第8話 ダンジョン攻略!? その壱

 異世界召喚2日目。私達は宿屋の窓から降り注ぐ強い朝日で目が覚める。


「超ぉ~眩しい~。」


 この世界にはガラスは存在しているようだがカーテンが無い。室内が温かいのは強い日差しのせいでもあった。朝食を早々に済ませ、私達は再び冒険者組合ギルドへ足を運んだ。


「へぇ…ダンジョンはあるんだ。」


 先輩は昨晩の就寝前、『せっかくの異世界でダンジョンに行かないのはもったいない』と話していたが、そのお目当てのダンジョン攻略クエストを見つけ、子供のようにはしゃいでいる。しかも現在、大きな戦いが勃発する直前と言う事もあり、ダンジョンに籠っている冒険者はほとんどおらず、この国の組合は相当困っていました。


「アンタ達くらい珍しい冒険者はいないよ。しかも女の子二人でダンジョンに入るだなんてねぇ」


 ダンジョンのモンスターは、最深部の魔石を破壊しない限り増え続ける仕組みとなっている。何故魔石が最深部に出現するのかは解明されておらず、仮説では『腐敗した大地の魔力が長い年月をかけて凝縮し魔石となる』と伝えられているそうです。


「魔石を破壊、もしくは回収する事ができれば、そこのダンジョンは徐々に自然消滅する。前者はモンスターの発生源が無くなるから帰りが楽。けど後者はお勧めできないよ。魔石から漏れる魔力に、他のモンスターが引き寄せられるから、脱出までに野垂れ死んじまうよ」


 受付のおばさんはそう告げる。


「いいんじゃない?イサミンはチートキャラだもん。魔石を持ち帰って解析すれば、もっと良いアイテムが作れるかもしれないから、ここは持ち帰らないと損するよ。」

「ん~確かに先輩の言う通り、魔石を埋め込んだ剣とか、ゲームではよくある事だし、行ってみようか。ついでにレベル上げもできそう。」


 私達はC級ダンジョンの依頼を受ける事にしました。報酬もやはり高めに設定されていて、宿屋に泊まる資金や、武具の購入も容易にできるほどの金額でした。


―――王国を出発してどれくらい歩いたことだろうか。太陽の位置から予想してお昼頃、切り立った崖の下、ダンジョンはそこにぽっかりと大穴を開けて冒険者の侵入を心待ちにしている様子だった。


「ここかぁ~なんかR・P・Gって感じしてきたぁ~」


 先輩は「木で作った大盾」の感触を確かめながら言う。この盾はダンジョンへ出発前に急ごしらえした物で、先輩が新たに取得したスキル『防具作成Armor Creation』の実用テストを兼ねていた。


「先輩、どうして『武器作成Weapon Creation』を優先しなかったんですか?」

「ん?武器なんてチートキャラのイサミンには、今のところ無意味じゃん?でも防具は違う。私達はガチでモンスターと戦うし、怪我だってするかもしれない。魔法で傷は治せるかもしれないけど、痛みはどうにもできないから、早めに守備を固めておいた方が良いでしょ?」


 先輩の言う通りです。ここは異世界、私達した普通のOLが、いきなり実践投入された戦闘なんてたかが知れている。私のように全てステータスが高いキャラなら、例えこん棒を装備したとしても初期モンスターは一撃だし、ダメージもほとんど無いだろう。しかし、先輩は今から発展途上する段階にいる言わば初心者キャラ。しかも、手持ちが心もとない状態では武器は愚か、防具すらまともに買えない状況なら、自分で作れた方がはるかに有能で、しかも自分の身も守る事ができる。


「でも大盾装備のおかげで、先輩の『CLASS』が、『translator』から『Guards』に変わってるのよね。イサミン、意味は?」

「ん~前衛?かな…いや、だと思う。なんか凄いソレらしいのになったね先輩」


 時々思うのは、先輩が持つ翻訳スキルを持って一番分かりやすくなっても、英語で止まる事があると言う事。英語が得意な私なら問題無いのですが、先輩はそこが苦手のようです。逆に言えばとも考えられる『バグ』のような現象なのでしょう。


「ほら、アニメでもあったでしょ~盾使いの勇者が主人公の。いいじゃんこういうの!」

「私、アニメ見ませんからよくわかりませんけど…。」


 私の一言に、先輩はがっくりと肩を落としたようです。それも仕方ありません。私がMMORPGにはまった理由は、当時付き合っていた彼氏のためであり、結果的に自分が彼氏以上にドはまりしただけだったのです。


「と…とにかく先輩、中に入ってみましょう。」


 私達はダンジョン内に足を踏み入れました。


照明Illumination!!」


 光属性を持つ私は、光系のスキルを多数使用する事ができる。応用すればダンジョン内を松明のように明るく照らす事もできると言うわけ。そんなダンジョン内は本当にゲームのダンジョンとほぼ同じで、外見はただの洞窟でも、その内部の壁や天井はまるでうごめき、その不気味さを一層引き立てている。


「うぁぁ。私こーゆーの苦手なのよ…ね」

「あ~うん。先輩の気持ち…分からなくはないです。普通、こういうの得意な女性って変わり者だと言われますし…」


 すると、私の背中に何か『ヌルッ』とした物が入ってくる。


「ひゃっ!な…何!?」

「イサミン!気を付けて!天井から…これ多分スライムだ!」


 私はすぐに天井を見上げると、そこには緑色に濁った液体のような物体が天井に亀裂から滲み出てくるのが見える。


「イサミン!服!溶けてる!」

「うっそ~!?」


 自分の背中は確認できないが、明らかに背中がスース―してくるのが分かるし、完全にブラのホック部分が溶けてしまっているのも分かる。


「っく!!『火球Fire Ball!!』」


 私は天井のスライムへ魔法を放つ。チートキャラである私の魔法力に、スライムは抵抗もせずあっさりと蒸発し、そして赤い石のような物だけが残り、天井から落ちてきた。


「これって…多分、ゲームで言う魔物の核ってヤツかな」


 しかし、溶けた服はどうにもならない。うーんどうしよう。着替えなんて持ってきてないよ。私達のダンジョン攻略は、幸先の悪いスタートとなった。

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