第16話 睨み合い

 私達が首都周辺でレベリングとを進めている一方で、最前線の国境は物々しい雰囲気に包まれていた。

 国境警備軍の見張りが、魔族の大軍を肉眼で確認したのです。その距離はおよそ1キロ。進軍はそこで一度止まり、両者の睨み合いが始まっている。


「隊長、見張りが魔物の軍を肉眼で確認したそうです。彼奴きゃつらは国境手前1キロ付近に布陣。こちらの出方を伺っているようです。」


「そうか…。」


 一報を受けたレイは、ただ一言呟くだけだった。既にいつ攻めて来てもおかしく無い状況になっている。そんな状態でも冷静でいられる自分が不思議だった。


「目視できる範囲で良い…。敵の総数は予測できるか?」


「はっ…敵の数…およそ50万…。ゴブリンやオークを中心とした亞人種部隊を前衛に巨人族の姿も何体か確認できます。」


「そうか…。ならば、後衛に魔法系が控えていてもおかしくない状態…と言う事だな」


「恐らくは…。数は不明。」


 魔法が存在するこの世界で、魔族を相手にでは敵わない。魔法部隊を随時想定し、人間側こちらでも魔法部隊を整える事が最重要なのだ。


(前衛だけで50万体いる状態ならば、後衛の魔法部隊も相当な数を用意しているに違いない。迂闊うかつに動けばこちらの攻撃部隊が危機に立たされることは必至だろう。)


 レイはゆっくりと立ち上がる。


「ラムダ。魔法部隊の配置は完了しているか?」

「はっ!本国より到着後、外壁には対魔防御陣を書き終え、長距離魔法にも対応すべく、1日3回交代制で防御魔法を展開しております。」


「そうか…。魔法部隊には負担をかけて申し訳ないと思う。」

「何をおっしゃいますレイ王子。不意打ちでも喰らえば、それこそ奴らの狙い通りになってしまいます。数ではこちらが絶対的な不利。少しでも勝機を見出さねば兵の士気にも関わります。」


 防御魔法の展開は、砦内にいる全ての兵士にとって頼みの綱だった。防御もそうだが負傷兵を治すもいるからです。シリヌス公国兵は5万人、冒険者もおおよそ1万人が集い、戦争に向けての打ち合わせも始まっていた。


「やはり、首都からの救援を待った方がよろしいのでは?」

「要請は出している!しかし…、奴らの侵攻が早すぎる…、伝令の到着から兵の派遣を考えても、到底間に合わないだろう」


冒険者組合ギルドは全力でサポートしますが、S級冒険者はそこまで多くない。6割くらいはC~D級の冒険者で構築されている現状で、どこまであの軍団を抑えられるか…。」


「ええい!異世界召喚術はまだ成功しないのか!」


「無茶を言うな。魔法陣の記録が無い上に、当時の関係者は皆他界しております。身内に受け継がれていないか、身辺調査を行っていますが、こちらも間に合わないのだ」


「辺境のイグサムからの連絡はまだか?」

「馬鹿か?あんな国にが存在するわけないだろう?」


 打ち合わせは難航していた。公国兵の実力は冒険者で言えばB~C級クラス。つまり、6割がC~D級の冒険者よりは格が上だったので、例え格上のB以上を持つ冒険者協会ギルドでも、強い発言力は無かった。


「いっそのこと、冒険者おまえ達が先に敵陣に乗り込めば良いのでは?」


 公国側文官の言葉に、眉をピクピクさせイライラを募らせていた男。この打ち合わせに参加していた冒険者組合ギルドの代表、S級冒険者の第一人者シュナイザー。その実力は200匹以上のゴブリンをたった一人で壊滅させたほどで、単独でA級冒険者10人パーティーを必要とする凶悪モンスター『バグベア』をも倒せるほどです。


「確かに実力差で考えれば、我々が突破口を切り開くのが当然の考えでしょうね。しかし冒険者とはいえ、元々は一般国民なのですよ。違いと言えば、平民か貴族か…その違いだけで見下されると、そのうち足元をすくわれますヨ」


「貴様…。」


 文官の男は持っていたペンにギリギリと力を入れる。


「ならば、貴公には名案があると言うのか?」

「正直…ありません。S級と言われている私ですが、所詮はこなしたクエストの数が、常人よりに過ぎませんからね。」


「ならば口を慎みたまえ!」

「ですが…。私はギルドを代表し、冒険者達の命を預かっている身。戦争に犠牲はつきものとは言え、できる限る被害を最小限で済ませられるよう尽力したい、そう思っているだけなのです。」


 そこへ一羽の鳥が飛んで来た。その足には手紙がくくり付けられている。この鳥は元々モンスターだったが、人間が何年も研究し改良した「伝令鳥」なのです。


「ほう…支部からの伝令ですか。どれどれ…」


 シュナイザーは伝令を黙読すると、にやりと含み笑いをした。


「異世界の勇者が現れたようですよ?」

「なんと!誠か!?して…今どこに?」


「シリヌスの首都。そのギルド支部からの伝令です。」

「おおー。さすが我が国である。異世界の勇者殿が顕現されたとなれば、我が国の戦力は10倍…いや、100倍にもなりましょうぞ。」


 喜びを露わにする公国の文官。対してシュナイザー厳しい表情をしていた。それは手紙の内容である。


「異世界からの来訪者…シリヌス首都より失踪…。現在、消息を追っている。」


 そのお話は…。また次回。

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