第17話 首都、脱出。その壱
シリヌスの首都から東に10キロほど離れた港町『ウエストランド』。
私達はギルドの依頼を平行し、この町にやってきている。目的はギルドの依頼を達成する事では無く別にあった。
「既存の船を『飛空挺』に変える…かぁ…。確かにゲームでもあったような。」
そう私達の目的は、空かける船の建造である。そのためには資金やらサポートやら、必要なものはたくさんあたりましたが、唯一、既に完成している物がありました。
「飛行石…。」
元はダンジョン攻略の際に持ち帰った魔法石でした。先輩はそれをずっと研究していて、ダンジョンを生成する事ができる内部構造。つまり『魔法陣』の内容が、こちらで言うところの『プログラミング言語』に似ている事を発見したのです。つまり、魔法陣の内容を組み替えるだけで、全く新しい魔法石を作り出す事ができる。技術者としても優秀だった先輩だからこそ、発見する事ができたのです。
この『飛行石』の優れた点は、石そのものがダンジョンを生成すると言う工程を書き換え、乗り物自体の構造を自由に変える事ができる事に変更されている。それは工期不要で乗り物を即座に飛空艇が変える事が可能と言う、まさにチート級のアイテムとなった。
「問題は…飛空艇に書き換えるために必要な船の調達…よねぇ…アテがあるんですか?先輩」
「ん?無い!」
ダメじゃん!
「はぁ…お金もある程度は調達できている…とはいえ、大型船舶を購入できる余裕は無いわぁ…」
「でもでも、ギルド依頼は達成しているし報告済み。首都のギルド支部には『達成後にすぐ戻る』とは伝えているけど、移動時間を考慮すれば…彼らが私達の位置を正確に把握する事は難しいと思うの。」
「先輩…何が言いたいのさ…。」
先輩の顔。これは間違いなく悪だくみの顔だ。少し前の新規プロジェクト立ち上げの決起集会で見せた野望の顔。この顔になった先輩は、突拍子もない事を言い出すに決まっている。
「夜中にこっそり盗んじゃえばいいのよん。深夜から作業すれば、夜明け前には立派な飛空艇の出来上がりよ」
そう言って、先輩は異世界召喚後一のドヤ顔を見せている。確かにお金の無い私達にまっとうな手段で高級ブランドを購入するのが難しいのは、異世界でも同じなのです。資本主義万々歳かよ。
「どうやって大きな船を盗み出すの?さすがに見張りくらいは、いるんじゃないかな」
「と、思うでしょ?実はこの世界に来てから、異世界式の住宅事情を調べた結果、貴族以外の平民は自宅に鍵を設けないみたい。」
それは不法侵入なのでは?私は心の中で先輩に問いかける。魔物が
けれど対人への甘さは否めない。実際、この町では女性が一人で子供を育てる環境が多く散見された。あくまで私の憶測であり、あまり考えたくはないけれど、この世界は生き残るためであれば、例え犯罪者の子供だろうと育てているのではないか。私達の世界では到底有り得ない暗黙の領域だとするなら、私達がこの世界に転移してから今まで、何も無かった事が奇跡なのだろう。
「先輩…。自宅はそうでしょうけど、さすがに船は警戒してるんじゃない?」
「イサミン、それじゃあ今夜、ちょっとだけ偵察に行かない?」
そんなノリノリの先輩と私は、その日の深夜に港を覗きに行くこととなった。
―――深夜…。
異世界の夜に街灯は無い。魔法が主体の世界ではあるけれど、街灯が存在しないのは、恐らく魔力を使った道具『魔道具』がそこまで普及していないのだろう。ダンジョンとは違って、あまり大きな光を出すと周囲に気付かれそうなので、魔法照明は極力最小限に抑えつつ、私達は港に到着した。
「街灯も無いし、港には誰一人居ないね…」
魔法による気配反応も無し、本当に無人のようだった。
「んじゃ早速やっちまいましょう」
「ちょ‥‥先輩。今日は下見じゃないんですか?」
「こういうのは早い決断がモノ言うのよ」
先輩はそう言って颯爽と船内へ侵入していく。私もその後を追い中へと入って行きました。飛行石を設置する場所は、基本的にダンジョンと同じで最深部。起動のトリガーは私の魔法力となっているので、万が一無くしたり奪われたとしても、よほどの手練れでない限りただの石にしか見えないだろう。
「ん~マッピング機能はここでも役に立つねぇ。でもこの世界にはオール鉄製ってものが存在しないのかねぇ…。」
船内はほぼ木造と言って良い状態。このままだと地上から砲撃を受けたら即死亡と言う、最悪な結果を招くことは目に見えていた。しかし、飛行石を使った船内改造では、手持ちの鉱石を使用する事ができる。この日のために貯めて来た鉄やミスリルと言った鉱石類を魔石に吸収させ、図面通りに配置させれば良いのです。
「さぁって…私の飛行船ちゃん。お目覚めの時間ですよ。」
私の…じゃないでしょ…そもそも人の物…。盗みを働いているにも関わらず、妙にノリノリな先輩を私はただ見守るしかありませんでした。
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