第9話 ダンジョン攻略!? その弐

防具作成Armor Creation!!』


 先輩のスキル効果で、なんの変哲も無いが衣服へと形成されていく。


「ほい。出来たよ。」


 先輩は誇らしげな顔で私を見つめる。ダンジョンに入って恐らく1時間は過ぎたでしょう。入って早々に服をスライムに溶かされて、それでも周りに冒険者は居なかったのでそのままの状態でしばらく戦い続け、ようやく獣系のモンスターと遭遇。試行錯誤しながら毛皮を剥いで、衣服を作成しているところなのです。


「あ…ありがとう…ございます。先輩」


 久しぶりにまともな服を身につけて、私はついさっきまで上半身露出状態で戦闘していたことに恥ずかしさが出てしまいました。そんな私の真っ赤にした顔を、にやけた顔で覗き込んでくる先輩。


「お?ツンデレ?いいねぇその反応」

「ちゃ…茶化さないでください!もう。今になってホント恥ずかしくなってきたんですから」


 さすがダンジョン。外にいるモンスターとはケタ外れの経験値を持っているようで、私達のレベルがどんどん上がっていると実感する。


「なぁイサミン…。一応、アイテムボックスに食料とか積んできたんだけど…。まさかどこまで続いているか分からないダンジョンを一日で攻略…なんてことはない…よね?」


 先輩は本当に用心深い人です。アイテムボックスの容量は、二人とも最低限のサイズなのに関わらず、その容量の半分は食料で埋まっていました。ちなみに食料と言っても、ダンジョンに向かう途中で遭遇した獣系モンスターの肉である。ボックス内に入ったアイテムはどう扱われているのかが不明瞭にも関わらず、生ものを入れるなんてどうかしていると思ったのですが、実際、ダンジョンに籠ること自体が初めての私達にとって、地上に戻れなくなる可能性も含め、食料問題は重要でした。


「ん~光魔法、探知Detectionで常に、周囲の状況を掌握できるんだけど…やっぱりゲームと違って、1階層ずつの構成ではなさそうなんです。」


 ゲームでは処理の関係上で各MAPを階層化している事が多く、例えば地下2Fまで探索したら帰還する等の戦略をとる事が出来ました。しかし、ソナーのように周囲を探索しているにも関わらず、その全貌を見通せない事を考えると、どこかに隠し通路があるのか、あるいは増殖するダンジョンの構造は、縦ではなく横方向に拡大している事が容易に想像できました。


「そっかぁイサミンの魔法を以てしても、マッピングは難しいって事なのね…。」

「はい…。入口から今までの道のり、そしてその周辺はマッピングできているし、ゲームと同じで自由に閲覧する事がで、これが無ければと同じくここで一生を過ごす事になるでしょうね。」


 周囲を見渡すと、時々発見するご遺骨。これらは恐らくレベルに見合わずにダンジョンへ来てしまい、モンスターの襲撃に耐えられなかったか、帰り道が分からず餓死したか、いずれにしてもここに来るまでに、何か所かで遺骨と遺産を目の当たりにしてきたのです。


「なぁ…。亡くなった方の装備とか持って帰っちゃダメなのか?」

「ん~そうしたいんだけど、呪われていたら怖いし、持ち帰ったあとにトラブルになるのはちょっと…。一応場所はマーキングしてあるから、いつでも取りに行けるんだけどね。」


 今後の事を考えると、彼らが身につけていた武具は良いお金になるし、ダンジョンは攻略が完了すれば消えてしまうので、そのままにしておくのは勿体ないのです。


「レベルも上がってきてますし、今後の事も考えて解呪魔法Dispelling Magicを取得しておきましょう。そうすれば、何かあった時には自分でなんとかできますからね」

「おー。いいねぇ解呪!私、ちょっと前にあった盾とかめっちゃ欲しいし…そのスキルって自分でもかけられるの?」


「それは…分かりません。そもそも呪いの種類が分かりません。例えば、魔法が使えなくなる呪いが付いていた場合、自分で解呪できなくなりますから、できれば…先輩!いろいろ実験台になってください。」

「イサミン…サラリとえげつない事言うね…。」


 私は先輩に両手を合わせてお願いすると、先輩は少し渋った顔をしていました。実はここ数日で私の翻訳技術も向上してきているので、特に単語で読めるスキル名なら理解できるようになっていました。


「この説明欄もざっくり読めるようになれば、実験とかしなくても良いんだけどねぇ…。スキルツリーが先輩とは違うみたいだし、ステータスは見せる事ができても、スキル欄は見せられないのが残念」

「だねぇ…たまにイサミンが新しいスキルとか使った時には、驚きの連続だったけど、それは私も同じみたいだし…さ」


 スキルツリーとは、ゲームでもよく使われるもので、基本スキルから派生するスキルを、まるで木の枝が生えたように見る事ができる仕様の事である。先輩は翻訳や製造技術から派生したスキルが、私は光や火と言った属性から派生するスキルが見えているのです。(ちなみに基本スキルだけは私も先輩も同じスキルが出ている事は確認済み)


―――潜り始めてどれだけの時間が過ぎたのでしょう。私が展開していた照明スキルの効果が薄れ、徐々に暗くなってきていました。


「多分…そろそろ8時間かな…」


 私の展開している照明魔法は、スキル情報の中に『8』の数字が見えていたので、私はその数字から8分、もしくは8時間の効果時間だと考えていました。8分であれば、何度も展開していたはずなので、正解は8時間なのでしょう。


「そろそろ、どこか安全な場所が欲しいなぁ…」

「先輩、そう言うと思いました。」


 私は覚えたてのスキルを使う事にしました。


「我ここに願わん、我が信仰せし聖なる神ウルティナの力を以て、この場所に神聖な領域を作らん。神聖領域Sacred Territory!!」


 すると、足元に直径5mほどの魔法陣が描かれ、周囲から魔物の気配が薄れていきました。


「わわわ!!何!?何!?」

「ゲームで言うところの、セーブポイントでしょうか。これも8時間持続の結界のようです。ボスクラスの魔物は分かりませんけど、少なくともこの周辺の魔物なら寄り付きません。」


「さっすが勇者イサミン。こんな神聖魔法も使えるようになるなんて便利だねぇ…。」


 先輩には言いませんでしたが、私はこの時点で『神聖力Lv10』を取得し、このスキルを得る事ができていました。理由はただ一つ。


「ゆっくり寝たいから…ですよ。先輩」

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