第10話 ダンジョン攻略!?その参

「う~ん。マズイ…」


 焼けた肉を頬張りながら、先輩は渋い顔をしていた。そんな私も先輩と同じく渋い顔をしていたわけですが、先述の通りで原因は焼けた肉です。


「某ゲームなら、『じょーずに焼けましたぁ』とか聞こえてきそうなくらい絶妙な焼け具合なんだけど…何が違うのかなぁ…」

「先輩…よくわかりませんけど、多分調味料が無いだけだと思います。」


 全くその通りで、素焼きしたモンスターの肉が美味しいわけが無く、まるでゴムでも噛みしめているかのような弾力が口の中に続いたのです。(毒は無かったので食べれなくは無かったのですが…)


 その日、私は魔力の回復に専念するため、早めに就寝するのでした。


―――翌日。と言っても、ダンジョン内では魔法による明かり以外に照明は無いので、本当に次の日になっているか不明なのですが、結界のお陰でぐっすりと眠る事ができた私達は、ダンジョン攻略を再開しました。


「イサミン?」

「ん?どうしました?先輩」


「あ~いや、少し背筋がひんやりとしないか…な?」

「変な先輩ですね。もしかしてビビってます?」


 私自身はモンスターを探知魔法で確認できる。だから周囲に敵影が無いのは分かってはいましたが、先輩の一言がとても引っかかりました。


「先輩…。探知には敵影も大きな魔力変動も確認できません。けれど、先輩のその感覚が何らかの"勘"みたいなものと仮定したならば、ここは警戒すべきなんじゃないかな?」


 私達は武器を構え、ゆっくりと歩き始めました。


「はっ!」


 私は突然の事で自分の目を疑いました。今まで全く無反応だった探知魔法に、突然敵影が映し出されたからです。


「先輩!後ろです!!」


 振り返るとそこには、私達よりも遥かに高身で天井まで届きそうなモンスターが1匹と魔導士のローブを身に纏った3匹のモンスターのパーティーが視界に入りました。


「ステルス迷彩か!?」


 先輩は慌てて盾を構えるが、巨大なモンスターの持つ大きなハンマーを叩きつけられ、私の背後に吹き飛ばされる。


「きゃあああああ」

「先輩!!」


 私は先輩の元へ駆けつけると共にHPを確認する。先輩のHPは既に半数以上が削られレッドゾーンに入っている。


治癒Healing!!」


 神聖力を最大に上げていたのが功を奏しました。覚えたての回復魔法は先輩のHPを瞬く間に回復させていく。


「がはっ!!げほっ!!」


 しかし、背中からダンジョンの壁に激突した痛みは、先輩の意識を奪っていた。その間にも敵はこちらに近づいて来る。


「っく!火球Fire Ball!!火球Fire Ball!!火球Fire Ball!!」


 私は迫りくる敵に向けて魔法を放つ。けれど、冷静さに欠けているこの状況では、3体の魔法系モンスターのうち1匹に命中するのが精一杯でした。


「先輩!先輩!起きてください!先輩!」


 視界の先には、2体になった魔法系モンスターが両手をかざして魔力を溜めているのがわかる。あんなのが飛んで来たら、先輩に当たってしまうかもしれない。しかも前衛の巨体モンスターが邪魔で魔法詠唱を阻害できない。


闇球Dark sphere


 暗黒に染まったような色をした火球が、巨体モンスターの両脇を通過してこちらに向かってくる。私は咄嗟に先輩を庇おうと前に出て両手を広げる。


「させるかああああああああ」


 闇球はもう目の前に迫る。初めて見る魔法だけにどれくらいの威力があるか見当がつかない。もしもここで二人とも死んだら、コンテニューはできるのだろうか。それとも『これは夢でした』オチで布団から飛び起きるのだろうか。いろいろな事が頭をよぎる。その時でした。


反射盾Reflective shield!!」


 急に先輩の声が後ろから聞こえたかと思ったその瞬間、まるで鏡とレンズのようなものが目の前に出現し、迫りくる闇球を受け止める。そしてそのまま敵めがけて魔法が反射していく。


「先輩!!」

「はぁ…はぁ…間に…あった…っつててて」


 後ろを振り返ると、そこには片目を瞑り、痛みを我慢しながらも懸命にスキル状態を維持しようと集中している先輩の姿があった。反射された闇球は巨体モンスターが壁となり受け止める。私はピンチから一転してチャンスに変わった今この瞬間を逃してはいけないと、とっておきの魔法を使う事にしました。


「集え!光の精霊たちよ。形作れ!光の刃よ。我が武器に宿りて、目の前に立ちはだかる悪しき者を切り裂け!!神聖刃Holy Blade!!」


 詠唱の終了と共に周囲に展開されていた光が、私の持つ武器(こん棒だけど)に収束されて光の刃を形成する。光が武器に収束することで周囲の光が消え、洞窟内が暗くなってしまったが、目の前にいる敵の眼球だけが不気味に光っているため、位置が分かりやすかった。


「斬りさけええええええええ!!!」


 私は思わずそう叫んでしまうほど気合いの籠ったこの一撃は、一瞬で3体のモンスターを一刀両断する威力だった。3体とも胴体が横に真っ二つとなり、その場に倒れ絶命した。


「はぁ…はぁ…はぁ…や…やった~~~。」


 私は思わず先輩に向かってピースサインを出してしまう。が、辺りは暗闇に包まれていて、先輩の顔を見る事はできませんでした。


「いてて、それよりも早く、明かりを点けてほしいな…」

「あ…」


 すると、先ほど倒した巨体モンスターの死体が光っていた。私達は石包丁でモンスターの遺体を裂いてみると、そこには青白い光を放ち、荒々しくも綺麗に丸く整えられている石があった。恐らくこの巨体モンスターが魔石を食べ、凶暴にかつ巨大な姿へと成長したのだろう。


「おー魔石だ!」

「きれい~これを破壊、もしくは持ち帰れば良いのね」


 私達は魔石を破壊せず、そのまま持ち帰る事にしました。道中ギルドで言われた通り、モンスターが次々に襲って来ましたが、ボス討伐によりレベルの上がった私達は、その全てを撃退しながらダンジョンの入口を目指しました。


―――ダンジョンを抜け外に出てみると、太陽は既に沈みかけていました。


「つ…疲れたぁ…」

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