第24話 決戦!勇者vs魔族 その参

「うわぁ…だねぇ…。」


 どう見ても大物のボスキャラが出てきそうな高さのある扉。その向こう側には確かに強い魔力が感じられる。


「多分…と言うか間違いなく玉座の間ってやつ?」

「そうよ。敵の親玉とはいえ…、話が分かる人なら良いんだけど…」


 普通のRPGなら、こんな最前線でモンスターも配置せず一人で待ち構えているボスキャラは、大抵何か策を講じているものなのだが、城内にトラップ的な物は一切無く、人質を殺す事もしていない。(餓死・病死は別として)


「はぁ?じゃあ何。イサミンはここのあるじに話し合いで解決しようとしてるの?ばっかじゃないの?」

「実はね…ここに来る前に私達と同じ、日本からやって来た人に出会ったんです。彼はではなく、だと言っていましたが…。」

「まじで!?」


 先輩の大声は、ほとんど誰もいない静かな城に木霊こだまする。慌てて口を塞いでみたものの、そもそもモンスターの気配すらない城内で、今の会話を聞くことができるのは、扉の向こう側にいるであろう人物くらいである。


「ってか転生もあるのかぁこの世界。イサミン、そんな貴重な人物と会っていたんなら教えてよ。」

「すいません先輩。いろいろ忙しかったので話すタイミングが無かったです。」


 先輩はとても悔しそうな顔をして私を見つめている。


「つまり、イサミンは異世界召喚や転生が、私達のような光側だけではなく、魔族などの闇側にも起こり得ると言いたいのね。」


「その通りです。でも、前世の記憶さえ残っていれば、話し合いもできるんじゃないかと思って。」


「はぁ。その淡い期待は出来ないと思うけどねぇ…。」


 しかし、可能性はゼロではない。私はむしろ、その方向にがしていた。


「行くよ…」


 大きな扉は、どう見ても女性二人で開けられるようなものではなかったが、私達はここに来るまでに沢山の経験を取得し、レベルが上がっている。元の世界ではあり得ないほどに強くなっているのですから、そこらのやわな男よりも断然、力が強いはずなのです。

 その予想通り、私達が肉体強化の魔法を加えて扉を押すと、まるで段ボールでも押しているかのような感覚で扉が開いていく。目の前に広がる大広間、その奥にある二つの玉座のうちのひとつに、この城の主は座っていた。


「…こども…?」


 そこにいたのは、見た目12~14歳程度の幼い青年だった。しかし、その容姿とはまるで正反対の邪悪なオーラを放ち、まるで何かに憑りつかれているような状態に見える。


「凄い…目で見えるくらいの魔力なんて初めて見ました。」

「イサミンもそう思いますか…。私も正直ちょっとちびりそうです。」


 先輩はそう言ってますが、レベルがカンスト状態なので本当はもっと強いはずなのですよ?と口に出しては言えない心の声が聞こえた気がしました。


「あの…。貴方あなたは『魔王』さん…ですか?」


(先輩!!いきなりのド直球な質問キタ―――!!)


 すると、青年はゆっくりと立ち上がり、こちらを睨みつける。


「お前達は敵か?それとも…。」


 ん?日本語?現地語を独自で取得している私だから、この些細な違いに気づくことができました。逆に先輩は、スキルの影響で自動的に翻訳されているので、その違いに気づく様子はありませんでした。


「先輩、間違いないです。彼もの人間かもしれません。」

「マジで!?」


 私が日本語で先輩に話しかけると、目の前の青年も驚いたようにこちらを見ている。


「日本語…。お前達も日本人なのか!うわ、なんかこうして母国語で話するなんて久々だよ…」


 聞けば、この青年。デューク・アンドレアこと青葉あおば みつぐは、私達同様に現代から召喚された人間であることが分かった。しかも、転送先が魔族が住む『ディブル大陸』。召喚主は大陸を統べるおさである魔王ディビルハイドだと言うから驚きである。


「しかし…そのネーミングセンスって…。」

「悪いか?ちょっと悪ノリしてみただけだよ…。」


 魔王に魔力の素質を買われた彼は、そのまま参謀として魔王軍に採用。しかし、明るい未来と現実は違いました。参謀と言う肩書は名ばかりで発言力は皆無。毎日が戦いの連続で休む暇が無く、気が付けばこの大陸に侵略していたのだとか。


「最初は、城を攻め落とした高揚感から、ちょっと有頂天になってたところがあるんだ。けど城を落とした翌日から、率いていた部下達は俺の命令を無視して進軍を開始してしまった。なんとか人質と称して女性や子供は助けようとしたんだけど…。魔物は食料を大量に消費するから、あまり食事を与えてやれず…隙を見ては少しずつ分け与えていたんだ。」


「なるほど…それで城内に魔物が居なかったのですね。女性や子供以外…特に男性達はどこにいるのですか?」


「…殺されました。私は反対したのですが…。」


(イサミン…気を付けて…)


 それは先輩からのwhisperきだった。


(先輩?何に気を付けるのですか?)


 青年には私達の秘匿通信は聞こえていないようです。


(この青年の言っている事は事実かもしれません。が、一つ引っかかる事があります。)

(それって…勇者召喚の事?)


「どうかされましたか?」


 と、急に現実の声が聞こえるので、私は少し驚いてしまいました。


「いえ…何でもないですよ。」


 私は誤魔化そうとして視線を逸らした瞬間…。私は自分の背中から激痛が走るのを感じ、視線を下に向けました。

 そこには、どす黒い刃が私の背中から腹部に向けて貫通し、血が溢れていました。


「イサミン!!!!」


 先輩が叫ぶ。そして後ろから不気味な声が聞こえてくる。


「殺す…殺す…殺す…。」


 凄い勢いで生命力ゲージが減っていく。勇者特権でチート級のレベルをもってしても、ここまで華麗に刺されると激痛で意識が飛びそうになる。考えてみれば、この青年の反応は赤。つまり闇の魔力である。警戒しなければいけなかったのに、安易に近づいてしまった自分の責がある。


(何とかしなければ…考えるのよ)


 私達はこのピンチを乗り越える事ができるのだろうか…。

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