第15話 気分はワクワクさん!?

「このシステム、そんなに便利だったの!?」


 私達はこれまでにもいろいろなチートをしてきたけれど、この機能が一番チートだった。『取扱説明書』にはことわり、その一端が細かく記載されていたからです。ただし、私達が元の世界に帰る方法と言ったような、私達自身の取扱いについて、その記載はありませんでした。


 さすがにそこまで便利じゃないのね。と、私はコンソールを見ながら考えていました。宿のベッドに腰掛けながら、トリセツをパラパラ眺めていく。


(アイテム一覧もあるわね。でもこれっ凄い初期のアイテムしか無い。ポーションも効果から見て低品質の粗悪な物ばかり。精製方法も載っているけど、もしかしてが元なのかしら)


「先輩。このポーション精製方法。使。」

「さすがイサミン。考えている事は一緒だね。実は既に試作品があるんですよ」


すると、先輩は懐から「緑色の液体を入れた小瓶」を取り出した。


「これは!?」

「ふふ~ん。今までの狩りや収穫で回収していた薬草を組み合わせて作った。この世界にただ一つしかない新しいポーション。私の新しいスキル『鑑定』で導き出された効果は、運動能力の一時的な向上。名前を付けるとすればゲームらしくスピードポーションってところね」


 先輩はそう言って誇らしげに私を見つめて来る。私も正直驚きました。ここ数日の長い移動時間を利用して事は知っていましたが、その成果がこれほどすぐに現れ始めるとは思わなかったのです。


「先輩…ホントもう職人ですね。この世界でエジソンにでもなれるのでは?」

「そうね。この世界にノーベル賞的な勲章があったら貰いたいくらい。イサミンも見たと思うけど、この世界の回復ポーションは効果が薄すぎて初心者にしか使えないのよね。けど、私が持つによって、偉大なる発明が次々と!これって良い商売になると思わない?」


 確かに私達は、この世界の流通貨はあまり持ち合わせてはいない。ギルドクエストによる報酬も、今の現状では満足に生活もできない。私は勇者として立ち回る一方で、先輩が技術を駆使した商売で金銭的なサポートをしてくれれば、今後楽になってくるだろう。


「先輩、そのためにはまず材料集めとレベル上げが必要になりますよ。製造系スキルが上がって行けば、作成可能なアイテムも増えるのが普通ですから」

「って事で…イサミン、明日からよろしく!」


「え?」

「いや、私もう攻撃系の役目できないから、寄生させてもらう~」


 出た。先輩の寄生発言。ゲームをやっていた頃の先輩も、クリエイト系職業のレベルを上げたい時に使った言葉。ようは何もせずにレベルアップできると言うネトゲー用語の事。


「せんぱ〜い。いちおーアタッカースキルあるんですからー。たーたーかいましょーよ。」

「手厳しいね。我が後輩は。」


 先輩は頭をポンと叩き渋い表情をしていた。私だって楽したいです。


———翌日。


 私達は首都周辺の探索に乗り出しました。名目は戦に必要なアイテムの回収です。レベリングと話したところで、ステータスの概念が無いギルド職員に伝わらないからです。


「うひょー。さすがに戦争直前ともなれば、いっぱい冒険者がいると思いきや、全然人が居ないじゃないの」


 首都周辺は人通りのある街道を一歩外れると、魔物の巣窟になっていました。原因は戦争準備による冒険者不足。レベルと言う概念の無いこの世界では、強くなるためにモンスターと戦うリスクよりも、修行による経験補填の方が効率良く強くなるし、生存率が高かったためだ。


「先輩!ぼさっとしてないで戦ってください!」


 思った以上に、オリジナルスキル『殺気察知』の効果は大きかった。次々と反応が現れてはやって来るモンスターにすぐ対応できるからだ。私は先輩と情報を共有しつつ、殺気反応が無くなるまで狩り続け、安全を確認したら次のポイントへ移動する。まさにローラー作戦で狩りを続けた。


「ふはぁ…これ明日には筋肉痛になりそう…。」

「ですね…。でも、おかげでレベルは確実に上がっていますし、魔力切れを考えて作って来た『魔力補填ポーション』も全然使ってない。油断はできませんけど…」


 これも先輩の発明である。肉体の損傷を回復させる通常の『ポーション』を研究し、元々魔力の強い植物を加えて作り出した。名前の通り失われた魔法力を回復させる力を持っている。しかし、レベルアップによって回復されているので、現在のところ使用していない。それだけ周囲のモンスター数は多かった。


「とりあえず、ここは既に反応が無くなっているから、次のポイント…と言いたいところだけど、ギルドで受けた依頼はここまでなんだよね。一旦戻りましょう。」


 アイテムボックスもパンパンだった。依頼を受けた狩り対象モンスターは10種類。その全てが首都周辺からほぼ駆逐されている事を、私達はまだ自覚していませんでした。

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