第6話:魔法の勉強
部屋に戻ってきたアルとエミリアは予定通りに魔法の勉強に移っていった。
「ではまず、属性について説明します」
「はい!」
「単純に属性と言っても数多く存在するのですが、全属性の元となっているのが基礎属性です。本日は基礎属性について知識を深め、進み具合によっては基礎魔法について進めていきましょう」
基礎属性には火、水、木、土、金、光、闇の七属性がある。
そこから派生し、組み合わさることで様々な属性が生み出された。
全ての人間に魔法適正は存在し、その魔法適正の中で属性を組み合わせて様々な魔法へと昇華させる。
アルの場合は全属性への適正があるので組み合わせは無限に広がっているのだが、その威力を期待することはできない。
「全属性ともにレベル1だからですね?」
「その通りです。レベルが高ければ高い程、多くの質量を操ることができます。質量が多ければ自ずと魔法の威力も大きくなるのですよ」
「うーん、レベルが低くても威力を出す方法はないんですか?」
「あるにはありますが、それは自分の力ではない外部の力を借りることになります」
「外部?」
「
「……魔法装具?」
前世の記憶を残しているアルでも魔法装具という単語は聞いたことがなかった。
単純に疑問顔を浮かべていると、そこはまだ早いと釘を刺されてしまう。
「まずは基礎属性、そして基礎魔法を使えるようになりましょう」
「す、すみません」
「構いませんよ。それに、レベルの低い子たちは絶対に魔法装具について考えてしまいますから慣れっこです。ただ、魔法装具はとても高価な物なので旦那様でもなかなか手が出ないと思いますけど」
下級貴族で使えるお金にも限りがあるのだから、三男のアルに与えられる物ではないだろうとすぐに理解した。
「分かりました、気をつけます」
「よろしい。では、続きを説明しますね」
基礎属性の組み合わせは多種多様だ
例えば火属性と水属性を組み合わせて水蒸気を発生させることで煙幕になるし、土属性で穴を掘り木属性で槍を作って底に敷き詰めれば落とし穴の中で槍衾を作ることも可能だ。
「……そ、それって魔法ですか? なんだかものすごく物理的な感じがするんですけど」
「まあ、このような使い方もありますよという見本ですね。光属性は汎用性が高く、また回復魔法によく使われます。逆に闇魔法は汎用性は低く、状態異常を引き起こす魔法によく使われますよ」
「……どういう組み合わせになるんですか?」
「それは……基礎魔法が操れるようになったらお教えしますね」
光と闇属性の説明がとても簡単に終わったと思えば、そういうことかと苦笑するアル。
相手が興味を持てば、それをご褒美にして課題を与える。
エミリアのやり方をよく知っているアルだったが、今回もまんまとその策にはまってしまった。
「分かりました。それじゃあ、それができたら光と闇属性の他にも、レベル1でも使える便利な組み合わせを教えてくださいね」
「もちろん、そのつもりですよ」
ニコリと笑ったエミリアは、そのまま基礎魔法の操り方について教えてくれた。
――そして、一時間後。
「……えっと、まさか、こんな短時間で基礎属性を全て操れるようになるなんて」
「そうなんですか? 意外と簡単でしたけど」
「……そ、そうなのね」
基礎魔法を操る、というのは感覚的なものだった。
火属性であればロウソクに火を点す。
水属性であれば汚れが混ざった水を清める。
木属性であれば植物の成長を助ける。
土属性であれば土を耕す。
金属性であれば金属の形状を変化させる。
同じ年代の子供だとイメージできないことでも、前世の記憶が残っているアルの場合は経験も豊富なことから簡単なものだった。
「普通は、一日二日ではできないのですよ?」
「……あー、まあ、できないよりかはできた方がいいですよね!」
驚きが抜けないままのエミリアに対して、無理やり笑みを浮かべながら良いことなのだと告げるアル。
「……はぁ。全属性があると思えばレベル1。それでも、器用に魔法を使いこなす。にもかかわらず、魔法ではなく剣術を学びたいと言うのですから、神様というのは二物を与えないと言いますか、どうにかして人間のバランスを保とうとするものなのですね」
しばらく考え込んでいたエミリアだったが、目の前の出来事を何とか飲み込むとアルとの約束を果たすことにした。
「仕方ありません、予定よりもだいぶ前倒しになりますが属性の組み合わせについて詳しく教えていきましょう」
「ありがとうございます!」
満面の笑みを浮かべるアルを見て苦笑するエミリア。
「まあ、学びたいと思う気持ちは大事ですからね」
しかし、アルの思いは違っていた。
(早く魔法の勉強が終われば、その分早く剣術に身を置くことができる、頑張るぞ! 見ていてください、ヴァリアンテ様!)
剣術を学ぶことでヴァリアンテの恩に報いることができると信じて、アルは行動していた。
ただ、アルは知らない。この転生が、完全にヴァリアンテの気まぐれだったことを。
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