第27話 青葉という男

「くそ!くそ!くそくそくそくそちっくしょーーーー!!!」


 暗い洞窟の中で、男の声が響き渡る。薄っすらと魔法による照明が辺りを照らすその中央に一人、洋服を自らの血で真っ黒に染めている少年が、しきりに洞窟の壁を殴り続けていた。先の戦いで勇者(HとERO)イサミンによって大敗したデューク・アンドレアこと、青葉貢である。


「なんなんだよ!あのチートみてぇな魔力!俺は…俺だって強くなったのに勝てなかった!」


 洞窟の入り口から少年デュークに至る道には、彼によって殺された魔物の遺体が転がっている。


「あんだけ魔物集めて攻めさせたはずだ!っつっかえねぇ。」


 青葉は思った。


(そもそも魔王自身がヘタレすぎるんだ。俺というを呼んでおいて、人類を滅ぼすどころか協力関係を結びたいだと?俺は元々コミュ障だし、交渉とかマジ無理。召喚された時点で俺TUEEだったし、レベル上げとかマジ怠いと思って油断してたけど、あのクソ女めちゃくちゃTUEEじゃねぇか。不意打ち食らわして殺そうとして逆にこっちがやられるとか、あり得ないだろ。)


 青葉の固有スキルは『捕食』。どんな動植物でも体内に取り込み、その能力とステータスを奪い取るスキル。彼はその力を使い、弱いモンスターから始まり、やがて強いモンスターまで取り込み、自身では大陸最強と思えるほどに強くなっていた。

 半面、このスキルはステータスを上げる事のみに特化しており、捕食した動植物の経験値を得ることはできない仕様だった。そのため、彼のレベルは強さに似合わないほど低かった。


(レベルさえ上がれば、スキルポイントが手に入るはずなのに、何故かモンスターを倒した経験ではレベルが上がらなかった。だから、捕食スキルで強くなってきたってーのに。あの強さ…間違いなく俺の大部隊をぶっ飛ばしたからに違いない。この世界の人間は、兵士のような鍛え上げられた戦士以外、クソみたいな経験しか貰えないからな。スライムかよ!って思ったくらいだ。)


 捕食以外のスキルと言えば、初期に取得した『魔導の悟り』と『永久再生Permanent playback』の2つ。元々の必要ポイントが大きかったが、青葉にとってはこの上ないチートスキルだったため、最初に持っていたポイントのほとんどをこのスキルにつぎ込んでいた。


 スキル『魔導の悟り』は、自らの種族を魔族にする代わりに、膨大な魔力と光属性以外の全属性魔法の使用を可能にするもの。このスキルには同族殺しによる経験取得の無効化と言うデメリットを持っていた。取得当時の青菜は、人類を滅ぼす事を目的としていたため気にしていなかったが、今は取得したことを後悔するスキルとなっている。

 スキル『永久再生』は、スキル『捕食』との組み合わせによって、肉体を永久的に再生させるもの。つまり『捕食』によって栄養補給さえ行っていれば、どんな怪我もたとえ肉体の大部分が失われていようとも、再生することができるのです。


(今回は、永久再生を取っててホントに助かったぜ。まともに食らってたら即死も良いところだ。せっかく異世界転移したのに死んだら意味ないじゃん。くっそ、なんとかスキルポイントを集めないと、暴食だけでは奴らには勝てない。)


 青葉はなんとか経験を稼ぐ方法が無いか考えていました。


(ネトゲではパーティーを組めば良かったな…。まてよ…?)


 青葉は生き残った部下を呼び寄せた。


「デューク様。お呼びでしょうか。」


 やってきたのはゴブリン族のリーダー。


「お前、レベルはいくつだ?」


「はい?レベル…とは何でしょうか?」


 ゴブリンリーダーは首をかしげる。


(この世界にはレベルと言う概念が存在していない…いや、こいつらには自分のステータスを確認する手段が無いのか…仕方ない…)


 青葉は最後まで温存していたスキルポイントを全て使用し、あるスキルを取得することにした。


(『鑑定Appraisal』…。異世界物のラノベではチートスキルの時と、ハズレスキルとで分かれる究極に微妙なスキル。スキルポイントをそこまで使わないで取得できるが、俺のポイントではレベル1しか取れない。が、こいつらのレベルが分かるだけマシか…。)


鑑定Appraisal!!」


 早速スキルをゴブリンリーダーに使用してみると、レベルにステータス、取得スキルまでが読み取ることができる。


(っち…リーダーなのにとそこまで大差ないんだな…)


「デューク様?それはどういったスキルなのですか?」

「ああ?お前らには関係のないスキルだ」


「畏まりました。他に何かご命令はございますか?」

「そうだな…。お前、俺とパーティーを組んでみないか?」


 言葉の意味が少し理解できなかったのか、ゴブリンリーダーは少し考え、そして答えを導き出す。


「徒党を組むと言うことでしょうか」

「まぁ似たようなものだ。」


「畏まりました。」


 青葉はもう一度、ゴブリンリーダーのステータスを確認すると、現在の状態に「パーティー中」の表示があることを確認する。


「よし、ゴブリンリーダーはたしか、同族との戦いで勝ち残った者が、リーダーになれるんだったな」

「はい。その通りでございます」


 それを聞いた青葉の顔が笑みを浮かべている。


「そうかそうか…じゃあ少し俺に付き合ってもらおうか」

「???。畏まりました。デューク様。」


 そう言うと、青葉はゴブリンリーダーと共に、洞窟の外へ向かうのでした。

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勇者が女(おばさん)で何が悪い!? 神原 怜士 @yutaka0000

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