第25話 決戦!勇者vs魔族 その四

「っっっつ。光よ!!」

 私は魔族に有効と思われる光の力を青年に打ち込み、その反動で距離をとりました。しかし、背中から腹部にかけて貫通した闇の刃は、青年の手から離れてもまだ、私の体を貫いたままでした。


「はぁ…はぁ…はぁ…。ど、どうして!?同じ召喚者じゃない。」


 私の言葉に対して、青年は不気味な笑顔で返してくる。


「あひゃひゃひゃひゃ。馬鹿か?お前ら。言っただろ?俺は闇の召喚者だ。あっちの世界の人間なんざ、俺から見ればクズも同然。ならば、こっちの人間もクズだろう?変わりないさぁ」


 その言葉に先輩が反応する。


「はん。つまりあれか?あんたは日本あっちでは『いじめられっ子』ってやつか?聞いた事があるだろう?『馬鹿って言ってる奴が馬鹿だ』ってさ」


 先輩、まるで子供の喧嘩なので止めてください。と私は痛みに耐えながら思っていました。しかし今は、とにかくこの状況を打破しないといけないので、まずは体に刺さった刃をどうにかする事を考えました。


(やっぱり、闇に打ち勝つには光しかない…よね)


 私は青年に気付かれないように、光の力を闇の刃に流し込んでみました。しかし、痛みの影響でなかなか集中できないうえに、いくら流し込んでも闇の刃を打ち消す事ができませんでした。


「はん、人間の召喚術士も堕ちたものだな。勇者召喚にが来るなんてさ。」


「へぇ、あんたはそんなにこれからボッコボコにされるんだ。ちょ~っと可哀想になって来た。」


 青年と先輩は、相変わらず舌戦を繰り広げている。


(もう…少し…。)


 私は焦る気持ちを抑えながら、刺さった闇の刃を打ち消す作業を続ける。並行して回復魔法を自身にかけ続けるも、どちらも一向に回復の兆しが見えてこない。


「無駄だ!俺の刃は俺が独自に開発した魔法だ。一度刺さると抜くことはできず、闇の魔力が徐々に体内を犯していくんだ。」

「へぇ~ネタバラシありがとうね。でもうちの後輩にそんなちゃっちぃ攻撃、効くはずがないじゃない」


 それを聞いてようやく理解した。本来であれば魔力で構築されたものを中和するのにそれほど時間は掛からない。が、闇の魔力の浸食によってそれが阻害されているようです。


(でも…、ネタが分かれば対処法だって分かる!集中しろ…私)


 イメージは蛇に噛まれた患部から、毒を吸い出すような感覚。傷口から溢れる血液は、早く治療を施さなければ致死量に至るかもしれない。そんな恐怖が頭をよぎりながらも、私は最善の手を尽くしました。


「早くしないと、おねーさん死んじゃうんじゃないかなぁ?くへへへへ。安心しな。遺体は俺がしっかりとアンデットとして扱ってあるから…さ。へへへははははは」


 青年は勝利を確信してか、かなり余裕の表情を浮かべている。


「はぁ…残念。」


「はぁ?なんだ?諦めちまったか?」


 先輩の言葉に、青年は再び先輩を睨みつける。そんな先輩は私を見て少しだけ笑った。多分、私の為に時間を作りつつ、彼の視界を自分に向けているのだろう。

 私は既に、闇の刃を半分ほど中和する事に成功し、傷口もほぼ塞がっていた。問題はここから彼に向けて、どう反撃するか。そのタイミングを見定めなければならなかった。


「あんた…童貞だろう?」


「な!!あんたには関係ないだろ!俺からすれば、あんたらはもうって感じじゃねぇか!興味ねぇな!」


「はは~ん。おねーさんがやさしーくさせてあげても良いのですよ?」


 青年はここ一番激しく動揺しているように見える。これはチャンスと読んだ私は、ありったけの力を右手に集中させる。


「俺を馬鹿にするなら、あんたから先に殺してやる!!」


 青年が動いた。先輩はアイテムボックスから巨大な盾を取り出して構える。


「そんな盾!俺の刃には無意味なんだよ!!」


 青年の左手に闇の刃が出現する。そして大きく振りかぶった。


「今よ!!」


 先輩の合図と共に、私は全てを解放する。


究極聖光線Ultimate holy ray!!」


 前に突き出した右手を中心に6つの魔法陣が展開され、そこから聖属性を帯びた閃光が不規則に動きながら青年に向かって行く。


「何!!!?」


 先輩が巨大な盾を取り出したのは、私の魔法による衝撃から身を守るため。それに気づけたからこそ、私は躊躇なくこの最大魔法を撃ちこむ事ができた。


「ぐあああああああ!!!」


 聖属性の閃光は青年に全て命中する。刹那に衝撃波が先輩と私を襲う。普通の閃光系や爆発魔法だと熱を伴うから、お城に甚大な損害を与える可能性がある。しかし、聖属性の閃光は闇に属している者のみを焼き尽くす。例えそれが召喚者だったとしても、あれだけの闇属性魔力を所持しているのなら効果は高いはず。


「くくくく…ははははは。や…やられた…よ。俺も全力で防御…しなければ、死んでた…かもな」


「!!」


 よく見ると、青年は体の半分が黒く焦げていたが、完全に仕留めきれていませんでした。


「うっそ…。私の全力よ?それを防ぐなんて、ありえない。」


「いや…イサミン。こいつ相当ダメージは食らってるみたいだよ。」


 すると、青年は膝からガクリと崩れ落ち、両手を地面に付いた。


「なんでだよ!なんで、なんで、なんで、俺様のチートな能力がされなきゃならねぇんだよ!!」


 すると先輩は、かなり本気なドヤ顔で青年を睨みつける。


「アンタがチート能力者だと思わないことね!うちの勇者はもっと強くなる。それとも、この場で成敗しても良くってよ?」


「っく…ここは撤退だ!覚えていろ!次は必ず殺す!」


 青年はふところから何やらアイテムを取り出すと、ソレを自らの魔力を込めて燃やした。すると、青年の体がフワリと天高く舞い上がり、姿が見えなくなりました。


「逃げた…?」


「みたい…」


 そう感じた瞬間、私達は力が抜けてその場に座り込んだ。


「イサミン…お腹…大丈夫?」

「は…はい。治癒も終わったので…今は、痛くない…です。」


 その後、無事に飛空艇と合流した私達は、ヴィーダ船長から国境付近の魔物軍が冒険者によって掃討され、付近の町ではお祭り騒ぎの凱旋が行われている事を聞かされました。しかし、中核の青年を取り逃がした事で、この戦争がまだ終わっていないと知っている私達は、素直にこの勝利を喜ぶことが出来ませんでした。

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