第6話 誕生、チートキャラ

「でやあああああ!!!!いっけぇぇぇぇ!!聖槍Holy spear!!」


 イサミンこと、私の持つただの棒から放たれる『光の刃』が、黒色に光る虫を捉える。光の刃に貫かれた虫は、その場で絶命し横たわる。すぐに先輩(カナカナ)が触覚を石包丁で切り落とす作業へ入る。


「イサミン…せめてスキルで触覚を落とせないの?」


 先輩はため息をつきながら地味な作業をこなしていた。


「仕方ないでしょ?ゲームとは違ってとか無いんだから。」


 とは言え、狩りは順調だった。レベルアップによって体力と魔力が回復するので、今の今まで全力で魔法を飛ばせば倒せていたのです。それも全て、私が自分の力に気が付いたからです。


「まさか初期状態のステータスポイントがこんなところで役に立つとは思わなかった。」

「だねぇ。INTへの恩恵はそのまま魔力数値に変換されるし、6大ステータス全部に最初から大量に振れるのは、もはやチートとしか言えない」


 私はギルドを出たあとに、先輩とステータスについて確認したところ、大量にポイントが残っているのはだと気づかされたのです。そこでINTを中心に、相反あいはんするSTRも含めて6つのステータス全てに、割り振ってみたわけです。


「ん~極振り(※ひとつにポイント全てを捧げる成長方法)でも良かったんだけど、この異世界で生き残るためには、で縛ってはいけない気がするのよね。」

「私はゲームのセオリー通りの極振りよ。かわいい後輩だけに無理はさせらんないですから。」


 先輩は同じ召喚者だったけれど、ステータスポイントの恩恵は受けていなかった。多分、私一人が本来"勇者"として召喚されるはずが、先輩まで巻き込んでしまった事に起因すると考えられる。しかし持ち前の明るさと、同じネトゲ出身と言う強みを生かし、先輩は先輩なりにこの異世界を生き抜こうとしている。


「しかし、虫だけじゃレベルが上がらなくなってきたね。」

「ん~もう少しで今晩の宿が確保できますし、この先の事は明日考えるって事で良いんじゃないですか?先輩」

「そうだね。んじゃもうひと頑張りいきましょう!」


 気が付くと、夕暮れまで狩りをしていたようです。私達は予定通りの数を倒し、その触覚をギルドに持ち帰りました。


「はい。確かにクエスト指定の"虫の触覚"間違いありませんね。今、換金するから…そこのベンチで待ってな」


 私達は近くのベンチへ座り込む。よく見ると、先輩は少し気分が優れないのか、顔が青ざめている。


「なぁ…イサミン。私ちょっと気持ち悪いかも…イサミンも顔色悪いよ?大丈夫?」

「え…ええ…実は少し…」


 私は先輩に言われて、自分の血色も悪かった事に気付く。あとでギルドの受付から聞いたところ、になった人間が、そのあと気分が悪くなる現象はらしい。私達は報酬を受け取ると、真っ先に町の宿で二人部屋をとり、すぐにベッドへ倒れ込んだ。


「多分…力が高揚した気分ってレベルアップの事だと思うの…。この世界ではステータスを確認する事はできないそうだから、知らないうちにレベルが上がって、ステータスが上昇したことで、ハイになったのが原因じゃないかしら?」

「まさに、命名するなら『レベルアップ酔い』かな。レベルアップしてステータスポイントを振った時は良いけど、しばらくすると気持ち悪くなるし、その途中で更にレベルアップするとみたいだし…」


 私達はお互いのステータスを再確認することにした。


「イサミンのステはホントにバランスが取れているなぁ。体力も魔力もその影響で随分と高い数値になっている。まぁ私は生き残る事を重点に置いているから、VITとSTRを中心とした極振り。せっかく異世界に来たから、魔法を使って見たかったけど、体力消費で使用できるスキルがあるから、そっちでカバーしようと思ってる。」


「確かに、先輩はゲーム内でも盾型前衛タンカーでしたから、そっちの方が似合うかも。」


「でっしょ?あと、このドロップ品。」


 先輩はアイテムボックスから、いくつかのドロップ品を取り出す。これもスキルで存在していて、私達は共にレベル1を取得。二人で違う種類のアイテムを収納する事でカバーしていこうと言う事にしていた。武器・防具など同じ種類を持つ機会が少ないアイテムは1種類につき1個。ドロップ品や消耗品など、大量に持つ事が多いアイテムは、1種類につきある程度まとまって持てる事は確認した。


「そうね。クエストで必要なアイテムはギルドで回収してもらったけど、他のアイテムは使い道が分からない物ばかり。」

「鑑定のスキルがあれば、何か分かると思うんだけど…ん~私は『言語翻訳』に10も使っちゃったから、ポイント無駄にしたくないなぁ」


 先輩は、ここにきてスキルの全振りを後悔しているようです。しかし、一度設定したスキルをリセットする方法が分からないので、今はこのまま行くことにしました。


「私の取った『生活魔法』なら、『簡易鑑定』と言う追加スキルがありますけど…。表示言語が現地語なので…ね。テヘッ」

「でも、読めなくはないんだろ?」


「はい。だから先輩。私が知っているネトゲ言語と、この世界の言語がどれだけ似ているのか、その調査のためにも翻訳スキルは必要なんです。」

「分かってる。持ちつ持たれずの関係だな。イサミン期待してるよ」


 私達は会議のあと、食堂で夕飯を平らげると、部屋ですぐに眠りへと就くのでした。

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