第23話 決戦!勇者vs魔族 その弐

 地に足が付くのは、本当に幸せな事だと思う。


「くはぁ~死ぬかと思ったぁ…。」


 オヤジのような声で先輩が大きくため息をつく。私達はついに敵の本拠地に辿り着いたのです。


「ここが…元オレウヌのお城?」

「オレウヌです、先輩。聞いた話では、一夜にして陥落したとかなんとか…、その割には戦ったようなあとがあまり付いていない。」


 恐らくは王と王妃が顔を出していたのであろうに着陸したのだが、想像以上に綺麗にされていた。そこから見下ろす限りの街並みも、とても戦闘があったようには思えないほど復興されている。


「ん~。何が違和感があるのよね…。」


 静かすぎる。まるで町全体に誰もいないかのような静けさ。RPGなら即座に敵の大群が押し寄せても良いものの、私が展開している『殺気察知』にも反応が無いと言うより、このスキルはを感じるものなので、殺気を出す者がいなければ反応が無いのは当然の事でした。


探索Search!!」


 迷宮内において、索敵は重要な役割を果たす。パーティーの人数が多ければ、魔法を使わなくてもに周囲の探索をさせれば良いが、少人数パーティーの場合は、この索敵も後衛の役割となるのです。


「どう?イサミン」


「…。…。あ…一応、人…?かな。城に一番近い建物に何人か。この城にも何人かの反応が出てくるよ」


 『探索Search』にはいくつかの対象が反応する。


1.赤色は魔力を有する反応。魔力を有する者が全て赤になるわけではなく、闇に近い魔力を持つモンスターが対象になる。

2.黄色は仲間の反応。冒険者組合ギルドから支給されるギルド章などの特殊アイテムを感知するため、魔力の無い者でもこの反応になる。ちなみに私達はパーティー設定ができるので、アイテムが無くてもこの反応になります。

3.青色の反応は無抵抗の生き物。殺意が無く普通に暮らしている人間やペットなどがこの反応になる。


 これ以外にも黒色反応などがあるけれど、それは魔法発動の際に対象から漏れた者なので、出会ってみない事には分からないのです。


「ん~城内のは赤…いや一部青もあるのか、城外のは当たり前だけど青…だねぇ。やっぱり城内には魔に属する反応があるのか…」

「それってぇ、やっぱり『魔王様』ってやつ?イサミン」


「そこは…分からない。このスキルでは魔力の総量まで測れないからねぇ」


 とにかく私達は、青色反応のあった地点を最初の目標に設定し、城内を散策することにしました。『地図作成Map making』で城内のマップを簡易的に作成することで、何度も探索魔法を使わないように工夫も忘れません。

 しばらく城内を進んでいきましたが、モンスターと遭遇する事は無く、すんなりと目的の場所へ到達しました。その部屋は、外側からかんぬきで出られないようにされ、魔法の施錠まで施されていました。


「内側から出られないって事は、人質って事?」

「分からない…けど、行ってみましょう」


開錠Unlocking!!」


 私達は魔法による施錠を解除し閂も外して、恐る恐る扉を開きました。


「だ…誰!?」


 微かに女性の声が聞こえる。私達が中へ入ると、そこには反応しているのと同じ人数の女性達がいました。全員が少し痩せこけた頬をしていて、血色も少し悪いところを見ると、あまりまともな食事を摂っていないのか、あるいは食事すらとれていないのか、そのような様子でした。


「えっと…ここの城の者ですか?」


 私は尋ねる。


「は…はい。王家の…世話人と…王妃様と…姫様に…なります。」


 よく見ると部屋の奥には、元々は綺麗なドレスだったであろう薄汚れたドレスを身につけた中年の女性と、その女性によく似た若い女性がいました。


「安心して、私達は勇者。この世界を救うために異世界からやってきました。」


 室内の女性達に安堵の表情が見て取れる。


「今、軽い食事を出しますので、ひとまずは空腹を満たしてください。」


 私はアイテムボックスから保存食をいくつか取り出し、室内の女性全員に配りました。


「あ…ありがとうございます。なんとお礼を申したらよいか…。」


 王妃は深々と頭を下げる。


「それよりも男性達は、ここに居ないのですか?」


 私の質問に全員、暗い顔をしている。


「わ…分かりません。私達はここに閉じ込められ、数日に一度しか食事を与えられませんでした。魔族がここに攻めて来た時、応戦した兵士の何人かは絶命していますが、夫やその他、善戦していた騎士団長などの行方は分かりません。」


「そう…ですか」


 私はそう言って唇を噛みました。


「分かりました。皆さんはもう少しここに残っていてください。私が王城ここを解放したら、また戻ってきます。」


 すると、王妃が汚れたドレスから少し見える胸の谷間から、小さな宝玉を取り出しました。


「我が王家に伝わる秘宝です。このような品しか持って来れませんでしたが、何かのお役に立てれればと…」


 先輩の鑑定スキルによれば、この宝玉は『破邪の玉』と言うものらしく、一定の範囲内であれば邪悪な力を弱められる効果があるそうです。


「…ありがとうございます。」


 があるので、ほとんど使う事は無いのでしょうが、折角の厚意を無駄にしないよう、笑顔でその玉を受け取り、部屋を後にしました。


「でも…おかしいわよね…。」

「ん?どうしたの。イサミン」


「もしこの現状がゲーム内のシナリオだったら、城内の人は皆殺しになっているはずだよね」

「イサミンの言う通り、誰が彼女達に食事を持って行ってたのか…。女性だけが生き残っているのも謎だし…。城内にモンスターが居ないのも…。」


 生存者がいるのは確認できた私達は、次の目標を赤い印に決め、城内を進んでいきました。

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