第19話 首都、脱出、その参
「そ・こ・で、船長!私達の出番なのです」
先輩がここぞとばかりに前に出てくる。
「何か『策』があると?」
船長が先輩に尋ねる。
「よくぞ聞いてくれました。」
船長の問いに先輩は、例の飛行石を取り出した。この世界で魔石はさほど珍しいものでは無いのだが、通常朱色に輝く魔石がほとんどの中で、とても澄んだ青色をしたその魔石は、船長の目を釘付けにした。
「魔石!?しかし、これは…。何という澄んだ輝きなのだ。」
「この魔石『飛行石』は、魔力を
最後の一言に、船長は言葉をつまらせた。
「本当にこの戦争を終わらせられるのか?」
「私達はその為に召喚されました。」
静寂な時間が流れる。そして、考えが纏まったのか。船長が重い口を開いた。
「いいだろう。この戦争が終わらない限り、俺達の商売はあがったりだ。とっとと終わらせられるんなら喜んで協力させてもらう。」
私達は船長に満面の笑顔で応える。
「宜しければ、そのまま船長として務めて戴けないでしょうか。」
「俺が…か?だが空なんざ走らせたこたぁねぇぞ?」
船長はそう言って困り顔をする。
「大丈夫です。上昇と下降以外は、今までの航行と変わりません。最初は少し戸惑うかも知れませんけどね。」
「お、おう。で?いつ飛べるようになるんだ?」
正にその言葉を待ってたとばかり、先輩の目がキラリと光りました。
「明日にでも飛べますよ。本当なら試験飛行も含めて3日は欲しいところですが、こんな非常事態の中です。無茶していただきます。」
船内に緊張が走る。私達と船長は、善は急げと船の最深部だある動力炉へ向かった。
昨日の深夜に侵入し、薄暗い光の中で見た時とは違い、動力が稼働し魔力灯で照らされた室内は、私達の予想以上にアナログな構造でした。
「魔石の付いているこのユニットから供給されるエネルギーで、しかもこんな木製のギアで船を動かしていたのね。」
初めて見るこの世界のテクノロジーにも関わらず、先輩は非常に落ち着いた表情を浮かべながら何やらメモを記している。そんな異世界の技術者に、船長も興味津々の様子です。
「俺にも魔導エンジンの構造はよく分からねぇ部分が多い。魔石の付いたユニットは、お偉い学者しか理解出来ない代物だからな。俺が修理できるのはその先のギアからだ。」
すると、先輩は私達の方向を見てニヤリと笑いました。
「こんなのテクノロジーでもなんでもないよ。魔石を電池に置き換えて動くモーターって感じかな。これなら私でも作れますよ。」
「先輩、そうなんですか?」
「デンチ?モーター?」
先輩は無言で頷くと、エンジンに取り付けられた魔石を指差す。
「今こいつに付いている魔石は、魔力を『溜める』『放出する』の2つのプログラムしか書き込まれていない低級の魔石さ。船長、この船を動かす前に、誰か魔法が使える者が一緒に作業してないかい?」
「あ…ああ。宮廷魔導士が3人。必ず一緒に作業を行っている。何故それが分かるんだ?」
「分かるのよ。それが技術者ってものなのです。(本当は
先輩は船長からの質問を上手くかわしつつ、まるで既に知っているかのような手つきで飛行石を取り付けていく。
「はい。これで終わり。んでっと船長、あとは私達だけの極秘作業が残っているので、たまには街でゆっくりと疲れを癒してください。」
「お…おう…。」
船長は取り付けられた飛行石を不思議そうな目で眺めていた。
「他の乗組員さんにも明日は招集をかけてください。空と海の違いはあるとは言え、操縦自体も熟練の
「わかった。俺から全員に伝えておこう。」
船長はそう言って船から降りて行った。
「ふぅ…さぁ…今度こそイサミン。封印解除よろしくぅ」
「了解です先輩。」
私は設置された飛行石に魔力を注ぎ込む。今まで光の反射のみで輝いていた魔石が、自身の内側から青白い輝きを放ち出す。
「魔石コンソール。オープン。船内仕様変更。必要材料表示。」
先輩の音声と共に術式が形成されていく。同時に不足分の材料も表示され、アイテムボックスからそれらを取り出し、魔石に放り込んでいく。
「さて…今夜は寝かせないよイサミン。バリバリ働いてもらいますからね」
意欲の高ぶった先輩は、既に複数のコンソールをオープンしている。元の世界で言うところのマルチオペレーション状態に入っていた。先輩がこの状態になる時、それはブラック企業の再来である。
船内はおろか外装に至るまで、あらゆる部品が組み替えられていく。その一方で飛行石に大量の魔力を注ぐのが私の仕事。ただ魔力を注ぐだけでなく、鉱石類や材木などの必要アイテムが不足しないよう、コンソールを常にチェックしなければならない。
(これは…結構キツイ…。)
もう何本目か分からない魔力回復薬。新人の頃を思い出す。地獄の長期残業。転がる栄養ドリンクの瓶。嫌な思い出が頭を
「絶対に完成させる!そしてこの国を…世界を平和にするんです!!」
夜を徹して作業は続いた。
―――そして翌日。
「なんじゃ…こりゃ…。俺達の船が…変わりやがった…。」
出港予定時間1時間前に到着した船長ら乗組員全員が、鋼鉄の塊となった船を目の当たりにするのでした。
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