第18話 首都、脱出 その弐

 私達は船の内部、その最深部へと到達…もとい侵入しました。

「さぁ!イサミン。この船が私達の飛空挺になる時が来ました!勇者イサミンの魔力を注ぎ、今こそ大空へと飛び立ちましょう!」


 とんでもなく暴走中の先輩にそのままついて行った私は、そろそろ止めさせようと思いました。


「はぁ。先輩。世紀の大泥棒と言われる勇者がどこにいますか。私達には異世界の知識とプレゼン能力そして、異世界で手に入れたスキルがあるんですから、それをフルに活かしましょうよ。」

「えー!?なんかそれじゃあ…がしないじゃない…」


 先輩は急にトーンダウンして、私を憐れみの瞳で覗き込みます。しかし、私は首を無言で横に振り、を阻止しました。


「はぁ…。先輩…。私達はこの世界に宣戦布告をするために来たんじゃないと思いますよ。少なくとも世界の危機が迫っているこの時に…。…。…。…。」


 なんとか先輩を連れて宿に戻った私は、先輩を落ち着かせるため小一時間、無駄な時間を使っていました。


「で…イサミンならどうするつもりだったのさ…。」


「この世界が私達が知るところのRPG的要素があるなら、ギルド内か酒場辺りを聞き込みすれば何かしらの情報が得られると思います。もし、オーナーの情報もしくは、オーナー自身が見つけられたら、交渉次第でなんとかなると思います。」


 その提案に先輩は、少し納得がいかない様子でしたが、ちょっぴり笑顔を見せてあげるとすぐに首を縦に振ってくれました。


(我が後輩…こえぇぇぇ)


 翌日私達は、予定通り酒場とギルドの二手に分かれ、聞き込みを開始しました。すると私が尋ねた酒場ですぐ、有力な情報を入手しました。停泊中の船はのようで、いわば公共の船だった事が分かりました。そして衝撃の事実を知りました。


 聞かせてくれたのは、行商でこの町に訪れている商人『マチーネ』さんから、私達のいるこの大陸は、人口の8割が人間で構成されている『ニューマ大陸』と呼ばれているそうです。彼は別の大陸からこの定期連絡船に乗ってニューマ大陸に来たものの、戦乱に巻き込まれて船が攻撃されて、辛うじて逃げ伸びたこの港で足止め状態になっている事を酷くボヤいていました。


「んで、ここ『ニューマ大陸』の他に、『エルヴン大陸』『ディブル大陸』『ドワンドゥ大陸』『ネクロミィス大陸』が世界5大陸と呼ばれているんだ。俺はドワンドゥ大陸出身で、こう見えてドワーフだ。」

「ええーー!?」


 私が驚くのも無理はない。ドワーフは小柄でごついイメージだったのだが、彼の身長は私より高く、スラッとした好青年だったからです。


「はは。よく言われます。伯父は純粋な血筋なので小柄でも筋肉も凄いですよ。ところで船について聞いているようですけど、この戦争が終わらない限り、船なんて出せませんよ。漁船ですら容赦なく攻撃されますから…。」


「あ~いえ、船のを探しているんです。」

「持ち主?ん~。それなら船長に聞いてみると良いよ。動かしていなくても毎日のように船に乗っているはずだから…」

「ありがとうございます。」


 すると、マチーネさんが急に私へ近づいて耳元で周りに聞こえない程度に話しかけて来る。


「(もしかして…日本人…ですか?)」

「え!?」


 彼が指差しているのは、私がメモ紙に書いている文字。この世界の言語はほぼ完璧に習得していましたが、セキュリティ上の問題もあって、聞き取り情報は日本語で書いていたのです。


「(もしかして…彼方も…召喚されたのですか?)」

「(いえ…僕は転生と言うものです。あっちの世界では87歳で死んでいますが、前世の記憶を持ったまま、こちらで新たな生を受けたのです。)」


 まさか『召喚』以外にもこの世界に来た人間がいるなんて思いませんでした。私達の言語はとされているようで、何年もかけて研究する人もいました。しかし、彼は一目見ただけで私の文字に気付き、何が書いてあるのかも理解しているようでした。

 戦乱が納まらないうち、彼は当面の間この港町にいるようなので、宿泊場所を聞いたうえ、再会を約束しました。


(ふふふ。勇者なんて羨ましい…か。まるで子供のようでしたね。)


 ちょっとだけ脱線してしまいましたが、私は船長へ話を聞きに港へ向かいました。すると、そこへ先輩が良きタイミングで合流しました。


「ギルドに聞いたら、船長に聞けって言うから…」

「ホントにそれだけ…。」


 いけない…。もう少しで顔に出てしまうところでした。まぁ結果的に同じところへ辿り着いたわけですけど。と自分に言い聞かせ、落ち着いたところで船長に会いに行きました。


「持ち主…ねぇ。それを知って何をするんだい?」


「実は…。…。…。と言うわけで…しかし、船を買うほどのお金を持っているわけではないので…。…。…。」


 私は自分が異世界から召喚された勇者であること、戦争を終わらせるために船が必要だ、と若干の嘘も交えて説明した。これって『オレオレ詐欺』的な?。


「にわかには信じられんが…。だが戦争が長引いたり、万が一この国が敗戦となれば、定期連絡船もくそもないからな…。だが、良いのか?」


 船はこの町に停泊する前の航海中に、戦乱に巻き込まれた傷跡がまだ残っていた。所々に修理の跡が見られるもののすぐには出港できそうもない。船長が毎日港に通っているのも、その時の損傷を一人黙々と直していたからです。


「ふふふ。ならば…我らの出番と言うわけですね」


 終始うつむき加減の船長の前に、不気味な笑顔を見せながら、先輩は満を持して立ち上がるのでした。

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