第26話 魔族の大陸へ
大きな戦いから2日が過ぎていました。本来であれば、戻って報告をしなければいけないところだったのですが、シリヌス帝国が私達を指名手配したとの噂を聞き、その影響でシリヌス帝国側に戻る事が出来ず、やむを得ずオシレウヌ王国内でもシリヌス国境から最も離れた港町に、補給も兼ねて寄港していました。
「多分、あの一撃。
「いやいや。イサミンが気にすること無いでしょ?悪いのはあんな近くに砦を作った
砦の城壁まで被害が及ぶとは思わなかったし、その後の人的被害は、どちらかと言えば、欲に目が眩んだ冒険者による、ドロップ品を巡って争った事に起因するそうですが、その原因を作ったのは、飛空艇から放った一撃である事に変わりはありません。
悩む私達の元へ、ヴィーダ船長が入って来る。
「安心しな。オシレウヌの民にとっては、あんたらは『救世主』なんだ。誰もあんたらを売ったりはしねぇよ。」
「船長…ありがとうございます。」
「それよりも…だ。頼まれた物資だが、もう少し時間がかかりそうだ。ま…食料が大半で、しかも量が多くあるから仕方ねぇんだが…。あんたらこの船一隻で戦争でもおっぱじめる気か?」
「あ…実は船長…。」
私達は、船長に今後の予定についてを話す事にしました。
「なんだって!?魔王の拠点に直接乗り込む!?そいつぁもしかして、北の最果て『ネクロミィス大陸』か」
船長の顔が曇るのも無理はありません。ネクロミィス大陸はディブル大陸を挟んだ大海の更に北の果てであり、過去に起こった大戦の影響で、現在も他の大陸とは交流が断絶している大陸だからです。
「あの大陸は行った者は帰らずで、現状がどうなっているか分からない。が、確かなのは、今回奴らがこの大陸に攻めて来たと言う事実と、あれだけ大量の魔物を大陸間移動させられる技術がある事。俺達からすれば、それだけでも恐怖で
船長の言う事も分かります。新しい土地の開発には必ずリスクが伴います。私達の世界基準であれば、それほど危険な事では無いのかもしれませんが、魔物の存在があるこの世界でのリスクは死と隣り合わせ。勇者と相乗りしているとはいえ、全くの未知世界へいきなり飛び込むのは無謀な事でしょう。
「もし、船員の中に降りたいと言う者がいるなら、ここで降ろしてくださって構いません。しかし、私達にはあの大陸の現状をこの目で見る必要があると思っています。」
「危険を冒してまであの大陸に行く…か。何か考えがあると思って良いのか?」
「…はい。」
「聞かせてもらおうか。俺はそれ次第だと思っている。」
私はまだ想像の段階である事を念頭に置いて、船長に説明した。
「私達は先日の戦いで、私達と同じ異世界から召喚された少年と戦いました。」
「まさか…
「はい。恐らく召喚者はその中でも特に魔力の強い者『魔王』だと思います。しかし召喚された少年は、人間を酷く憎んでいる様子で、私も一歩間違えれば殺されていたかもしれません。」
船長は驚きを隠せない様子でした。
「そこで思ったのです。もしかすると、今回の侵略は彼自身の独断によるものではないのか…と」
「と…言うと?」
「彼は元の世界でも人間を憎んでいました。しかし、何の能力も持たない私達の世界で、人間を
「つまりこっちで力を手に入れたから…?」
「はい。戦って分かりましたが、彼もまた非常に高い魔力を有しています。その力で魔物を配下に戦争を起こした。島の外での出来事なので、召喚した魔王本人もその事に気付いていないのでしょう。私の考える可能性は二つ。一つは魔王が彼に命令したのが破壊と殺戮により世界を治める事だったのか。あるいは、それとは逆に召喚した彼を使って人間との橋渡しをお願いした…か。」
「今となっては、本人に直接確認しに行かなければ、事実関係が分からないまま大戦争に発展する…って事だな。できれば
「逃げた少年の行方は分かりませんが、ある程度ダメージを負わせたはずなので、しばらく治療に専念すると思います。その間に私達は魔王(仮)に直接会って話がしたいんです。」
船長はしばらく考え込んでいました。私の話にはまだ根拠となるものがありませんので仕方のない事です。しかし、船長は何かを決心したように目を見開き、その口を開きました。
「俺も…その突拍子もない賭けに乗ってみる事にするぜ。あんたらが勇者なら、魔王にだって勝てる自信があるんだろうし、仮に
「船長…。ありがとうございます。」
船長はすぐ甲板に出て、大きな声で船員を鼓舞する。
「おめぇらよく聞きな!!今から俺達はここにいる勇者様と共にでっけぇ目的を達成するため、危ない橋を渡る!。」
「死にたくねぇ奴は船を降りろ!無理について来いとは言わねぇ!。だが、無事に帰る事ができた暁には、とことん飲んで食って騒ごうじゃねぇか!」
すると船員が一斉に拳を振り上げる。
『船長!俺達は一蓮托生。どこまでもついていきますぜ!』
『水くせぇぜ船長!どうせ拾ってもらった命。全部預けます!』
その日、船を降りる船員は誰もいませんでした。そして翌日、私達は未踏の地『ネクロミィス大陸』へ向けて出発するのでした。
ちなみに…私は勇者ではなく、未だに「HとERO」なんですけど…ね。
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