも、気を取り直して属性の組み合わせについての勉強が始まった。


「火と水だったり、土と木は先ほど伝えましたね。もちろんそれ以外でもありますから、そちらはアル君でも色々と試してみてください。今回は、光と闇属性について説明します」


 光属性は主に癒しを司っている。

 傷を治す回復魔法が有名だが、その他にも水や食べ物の滅菌であったり、衣類の消毒などに使われることも多い。

 魔法師はもちろんだが、一般民であっても適正があれば積極的に使われる属性だ。


 闇属性は主に異常を司っている。

 状態異常として毒や麻痺、五感に異常を与えて状況判断ができなくすることも可能だ。

 こちらも魔法師だったり、悪い部分では犯罪者が使う場合が多い属性でもある。


「積極的に使うなら光属性が良いでしょう。闇属性も場合によっては必要かもしれませんが、練習をするにも個人では危険なので学園に通い始めて、先生立ち会いのもとで行うべきでしょうね」

「では、個人で行う場合はエミリア先生に立ち会ってもらえば問題ないですか?」

「……アル君、闇属性まで学ぶつもりですか?」


 エミリアはとても心配そうにアルを見ている。

 何を心配しているのかを察したアルは慌てて理由を口にした。


「別に使おうと思ってはいませんよ! 闇属性について知っていれば、俺に使われた時への対処ができるかと思って、知識として頭に入れておきたいんです!」

「……そういうことでしたら。ですが、本当に他では使わないでくださいね。異常を司るからかもしれませんが、世間一般では闇属性を使う人間は、犯罪者予備軍と呼ばれているようですから」

「なんですかそれ、怖いですね」


 ただ、裏を返せばそれほど闇属性はそれほど恐ろしいということだ。

 五感に異常を与えることができるのであれば、味方を敵だと誤認させて同士討ちをさせることも可能だろう。

 そして、レベルの高い者ならば相手を自分の思い通りにすることもできるかもしれない。

 考えれば考えるほどに、闇属性は恐ろしい属性だと思えて仕方がなかった。


「まあ、レベル1ではやれることにも限界はありますが気をつけるように」

「はい! ……それで、俺でも使えそうな組み合わせはありますか?」


 闇属性は難しそうだが、光属性なら生活にも取り入れられるので何かと使い勝手が良い。

 授業では当然だが、生活の中で練習ができれば成長も早くなるだろう。


「水と組み合わせれば汚れた水でも飲み水に変えることができますし、金と組み合わせれば錆びだったりを落とすことができます」

「でも、それは光単体でもできることでは?」


 今の説明では、水を滅菌することと金属を消毒するようなものではないかとアルは考えた。


「アル君の言うことはもっともです。ですが、光属性だけでは水の中の汚れを清め取り除くことはできませんし、金属自体の消毒はできてもついた錆びを浮き上がらせることはできません」

「属性を組み合わせるからこそ、お互いの良い部分を引き出せるということですね」

「その通りです。光単体ならば洗濯物の消毒や滅菌ができますから、生活魔法を多用している奥様にお話を通してみてもいいかもしれませんね」

「はい! 勉強が終わったら、母上にも聞いてみます!」


 一般民が使う魔法は生活魔法と呼ばれている。

 生活を豊かに簡単にすることができるからと名付けられた呼称だ。

 基本的に炊事洗濯はメイドが行っているのだが、時折アルの母親であるラミアン・ノワールが手伝うこともあった。

 本人は気分転換だと言っているが、本音はメイドの負担を軽減したいのだということは周知の事実である。


「ふふ、その意気ですよ」

「それでは先生! 次は属性の増幅について──」


 アルが次の勉強について催促しようとした時、ドアがノックされた。


『──エミリア様、お時間でございます』

「分かりました、ありがとう。……という訳で、増幅についてはまた明日ですね」

「……はい」


 エミリアは家庭教師として有名で、ノワール家だけではなく他の貴族家にも引っ張りだこである。

 下級貴族のノワール家の依頼を受けてくれていることが珍しく、これもレオンの思慮深さから生まれた縁であった。


「うふふ」

「……どうして笑うんですか?」

「勉強が終わったのにそんな悲しそうな顔をする子なんて、なかなかに珍しいですよ」

「そうですか?」

「そうですよ」


 帰り支度を整えながら、エミリアは笑みを浮かべている。


「家庭教師冥利に尽きますけどね」


 そう言って立ち上がると、鞄を背負いドアを開けた。


「エミリア先生! また明日、よろしくお願いします!」

「はい、よろしくお願いしますね」


 エミリアを見送ったアルは部屋の片付けを終わらせると、すぐに部屋を出る。

 先ほどエミリアと話をしたことを実行に移すために向かった先は──ラミアンの部屋だ。

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