第14話 最前線って…何処?

 先輩が再び道具と睨めっこしている間に、私は町の中を散策していました。


「ん~。やっぱり同じ物しか流通してないなぁ…」


 とは、地図の事です。

―――昨晩。私は晩餐会の最中で、様々な人と情報交換をしていました。その中でも一番重要だったのは、この世界の広さでした。


「ここ(首都)から戦場まではどれくらいかかるんですか?」


 相手は同じく晩餐会に呼ばれた恐らくこの国では名が知れた貴族さんだと思う。名前は確か…。インドゥア男爵。彼は爵位こそ低いが、国内で様々な商売を行っている所謂いわゆる『成り上がり貴族』です。


「ここからかぁ。馬の脚でゆうに10日は掛かるぞ?」


(なんですとぉ!?)


 『馬の脚』と言う表現は私なりの解釈ではあるが、最初の町から隣国の首都までかかった時間の倍、いやそれ以上かかる計算になる。


―――で…今に至る。


「はぁ…。やはり飛翔魔法を完成させるしかないですわね…。」


 召喚される前の世界は『揚力』と言う力が解明され、鋼鉄の乗り物が空を自由に飛べる時代。それを魔法で表現するためには、揚力以外にも空気抵抗や重力と言った『飛ぶために必要な力』を計算し、心の中で再構築プログラミングしなければならなりませんでした。

 浮くためなら、重力を制御するだけでできた。風魔法を応用すれば動くことも可能だった。しかしそれだけでは足りなかった。移動手段として利用するに足りる速度が出なかったのだ。言うならば『空中散歩』状態。大魔法による反動も考えたが、目立ちすぎるのと魔力消費が異常なまでに高いのは目に見えていた。

 地図が役に立たない世界なのは分かっているので、自分で上空から確認しようと思いましたが、高度が高くなると低酸素と低気温による体への影響が考えられた為断念。しかしそれでも私は、高速移動手段の確立のため、日々の鍛錬は欠かせませんでした。


…ふぅ…はぁ…ふぅ…はぁ…。


 私は呼吸を整える。目を閉じて魔力を全身に集中させる。誰もいない広場で私は、新しいスキルである『飛翔移動』の開発を行っているのです。目標は時速100キロ以上を出す事。この世界なら間違いなく最速の移動手段となるでしょう。


(飛行機のような計算された翼を持たなければ揚力は期待できない。なら…いっそ重力を限界まで無効化…できるのかな。飛行時に発生するソニックムーヴは、結界によってある程度相殺させれば…。)


 少しずつ計算を変えながら魔力を制御していく。すると徐々に、足が地面から離れていく。ゆっくりと目を開き、自分が浮上している事を確認する。


「んー。浮くことはできるんだよなー。」


 ゲーム上では行き先を選択して自由に移動ができるアイテムやスキルがあったが、飛行となれば必ず専用の飛行船を使っていた。そのためかイメージがイマイチ掴めない。


「あ~あ。もうちょっとアニメとか漫画とか見ておくんだったなぁ…。」


 魔力を解くと、ほんの少しだけ浮いていた体がすぐに着地する。それだけの高さしか浮いていられなかったのです。さすがにこの異世界の重力が強いと言う事はあり得ないだろう。特に得られるものは何も無く、私は宿に戻りました。



「お、戻って来たんだねイサミン。」


 宿では呪われていると思われる聖剣を診ていた先輩が出迎えてくれました。


「先輩、何か分かったんですか?」

「いんや、さっぱり。けど、1日目にしてはいろいろと分析できたと思う」


 先輩はコンソールを出して私に見せた。そこには『呪われた剣』の文字と、呪いの効果が文字化け状態で書かれていた。


「私の鑑定スキルがまだ未熟なせいか、効果までは分からなかったよ。けどそれはスキルレベルが足りないだけで、もしかすると鑑定のレベルを上げれば何か分かって来るかもしれない。」


「さすが先輩。こっちも地図を探したけど、ここの地図も正確じゃないみたい。代わりに有力な情報が手に入ったので、その情報を基に計算したけど、最前線への移動はかなりの時間を要する事は確かよ」


 すると、先輩はもう一つのコンソールを開いて私に見せる。それは精巧に書かれた飛行船の設計図だった。


「わぁ!なにこれ…すごっ!」

「まぁ…なんだ。飛空艇って奴だ。この世界には存在しない乗り物なのは間違いないし、武装すればそれだけで戦力にもなる。問題はただ多いんだけど…ね」


 その問題とは簡単な話、必要物資自体をどうやって入手するかと言う事。現代ならジェット燃料をどうやって精製するかを考えているようなもので、魔法が存在するこの世界の場合も、燃料である魔法石がどこにあるかも分からない状態。


「ん~先輩、そもそもアテがあるんですか?私達、土地勘すら無いじゃないですか。」

「ふふふ。実は私もただボーッとしているわけじゃなく、情報は集めているのですよイサミン…。実はこの設計図は私が作成したものではなく、私達が今見ているこのシステム内に保存されていたものなのです。」


「ええ!!!!!??」


 それは意外なことでした。私達がこの世界の住人には出せないシステムコンソール。普段は『ステータス』と『スキル』そして「アイテムボックス」の3つしか使っていなかったし、私自身もそれ以外は無いと思っていました。

 しかし先輩は、あらゆる可能性を模索し新しいコンソールを見つけていたのです。


取扱説明書Instruction manual


「ってトリセツーーーー!?」

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