第5話 冒険者組合(ギルド)

 田舎の町は都会とは違って、敷地が広くて街並みがスカスカなのはよくある事。街中をいくら散策しても冒険者組合ギルドのような看板を見つけられないのも田舎あるあるだからだろうか。


「イサミン。あれなんかソレらくない?」


 やっとの想いで見つけたソレは、看板がボロボロの状態で、実は何度も通り過ぎていた場所ところにあった。


「信じられない…。この国のギルドってこんなに退れてるの?」

「ん~田舎過ぎて依頼があまり来ないとか?」


 中に入ってみると良く分かった。


「人が…いない…ね」

「ホントにギルド…よね」


 依頼が書かれている羊皮紙はあるものの、人影が全くない。この国にはが少なかったのです。


「いらっしゃぁぁぁぁい」


 受付もなかなかのおばさんで、これでは新規登録する旅人もいないわけだと納得してみる。


「あ…あのぉ私達…」

「聞いてるよ!あんた達異世界から来たんだって?ずっと待ってたんだけどさぁ。全然来ないから、やっぱりこんな町、とっとと出て行ったのかしらとギルマスと話してたんだよねぇ(※:翻訳してもらってます)」


 聞くところによると、魔族の出現によりその最前線の国がこぞって冒険者を募集している影響で、地方のギルド拠点に予算を回せず、本来支払えるはずの高額依頼でも、安く請け負わざるを得ない状況にあるそうです。


「そりゃあ、この辺は比較的平和だから冒険者も来ないわけだわ」


 しかし、登録しなければお金を稼げない。私達はとりあえず当面の資金を稼ぐため、ギルドに登録することにしました。


「文字も書けないなんて、あんた才能無いねぇ(※:先輩が悪意ある通訳をしているようです)」


 時々、先輩が私を弄って来るようですが、適当に受け流しておきました。ギルドのランクはD。本来はFから始まるそうですが、ここのギルマスさんが背に腹は代えられぬと、本部に内緒でDランクスタートする事になりました。


「えっと登録名は、『イサミン』と『カナカナ』でよろしいですか?」

「あ~はい。それで。」


 登録が終わったようですが、言葉がまだ理解できなかった私は、先輩から登録名を聞かされて唖然としました。


「ま…まさか、その名前で登録したんですかぁ!?」

「いいじゃん。ネトゲん時からその名前だったし、何か問題ある?」


 です。そもそも、そのキャラ名は私の黒歴史。これでも一応『勇者』として名を遺す事になるかもしれない名前が、黒歴史なんて恥ずかしすぎます。


「はぁ…先輩に任せた私が悪かったのです。元々もうその名前で呼ばれてますし、そこは妥協します。」

「あら…イサミンったら、やけに素直ね」


「ここは異世界です。元の世界に戻ったら異世界での異名なんて関係無いですよね」

「ま…まぁね…。てっきり怒って名前を変えさせるのかと思った。」


 先輩はいつも通り、私の事をよく理解していると思いました。私の本音はすぐにでも元の世界は帰りたいと言う事。焦るあまりガチガチに緊張していたのですが、先輩のこういった弄りは逆に、私の心を少しだけ冷静にさせてくれたのです。


「先輩…今日は時間があまり無いのですが、何かすぐできそうなクエストはあるのですか?」


 すると先輩は、依頼一覧に目を通し始めた。私もゆっくりと一覧を観察する事にしました。さすがに自動翻訳のかかっている先輩は、サクサクと内容を確認していく。


「これなんかどう?『町のゴキブリ退治』」

「先輩…。元の世界でもG退は、やった事あるのですか?」


「無いよ」


 即答ですか。そうツッこむ私も、はあっても退は無かった。


「なんか写真…みたいな、絵とか無いの?」


 私は先輩に聞いてみたが、写真はおろか絵すら無かった。


「特徴は書いてあるので、それっぽいのを探す?それとも、イサミンが得意の画力で書いてみる?」


 無ければ作ればいい。私はコミケで培った同人画力をフルに生かして、特徴の通りに…。地面に絵を書いた。


「ん?これってどこかで見た事ない?」

「あ~これって、イサミンがさっき燃やしてたヤツじゃね?」


「そう…だよね」


 ギルドへ行く前に石包丁作りをしていた頃、河原の周囲で飛び回ってて気持ち悪かったソレは、触らぬように火魔法で燃やしていたのです。


「えっと、この虫の『触覚』を証拠として提出。だってさ。」

「無理無理無理無理無理。絶対無理!!と言うか、見た目はGっぽくなかったけど、Gって言われたらGに見えてきたじゃないの」


 私にとって難しい話では無かった。報酬も『触覚20個につき銅貨1枚』で、少なくとも40個の触覚。計20匹のGを退治するだけで、素泊まり二人分は確定する。最大で銅貨10枚を約束する依頼だったので、先輩は選んだのだろう。


「はぁ…火魔法だと燃えてしまうから、形をどうにか残しながら倒さないといけないってどんな無理ゲーなんですか…」

「イサミンお得意の『面』で、ばっさばっさやってしまえば?」


「そんなに都合の良い事はできません。せめてさえあればなぁ…」


 しかし、お金が無ければ武器は買えない。武器が無ければクエストが進められない。その悪夢の螺旋が頭の中をグルグル回り、私は思考が止まりそうになりました。


「なぁ…イサミン。ってのは現実的に可能なのかな?」


 先輩は相変わらず突拍子もない事を言い出す。武器も無いのに魔法剣も無いでしょうと思いましたが、言葉には出さず少し考えてみました。


「先輩。私達、が無いんじゃないですか?」


 ざっとかみ砕いて、でも本当の事を先輩にぶつけてみる。すると、先輩は人差し指を左右に振って、なにやらドヤ顔をしている。


「イサミン。こん棒だよ。あ~言い換えれば、その辺の木の枝か棒を武器にして、聖属性を付与して戦えば勝てるんじゃない?」

「あ…」


 私は失念していた。無い物は作れば良いの概念からすれば、ただの『木の棒』も立派な武器なのだ。しかしSTR1の私が武器を持ったところで決定的なダメージを与えられず勝ち目は無い。


「そうか…だからこのステータス補修なのか…」


 私は思い出しました。私自身が異世界の人間で、ステータスポイントが余りまくっている事に…。チートキャラ万歳。この際も、バランスの良いステータス配分もどうでも良かった。


「先輩。一筋の光が見えてきましたよ」


 さあ。目指せ!異世界最初のベッドで快眠を!

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